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部屋の意味
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「・・・・わぁ・・・・」
微かだが、風に乗って声が聞こえた。
私達はハッとして顔を見合わせる。お互いの頭の中には由美子達の最悪なケースがよぎったと見える。司は唇を強く結ぶと
「焦るな・・・大丈夫だ・・ここにじっとして時間が経つのを待つのもいいけど、やっぱり合流したほうがいい。何か…何かないか・・・」
司は、自分に言い聞かせるように言い頭を抱えた。
携帯が二時を表示した時、考え込んでいた司が話し出した。
「お前のお祖母ちゃんが言っていた事。影を踏まれてしまうと、今度は自分が影になる・・・これって・・・・何か影鬼に似てないか?」
「影鬼?」
「知らない?影鬼とか影踏みとも言うんだけどさ。俺小さい頃よくやったよ。何人でやってもいいんだけど、一人鬼がいるんだ。その鬼が、皆の影を踏むために追いかける。踏まれたくないみんなはダッシュで逃げるんだけどさ。鬼に影を踏まれたら、踏まれた奴が今度は鬼になる」
「へぇ~。そんな遊びがあるの。知らなかったわ。でも、影を踏まれたくなかったら、建物の影とかに入っちゃえばよくない?」
「そう、確かに影の中に自分の影を隠せばいいんだけど、それだとフェアじゃないだろ?だから、入ったとしても時間制限があるんだ。十秒だけいられるとかね」
「ふ~ん。確かに、お祖母ちゃんが話してくれたのと似てるようだけど・・・司が遊んでたその影鬼って、その鬼に勝つには・・」
「逃げ切るしかない」
絶望的な感じがした。
あんな奴からどうやって逃げ切りながら、由美子達と合流しこの村から脱出したらいいのか。
「あっ。ちょっと待って。お母さんに聞いてみる。何か知ってるかもしれないから」
「あ、ナイス!電話してみて!」
握りしめていたせいで汗でびっしょり濡れた携帯で母親に電話をかける。もう寝てるだろうが、そんな事関係ない。長い間呼び出し音が鳴っていたが、ようやく不機嫌な声の母親が出てくれた。
「あ、お母さん?もしもし?」
「何?どうしたのよ・・・」
「あのね、黒い奴!黒い奴が出て!」
母親の声を聞いた私は安心と焦りが入り交じり、上手く話すことが出来ない。
「黒い奴?・・・黒い・・・あんた!無事なの!一人?友達は?」
突然母親の声色が変わった。驚きと恐怖の混ざったような声だ。
「うん。無事・・・今、司と一緒にいる・・・お母さんどうしよう」
「まず、落ち着きなさい。落ち着いてお母さんの話をよ~く聞くのよ」
「うん」
「昔、お母さんが中学生の頃お祖母ちゃんから聞いた事があるの」
母の話はこうだ。
母が中学生の頃、あの部屋を偶然見つけてしまった。(あの祭壇がある部屋の事だ)母親に、つまり私の祖母に聞いてみると
「この部屋は大切な部屋」
と言われたらしい。勿論その答えに対し「ああそうですか」と簡単に受け取ることは出来ない。産まれ育った家の中に、自分が知らない部屋があったのである。母は、しつこく祖母に聞いたらしい。それでも中々話してくれなかった祖母だったが、ついに根負けしたのか話してくれたと言う。
「昔ね。私が小さい頃・・・七歳ぐらいだったかしら。その時近所の子供達と遊んでいたの。その頃はこの辺りももっと家が多くて、子供達も多かった。
ある日、家でお昼を食べた後みんなで集まって遊んだの。その時集まったのは、十人ぐらいいたかしら。小さい兄弟を連れた友達もいてね。昔は上の子が下の子を面倒見るのが当たり前だった。だから、自分達よりも小さい子がいても何の不思議もないのよね。初めは良かったの。かくれんぼや鬼ごっこ。色んな遊びをしていたらあっという間に夕方になってね。みんな遊びの途中だったんだけど、親に叱られるから帰ろうって事になって集まったんだけど健一君の弟が見つからなくて。しんちゃんって言う子なんだけどね。みんなで探し回ったわ。段々日が暮れる中、いくら探しても見つからない。他の友達が急いで大人を呼びに行った・・・・その二日後に見つかった・・・行ってはならないって言われていた場所で。そこには沼があるの。村のみんなは底なし沼だなんて言ってた。危険だから近付くなと・・・しんちゃんはその沼の中から見つかった。全身泥だらけで、目をつむっているから目や鼻、口が無い人形の様だった。・・・ん?ああ見たよ。大人たちに見ちゃいけないって怒られたけど・・・・しんちゃんには悪いけど心配より興味の方が強かったからね。それからだよ。村で変な話が出回り始めたのは。仕事で遅くなった近所のご主人が、歩いて家路についている時、真っ黒な人を見たってね。その他にも何人もの人が見ていたらしい。最初は、誰も信じていなかったけど、ある事をきっかけに信じるようになったの。
月が綺麗に真ん丸だった夜。私の友達のえっちゃん家族四人が、親戚の家を出て歩いて帰っている最中に起こったの。真っ黒な人が突然追いかけて来たって、えっちゃんは泥だらけになって近所の家に飛び込んで助かったんだけど・・・後の家族が行方不明になってね。その後、えっちゃんは親戚の家で暮らすことになったんだけど、高校卒業と同時に村を出て行ってしまった。きっと、辛かったんだろうね。・・・・え?その話と、あの部屋とどう関係があるのかって?そうだね。少し話が長くなってしまったね。あの部屋はね、結論から言えばしんちゃんに帰ってもらうようにお願いをする部屋なんだよ。・・・・・・え?どうして、その黒い人間がしんちゃんになるかだって?それは・・・」
そこで祖母は長い長い沈黙になったという。
固唾をのみながら聞いていた母親は、辛抱強く待っていたが次第に不安になってきた。祖母が固まってしまったのではと思ったらしい。それ程祖母は微動だにせず黙っていたという。
「お母さん?」
「あ・・・ごめんね。村の人がそう言ってたからそうじゃないかと思っただけなの。だから、しんちゃんに天国に帰ってもらうようにお祈りをするようになった・・・と言う訳」
何だか最後は、あやふやにされたような感じがしたがそれ以上祖母は、その事について話をすることは一切なかったという。
「・・・・・と、言う訳。早口で話しちゃったけど大丈夫?」
「なんとか」
「私は夜の外出が禁止されてたから、その黒い人には会った事ないけど、噂なら聞いた事がある。会ってしまった時の解決策は二つ。一つは夜明けを待つこと。二つ目は夜明け前にしんちゃんを沼に返す事」
「え?沼に返す?」
私が突然そんな事を言ったものだから、司は不思議そうな顔で私を見た。
「そう。でもこれはその黒い人・・・しんちゃんに誰かが捕まった場合らしいわ。とても危険らしいの。捕まっていない人が、しんちゃんに捕まらないように沼まで誘導して、自分から入って行くようにしなくてはいけない。そうすれば、いずれ捕まった者はみんなの元へ帰る・・・お母さんが知ってることはこれで全て」
「そんな事・・・」
「出来ないわよね。だから、一つ目の夜明けを待つしかないのよ。あんた、今どこにいるの?」
「納屋の中」
「そう。もし出来るのならジッと朝まで隠れてなさい」
「でも、由美子達が危ないかもしれないの」
「どういう事?」
私は肝試しの事を話した。
「はぁ~。お母さん注意したよね?・・・・冷たいようだけどお母さんじゃどうにも出来ないわ。由美子ちゃん達がうまく逃げてくれるのを祈るしかないよ」
「そんな・・・」
「いい?とにかく!ジッとして朝を待つのよ!お母さんも急いでそっちへ行くから!」
「・・・分かった」
電話を切ると
「何て?」
司が食いつくように聞いてきた。
「うん・・・あの・・・」
私は今聞いた事をそのまま司へ話す。
「マジか・・・一番安全そうなのは夜明けを待つって方法だけど・・・」
「それを由美子達にも伝えなくちゃ。でも、むやみに電話できないよね。アイツに・・しんちゃんにばれるかもしれないし」
「そうなんだよ」
携帯の時計を見ると二時半になっている。
「やっぱり合流しよう」
「え・・・」
私は内心嫌だった。由美子には悪いが、このままここで朝が来るのをじっと待ちたいと思っていた。しかし、司は違うらしい。
「助かる方法を知っているのに、アイツらに知らせないなんて見殺しにするようなもんだろ?そんな事はしたくない。行こう」
司は腰を上げた。
私はそんな司を見て疎ましく思ってしまったが、一人でここにいる気にもなれないので一緒に行くことにした。
微かだが、風に乗って声が聞こえた。
私達はハッとして顔を見合わせる。お互いの頭の中には由美子達の最悪なケースがよぎったと見える。司は唇を強く結ぶと
「焦るな・・・大丈夫だ・・ここにじっとして時間が経つのを待つのもいいけど、やっぱり合流したほうがいい。何か…何かないか・・・」
司は、自分に言い聞かせるように言い頭を抱えた。
携帯が二時を表示した時、考え込んでいた司が話し出した。
「お前のお祖母ちゃんが言っていた事。影を踏まれてしまうと、今度は自分が影になる・・・これって・・・・何か影鬼に似てないか?」
「影鬼?」
「知らない?影鬼とか影踏みとも言うんだけどさ。俺小さい頃よくやったよ。何人でやってもいいんだけど、一人鬼がいるんだ。その鬼が、皆の影を踏むために追いかける。踏まれたくないみんなはダッシュで逃げるんだけどさ。鬼に影を踏まれたら、踏まれた奴が今度は鬼になる」
「へぇ~。そんな遊びがあるの。知らなかったわ。でも、影を踏まれたくなかったら、建物の影とかに入っちゃえばよくない?」
「そう、確かに影の中に自分の影を隠せばいいんだけど、それだとフェアじゃないだろ?だから、入ったとしても時間制限があるんだ。十秒だけいられるとかね」
「ふ~ん。確かに、お祖母ちゃんが話してくれたのと似てるようだけど・・・司が遊んでたその影鬼って、その鬼に勝つには・・」
「逃げ切るしかない」
絶望的な感じがした。
あんな奴からどうやって逃げ切りながら、由美子達と合流しこの村から脱出したらいいのか。
「あっ。ちょっと待って。お母さんに聞いてみる。何か知ってるかもしれないから」
「あ、ナイス!電話してみて!」
握りしめていたせいで汗でびっしょり濡れた携帯で母親に電話をかける。もう寝てるだろうが、そんな事関係ない。長い間呼び出し音が鳴っていたが、ようやく不機嫌な声の母親が出てくれた。
「あ、お母さん?もしもし?」
「何?どうしたのよ・・・」
「あのね、黒い奴!黒い奴が出て!」
母親の声を聞いた私は安心と焦りが入り交じり、上手く話すことが出来ない。
「黒い奴?・・・黒い・・・あんた!無事なの!一人?友達は?」
突然母親の声色が変わった。驚きと恐怖の混ざったような声だ。
「うん。無事・・・今、司と一緒にいる・・・お母さんどうしよう」
「まず、落ち着きなさい。落ち着いてお母さんの話をよ~く聞くのよ」
「うん」
「昔、お母さんが中学生の頃お祖母ちゃんから聞いた事があるの」
母の話はこうだ。
母が中学生の頃、あの部屋を偶然見つけてしまった。(あの祭壇がある部屋の事だ)母親に、つまり私の祖母に聞いてみると
「この部屋は大切な部屋」
と言われたらしい。勿論その答えに対し「ああそうですか」と簡単に受け取ることは出来ない。産まれ育った家の中に、自分が知らない部屋があったのである。母は、しつこく祖母に聞いたらしい。それでも中々話してくれなかった祖母だったが、ついに根負けしたのか話してくれたと言う。
「昔ね。私が小さい頃・・・七歳ぐらいだったかしら。その時近所の子供達と遊んでいたの。その頃はこの辺りももっと家が多くて、子供達も多かった。
ある日、家でお昼を食べた後みんなで集まって遊んだの。その時集まったのは、十人ぐらいいたかしら。小さい兄弟を連れた友達もいてね。昔は上の子が下の子を面倒見るのが当たり前だった。だから、自分達よりも小さい子がいても何の不思議もないのよね。初めは良かったの。かくれんぼや鬼ごっこ。色んな遊びをしていたらあっという間に夕方になってね。みんな遊びの途中だったんだけど、親に叱られるから帰ろうって事になって集まったんだけど健一君の弟が見つからなくて。しんちゃんって言う子なんだけどね。みんなで探し回ったわ。段々日が暮れる中、いくら探しても見つからない。他の友達が急いで大人を呼びに行った・・・・その二日後に見つかった・・・行ってはならないって言われていた場所で。そこには沼があるの。村のみんなは底なし沼だなんて言ってた。危険だから近付くなと・・・しんちゃんはその沼の中から見つかった。全身泥だらけで、目をつむっているから目や鼻、口が無い人形の様だった。・・・ん?ああ見たよ。大人たちに見ちゃいけないって怒られたけど・・・・しんちゃんには悪いけど心配より興味の方が強かったからね。それからだよ。村で変な話が出回り始めたのは。仕事で遅くなった近所のご主人が、歩いて家路についている時、真っ黒な人を見たってね。その他にも何人もの人が見ていたらしい。最初は、誰も信じていなかったけど、ある事をきっかけに信じるようになったの。
月が綺麗に真ん丸だった夜。私の友達のえっちゃん家族四人が、親戚の家を出て歩いて帰っている最中に起こったの。真っ黒な人が突然追いかけて来たって、えっちゃんは泥だらけになって近所の家に飛び込んで助かったんだけど・・・後の家族が行方不明になってね。その後、えっちゃんは親戚の家で暮らすことになったんだけど、高校卒業と同時に村を出て行ってしまった。きっと、辛かったんだろうね。・・・・え?その話と、あの部屋とどう関係があるのかって?そうだね。少し話が長くなってしまったね。あの部屋はね、結論から言えばしんちゃんに帰ってもらうようにお願いをする部屋なんだよ。・・・・・・え?どうして、その黒い人間がしんちゃんになるかだって?それは・・・」
そこで祖母は長い長い沈黙になったという。
固唾をのみながら聞いていた母親は、辛抱強く待っていたが次第に不安になってきた。祖母が固まってしまったのではと思ったらしい。それ程祖母は微動だにせず黙っていたという。
「お母さん?」
「あ・・・ごめんね。村の人がそう言ってたからそうじゃないかと思っただけなの。だから、しんちゃんに天国に帰ってもらうようにお祈りをするようになった・・・と言う訳」
何だか最後は、あやふやにされたような感じがしたがそれ以上祖母は、その事について話をすることは一切なかったという。
「・・・・・と、言う訳。早口で話しちゃったけど大丈夫?」
「なんとか」
「私は夜の外出が禁止されてたから、その黒い人には会った事ないけど、噂なら聞いた事がある。会ってしまった時の解決策は二つ。一つは夜明けを待つこと。二つ目は夜明け前にしんちゃんを沼に返す事」
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「そう。でもこれはその黒い人・・・しんちゃんに誰かが捕まった場合らしいわ。とても危険らしいの。捕まっていない人が、しんちゃんに捕まらないように沼まで誘導して、自分から入って行くようにしなくてはいけない。そうすれば、いずれ捕まった者はみんなの元へ帰る・・・お母さんが知ってることはこれで全て」
「そんな事・・・」
「出来ないわよね。だから、一つ目の夜明けを待つしかないのよ。あんた、今どこにいるの?」
「納屋の中」
「そう。もし出来るのならジッと朝まで隠れてなさい」
「でも、由美子達が危ないかもしれないの」
「どういう事?」
私は肝試しの事を話した。
「はぁ~。お母さん注意したよね?・・・・冷たいようだけどお母さんじゃどうにも出来ないわ。由美子ちゃん達がうまく逃げてくれるのを祈るしかないよ」
「そんな・・・」
「いい?とにかく!ジッとして朝を待つのよ!お母さんも急いでそっちへ行くから!」
「・・・分かった」
電話を切ると
「何て?」
司が食いつくように聞いてきた。
「うん・・・あの・・・」
私は今聞いた事をそのまま司へ話す。
「マジか・・・一番安全そうなのは夜明けを待つって方法だけど・・・」
「それを由美子達にも伝えなくちゃ。でも、むやみに電話できないよね。アイツに・・しんちゃんにばれるかもしれないし」
「そうなんだよ」
携帯の時計を見ると二時半になっている。
「やっぱり合流しよう」
「え・・・」
私は内心嫌だった。由美子には悪いが、このままここで朝が来るのをじっと待ちたいと思っていた。しかし、司は違うらしい。
「助かる方法を知っているのに、アイツらに知らせないなんて見殺しにするようなもんだろ?そんな事はしたくない。行こう」
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