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しおりを挟む「君がミランダ嬢かね。ほう、君が……」
青筋を立て自分の前に座る紳士はガルシア侯爵その人だった。
フィリップとは似ておらず、いかつい顔をしていて、怒ると余計に顔が怖い。
フィリップを言い包めた翌日、彼は息子と一緒にモリス伯爵家に乗り込んできたのだ。
所謂「お前、うちの息子の何が気に入らないんだ。ああん?」的な話をしに……
「は、い……」
青褪めるミランダと震え上がる両親、怒り狂う侯爵、無表情のままに俯くフィリップ。
集うは屋敷の一室なのに、伯爵家全体が緊張に張り詰めた。
「こ、侯爵様……ミランダはその、フィリップ様の為に身を引いた。と言いますか……多分……」
娘に同意を求めながら恐る恐る告げる父をギッと睨みつけ、侯爵はミランダに目を向けた。
「聞くところによると、かれこれフィリップは二年も弄ばれたのだとか? それを更に二年とは……この子の優しさにつけ込んで婚約を焦らすとは……息子が可哀想ではないのかね」
ミランダは視線を彷徨わせた。
「え、と……別に弄んでいる訳では……」
「うちの子の何が気に入らないんだ!」
侯爵がガンッとテーブルを叩き、母がヒィと息を飲む。ミランダは慌てて声を張った。
「き、気に入らない訳では無いんです。ただその、身分差……と年齢……が気になりまして……すみません、我が家程度の家門ではガルシア侯爵家には相応しくありませんでしょう?」
怖いので。できるだけ殊勝な態度を意識する。
だから横から飛んでくる父からの、心外だ! という視線はまるっと無視しておいた。今は目先の恐怖から逃れるのに精一杯なのだから。
すると侯爵は器用に片眉を上げ、僅かに表情を緩めた。
「つまり私の反対を気にしていると?」
「ええと、あの……つまりそうです……大切なご子息でしょうし……相応の相手を娶せられた方がよろしいかと……」
「何だそんな事か、なら私は息子の意見を尊重するから何も問題ない」
侯爵はぽんと膝を打った。
「えっ」
あっさりと応じる侯爵に、ミランダは口を丸く開けた。
「私は息子の見る目を信じる」
いやいやいや。
「良かった、お父様ありがとうございます」
無表情のままお礼を口にするフィリップに慌てて視線を送る。
「あのっ?」
「良かったなフィリップ」
「はい」
そのまま父子は目の前でハイタッチをしていた。……フィリップは変わらぬ無表情で。
……十四歳の息子の恋愛事情に親が出てくるってどなのだろう?
そもそも伯爵家下位のモリス家と縁付いて、由緒正しいガルシア家が得られるものなんて思いつかない。
ミランダは混乱したが、結局その後も無言の圧に耐えられず。
結果二人が持参した婚約届にサインしてしまった。
無表情のまま嬉々として婚約届を掲げるフィリップを微笑ましく見つめる侯爵。その図に呆気に取られるモリス一家だった。
こうしてミランダはフィリップの婚約者となった。
分不相応な身分に四方から飛んでくるトゲトゲトゲ。
正直かなりうんざりしたものの、持ち前の前向きな性格が幸いし早々に開き直れた。それにフィリップの一途すぎる熱量にも慣れた。
どうやら侯爵もまた一途の人なようで。フィリップは彼の亡き母に類似しているらしく、妻を溺愛していた侯爵は息子に甘い。
そんな理由なのか、侯爵家の面々はミランダに良くしてくれた。
因みにフィリップは外見は母親似で、中身は父親に似たようだ。
基本父子二人は無表情。更に愛想がない上、侯爵に至っては怒ると顔が怖いというおまけ付きだ。
おかげでミランダは最初緊張しっぱなしだった。
けれどフィリップはミランダの婚約者として精一杯頑張ってくれた。
本人も年下である事は気にしているようで、それを埋めんばかりに努力する姿は微笑ましい。
爵位を継ぐまでと騎士団に志願もしたのだが、それも少しでもミランダに近付きたくて、背伸びしたかったようだ。
やがて侯爵もまた怖いのは顔だけで、心根は優しい人だと知り。ミランダは二人が大好きになった。
そしてフィリップは、今やすっかり逞しくなった体躯と合わせ、何だか迫力のある美男子へと成長してしまった。
彼の細やかな表情の変化を見つけては喜びを感じる程、今やミランダもすっかり彼に絆されている。
「十八歳になったら直ぐに結婚する」
だからいつものような一方的な宣言にも、微笑んで応じた。
そんな挙式まであとひと月という今、訪れた少女の話……
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