~短編集~≪R18有り≫

槇村香月

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天馬、総攻記 <プロローグストーリー>

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   *
「天馬、尻、だせ。今すぐ」
「は………?」


会社の営業帰り。
清川と取引先へ行った帰り道で、突然そんなことを言われた。
まだ日がある夕方である。
人の目だって、あった。

「正気…?」
「ああ。いますぐやりてぇ…」

息を飲み、清川の顔をまじまじと見つめる。
その顔には、嘘を言っている様子はない。
本気で僕に命じているのだった。

普通の人間であれば、冗談で片付けられるかもしれないが相手は清川だ。
どんな無茶だって彼は至極当然のように言ってくるのだ。
自分本位で他人の事なんて顧みない。
清川が白だといえば、黒だって無理やり白になってしまうのだ。


「こんなとこじゃむりだよ…人に見られちゃう」
「あ?見られてもいいだろ?今までだって他人に見られたことあったじゃねぇか。
お前も見られたことに興奮して、いつもより感じてただろ?」
「でも…」
「つべこべいわず、お前はただ、俺の言うこと聞けばいいんだよ」

ただでさえ、人に怖がられている三白眼を更に鋭くして、僕を睨みつける、清川。
清川は僕が口答えするとすぐ怒る。
怒った清川は本当に手がつけられない。

「わ、わかったよ……」
僕は、観念して、清川に歩をあわせた。
清川は僕の返事にますます眉間にシワを寄せながら、僕の手を無理矢理ひいて、ズカズカと歩いていく。

清川は今日凄い機嫌が悪いようだった。
嫌いな清川のことだけど、恐らく僕は他の4人よりも彼の喜怒哀楽の感情を察することができると自負できる。
清川だけじゃない。ほかの4人のことだってそうだ。
他人の…実の親ですら知らない本性を、彼らは惜しげもなく僕には晒してくる。
だから、なんとなく彼らの喜怒哀楽なんかは、誰よりもわかるようになっていた。
嫌いな相手のことを一番理解しているなんて皮肉である。

そして、今、清川はなにが原因かは知らないけれど、最高に機嫌が悪くみえた。


「っ…。ムカつく……。ビクビクしやがって……」
「清川…まって、はやいよ…」
「うるせぇ」

清川に連れられたのは、寂れた公園にあるトイレだった。
清川は僕を連れ込むと、一番奥の個室に僕を無理矢理入れた。
そして逃げようとする間もなく、トイレの個室のドアを閉められて、僕を壁に押し付けた。


「ねぇ、ほんとに…」
「あぁ?うっせぇな…」

清川はイライラと呟くと、僕の服に手をかける。
片手で2、3個ボタンを外し、シャツをはだけさせると、肌に手を滑らせていく。
空いている手で、ペニスを掴むとゆっくりと愛撫していった。

「清川…や…っ、んんっ…」
抗う言葉は、荒々しいキスで消える。
清川のことは嫌いだし、セックスも嫌いなのに。
キスをされると、肌が戦慄いて、胸が痛いほどに高鳴ってしまう。
角度を変えて落とされる口づけに、うっとりと恍惚じみた表情を浮かべてしまう。
清川のことなんて、嫌いなのに。

僕が弱いから、こうして清川は僕をいたぶるのだろうか。
僕が、もしも。
清川より強ければ。
清川より大きければ。
清川より頭がよければ………


「集中……しろ……よ。ちゃんと」
「んんん………」

耳朶を食まれ、ぞくぞくと戦慄が走った。
はしたなく、腰が揺れる。
こんな、真昼間から……
こんな事、して。

悔しくて、唇を噛みしめる。
清川はそれに嬉しそうな笑みを浮かべながら、僕の目尻にキスを落とした。

「嫌だっても、お前は受け入れているんだよ…男を。欲しがっているんだ。この身体は」
淫らな言葉が僕を嬲る。

「淫乱が・・・」
吐き捨てた言葉とともに、清川は己のものを僕の中に挿入した。
淫乱か。
でも・・・、こんな風に変えたのは、お前だろう・・・?
清川。



結局、真昼間から、されてしまった。
しかも、最後の方は僕の口からもっと…と清川を求める言葉を言わされた。
清川は何回かやって満足したのか、放心している僕を残して、公園のトイレから姿を消した。

僕を抱いている時は機嫌がよくなっていたのだが、抱き終わるとまた、不機嫌になったようで、逃げるようにその場から消え去ってしまった。

一回も僕の方など振り返ることなどなく、清川は僕を置き去りにした。
清川は僕に対していつもそうだ。
清川だけじゃない、僕を虐める他のやつらも。
何度こんなこんな行為をしたって優しくしてくれないし、愛してくれない。
誰も、僕なんかみてくれない。
誰も、僕なんか相手にしてくれない。
僕を人間として、みてくれないんだ。
性欲の吐け口として、ストレス解消として、僕を抱いているんだ。
そこに愛なんてない。
一体、いつまで。
いつまでこんなこと、続けていくんだろう。


「……っく……」
「おい、こいつじゃねぇか?」
「…え?」

トイレに蹲っていた僕に、笑いを含んだ声がかかった。
どこか不快に感じるその声のほうを見ると、見たこともない男たちがたっていた。


「だ、だれ・・・」
「だれ、だって。可愛いなぁ・・・」

見知らぬ男は、にやにやと嫌な笑いを浮かべながら僕に近づいてきた。
男は一人ではない複数人…。僕に声をかけてきた男と、その後ろにたつ数人の男がいた。

逃げなくては・・・。頭の中、警報が鳴り響く。
逃げなくては。一刻も早く、ここから逃げなくては。
絶対に、近寄っていい人間ではない。


「おっと、逃がさないよ」

逃げまとう僕を男の一人が腕を取った。
男は僕の両手をつかみあげると、追い詰めるように僕をトイレの壁に押し付けて、顔を近づけた。


「依頼人に高額で頼まれたんだからね。楽しめるように、滅茶苦茶に調教して、って」
「い・・・らい・・・にん・・・って?」
「そ、君を淫乱にしてってね。さ、お薬塗ろうか」

男はピンクの小瓶を取り出すと、周りにいた男たちに僕を拘束するように指示する。
複数に華奢の僕なんかが、到底かなうはずなくて。


「や…やめて…、お願い…」
「ダメダメ、これも仕事なんだからさ」
足を無理矢理広げられ、奥まった部分に無理矢理指を入れられる。
ベトベトとした液体を塗りこまれると、たちまち身体の奥底が熱くなりほてっていく。
頭がおかしくなるくらい、塗り込まれたところがしびれる。
発狂しそうなくらい、その刺激は強くて。


「かゆい…か…かゆいよぉ助けて助けて助けて…」

「いいぜ…よくしてやる。天国にイかせてやるよ…、うさぎちゃん」
男たちはそういって、鞄から淫猥なオモチャを取り出した。
あまりの手際の良さに、こうすることをずっと狙っていたのかと考えてしまう。
男たちは依頼人の計画といっていた。
依頼人に頼まれてこんなことを?
まさか清川たちが、いつもと傾向を変えてこんなことを?



「ん・・・ああああああ、やあああああああ」
「あーあ。うさぎちゃん、グズグズだね…。ちんこダラダラ泣いちゃってるじゃん」

二輪刺し、二穴。ニプルファック、騎乗位、セルフ顔射。
それは長い時間をかけた陵辱だった。

今まで味わったことないくらいの、終わらない責め苦。
薬を使われて、快楽を無理矢理引き出され、何人もの男と交じり合う。
性欲を解消するためだけに。
狂気、といっていいほどの、ひどい陵辱だった。


長い攻めが終わったのは、夜明け数時間前のようだった。


「立派な肉便器になったな…、まさか、ここまでなんてね…。
予想以上の仕事ができたよ」

男たちは白い白濁で濡れ放心した僕を見て、笑った。
肉便器です、使ってね。
そう、マジックで書かれた僕のお腹。


 精液まみれの僕は、もう何もする気がおきず、ただぼぉっとトイレの壁を見ていた。
ただ、静かに涙が流れるだけ。
いつの間にか、男たちの姿はなくなっていた。


「…くっ…ぅ…」
「悔しいか?」
「………っ」

静かに泣いていた僕の頭上から、見知らぬ男の声がかかった。また、誰かきたのだろうか。
恐々と声の方に視線を移すと、そこには、この季節に不似合いな全身真っ黒の服をきた人間がいた。
腰まである長髪に真っ黒の服。
髪はカラス貝のように黒く、目は寒気を感じるほどに冷たい。
肌もびっくりするくらい白く生気がなかった。
ハッとするような美貌をしているのだが、生きた人間とは思えないくらい血の気がない。
この真夏の炎天下のなか、汗ひとつかかずに真っ黒のスーツを涼し気な顔をしているのは…不気味すぎた。
まるで、死に神のようだ。


「ぶざまだな……」

男は僕の身体を見下ろして、汚いものをみるように眉を潜めた。かぁ…と頭に血が上り、恥ずかしさと怒りの感情が込み上げてきたものの、今更かと思い直す。
こんな乱暴なこと5人はやってこなかったけれど、行為としては同じだ。
今更、恥ずかしがるほど、経験がないわけじゃない。

早くでていってくれ。
そう願いながら。


しかし、男は僕の願いを裏切り、じわりじわりと歩を進め僕の側に近づいた。
そして、僕の目の前にくると腰を曲げ、僕の顎をとり無理矢理上を向かせた。


「なに……」
「…まだそんな目が出来るんじゃないか……。」

そんな、目?
どんな、目?

男は僕の顎を持ったまま、僕の顔をまじまじと覗く。

品定めされているようだ。視線から逃れたくて俯きたくて仕方がなかったが、あいにく、顎はしっかり取られたままだ。

やられてしまうんだろうか。この男にも。
一瞬恐怖で体が固まったが、すぐさまその思考を脳内から消す。
そうだ、今更だ。
今更誰にどんなことをされたって傷つくはずがない。
もう僕はズタズタにされているんだから。
一回も二回も同じことなのだ。
僕の身体はとっくのむかしに、あの5人に女のように抱かれている。

男は数分、その冷たい目で僕を見つめ、やがて突然手を離した。
そして、唐突に小さい声で言った。

「復讐、したくないか」と。

「…え」
「復讐だよ。お前を泣かせた人間全てを。平伏せたく、ないか?」
「な、なんでそんな……こと……」
「お前は…、幼馴染の男たちに、人生を縛られているんだろう?だから、復讐したくないかといっているんだ」

なんで、僕が虐められている事知っているんだろう。
この服の有様だからだろうか。
それとも、清川と僕のやりとりを見ていた?

男は警戒している僕に、ニヤ、っと不気味に口に笑みを浮かべた。

そして薄い唇を開き、言ったのだ。

「私のものになるのなら、お前の人生を変えてやる」と。

「…あなたの……もの?」

どういう、意味?

そう聞き返そうとしたけれど、見計らったように、男は僕の唇を貪った。


突然の、キスに頭が真っ白になる。
キスは、甘く、思考を奪うような毒があるようだった。


「弱者が強者を翻弄させる。俺はその統べを教えてやろう。」
「ほん、ろう……?」
「大丈夫だ。お前は俺のいうとおりにすればいい。
そうしたらお前は復讐できるさ」

キスされて、頭がぼんやりする。
まるでもやがかかったみたいだ。

正常な、判断ができない。
こんな怪しい男なのに、なんで僕はつっぱねる事が出来ないんだろうか…。
ぼんやりとしている僕の腰を男は支えると、尚も耳元で小声で言葉を零す。


「お前を、泣かせたやつらに復讐を」
「……清川、たち……に……」
「あぁ、俺がいれば簡単だ。俺は死神なのだから。
だから言うんだ。俺と契約すると。そうすればお前は自由になれるんだ」

自由……。
本当に?

「お前をこんな風にした男たちをひざまづかせるんだ。お前が変われば、お前はずっと、必要とされる。愛されるんだ」
「愛……」


愛される事なんて、とうに諦めていた。
僕なんて、虐げられるだけの存在なのだから。

でも。
僕だって、誰かに愛されたかった。

辛かったね、って助けてほしかった。

必要と、されたかった。
誰かを、愛してみたかった。

「契約すれば……」
「ん?」
「……貴方と契約すれば、僕は誰かに愛されるんでしょうか……」

震える唇で、男に問う。
男はそんな僕の様子に満足そうににんまりと笑みを浮かべた。

「もちろんだ」


まるで、絵画に出てくるような、寸分の狂いもない、美しい笑みで。


綺麗だ。

僕はその笑みに見惚れながら、ぎゅっと男の手を握った。
男の手は夏なのに凄く冷たい。
僕はそれに驚きつつも、手を離すことは出来なかった。

「……契約します……」

もしも、世の中に、転機があるのなら。

今がその時だったのかもしれない


男は僕の答えに満足げに微笑み、目を細めた。


悪魔の、ように。








数年前に書いていたものを今回書き直しました。
プロローグストーリー的なものです。
嫌い合っているもの同士も好きですが、受けが攻めのことを滅茶苦茶嫌っている展開も好きです。
自分を嫌いな受けに、ヤキモキする攻め!好きなんだけど素直になれず後で自己嫌悪する。
(好きだということは頑なに言わない不器用な感じが好きです)

総攻記というタイトルですが、主人公はリバの女王様です。
ど鬼畜になって帰ってくるという設定です。精神的攻めです。
全キャラリバ予定です。受けにも攻めにもなれます*
基本は主人公女王様受け



登場人物
天馬…泣き虫で内気な性格だったが、死神との出会いでど鬼畜の女王様となる。
おどおどくんだったが、変化後は最凶なクールキャラへ。
人の弱点をついて、精神的に追い詰める冷酷キャラな女王様。どんなに相手が懇願してもけして躊躇しない。
飴と鞭を使い分ける。


清川…俺様。自分が1番清川様なのだが、彼なりに事情がある…らしい。
プライドと独占欲はエベレスト級。天馬のくせに生意気だが口癖。
自分のことを1番理解している天馬がなによりも好き。
天馬馬鹿。


福岡…どへタレ。無口で不器用。紳士である。
母一人の家庭で、弟たちの父親代わりにもなっている。世話焼きである。
天馬を4人と陵辱してきたものの、暴力は一切振るわなかったし、天馬が5人じゃない人間から暴力を振るわれた際は、すぐに助けにきてくれる。
チョロイン。


海堂…ハーフ。天馬に対しては、幼子のように語りかけてくるが、言っている言葉は大体卑猥なものがおおい。腹黒王子様。嘘つき。嘘をつきすぎて本気の告白も受け取ってもらえないタイプである。
素直な天馬を気に入っていたものの、女王様のような高飛車の天馬も好き。


千葉…敬語眼鏡。潔癖症なきらいがある。女のように扱われることを嫌う。自分の名前が嫌い。潔癖症であるが、天馬だけには触れることができる。

牛川…ギャル男。無邪気攻め。快楽主義者。
左目に眼帯をしており、左目はほぼ見えない。
昔、入院していたことがある。
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