アルカシア

槇村焔

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2章

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「…ーっく…ー」
首元が熱い。
その熱の原因は、静流の首につけられた首輪から発せられているようだった。
いつもアルジスから与えられる痛みとは違い、いまはただひたすらに焼けつくような熱さを感じた。

『静流…静流』
頭の奥に響く声。この声に呼ばれると、決まって静流の足は聖樹ユグドの方へと赴いてしまう。
静流が聖樹ユグドの元へいくと、そこには血まみれで地面に倒れるアルジスの姿があった。
慌てて駆け寄り、その身体を抱き起こすと、アルジスの身体は大変熱く熱が出ているようだった。

「熱?アルジス、俺がわかる?ねぇ…」
呼びかけに反応するように、アルジスはゆっくりと瞼を開く。だが、その瞳は熱に浮かされたように焦点が定まらない。

「グレイスを呼ばないと…」
立ち上がろうとした静流の腕を、アルジスが掴み、制した。

「行く必要はない…。熱はただの呪いだ。傷も時期に治る」
「治るったって、動物じゃあるまいし」

こんなにも血が滲むほどの大怪我が、放っておいてすぐに治るはずがない。
アルジスだって早く治さねば、辛いはずだ。
静流はアルジスを説得してみるが、アルジスは首をたてに振らない。

「こんな姿を見せられない。俺は完璧な王でならなければ…。弱い俺では誰も従わない……。俺はただでさえ呪われた王なのだから…ーー。助けなんて求められない」

朦朧としながらも、静流を行かせまいとするアルジス。
静流は「ああ、もうっ!」と苛立ちまじりに頭をかきむしり、アルジスを聖樹ユグドの幹に寄りかからせた。

 そして、静流はつけていたターバンを取ると、聖樹ユグドの近くにある泉に浸しにいく。
濡れたターバンをタオル代わりにし、アルジスの顔を拭った。

「…うっ…ー」

アルジスは苦しげに呻き、胸をかき抱く。
呼吸は荒く汗は大量に流れ、拭っても拭っても流れ出ている。

「全然大丈夫じゃないじゃんか。くそ。
プライドが高いのもいいけどな、お前が少しくらい弱いところを見せたって誰も幻滅なんてしないはずだよ。お前は頑張っているんだから…ーー。お前が嫌いな俺くらい弱いところを見せろよ。俺はお前のこと幻滅もしないし、駄目なやつだとも思わないから」
「……」
「完璧を目指さなくていいんだよ、アルジス。
完璧じゃなくても“大丈夫”
お前はお前でいいんだよ、アルジス。俺は完璧じゃない、弱くて悩んじゃうアルジスも立派だと思うよ。そんなに苦しんで無理しなくたっていいんだ。
お前だって自由に生きる権利はあるはずだろ?」

 意識が朦朧としているアルジスに静流の言葉は届いたのだろうか。
 しばらく静流にされるがままだったアルジスが、不意に汗を拭う静流の手に、己の手を重ね、そのまま自分の胸へと引き寄せた。
体勢を崩した静流を、アルジスはそのまま抱き込むと、唇を重ねた。

「んっ…んんーー」
森でのあの時と同じ、いや、それ以上に深い口づけ。
触れるだけでは終わらず、貪るようなキスだった。
長いキスの後、アルジスは森のときのようにカクリと力が抜け、静流の身体にもたれるように意識を失った。
 不思議なことに、先ほどまで荒かった呼吸は嘘のように落ち着き、苦悶に歪んでいた表情も穏やかになっていた。
キスをすれば、アルジスの発作は落ち着くのだろうか。

「重圧とか責任で潰されそうになってんじゃねぇの、お前。
誰にも頼らないなんて言って、お前が倒れたらおしまいじゃんよ」

静流はそっとアルジスの髪を撫でた。
血で濡れた服や傷跡は痛々しいが、静流一人では何もできない
途方に暮れていると――まるで見計らったように、アルジスを探していたグレイスが現れた。
グレイスは、静流に身体を預け眠るアルジスを見て、一瞬だけ驚きの色を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、「やはりアルジス様は静流様には気を許しているようですね」といって静流の身体からアルジスを離してくれた。

「3日間アルジス様には、安静にしていただくようキツく注意しておきますので」
「3日間で治るのか」
「これくらいの傷でしたら、ジュペリア様が治せるでしょう。
3日後、ジュペリア様を伴い、例の疫病が流行っている村へと赴く予定です」
「ジュペリアさんが……。そっか」
「…静流様…?」
「ううん、なんでもない。俺まだここにいるから。そいつのことよろしく頼むな」
「ええ」

静流はひらひらと手を振ってグレイスを見送る。
グレイスの姿が見えなくなると、静流は「うがああ」と叫び声をあげてその場に蹲った。
アルジスのことが心配でたまらなかった自分。
アルジスの傷を治せるのがジュペリアだけと聞いて、ショックを受けてしまった自分。
これはまさしく…

「俺はアルジスのことが好きで、ジュペリアさんに嫉妬したんだ…。アルジスの役に立てない自分が凄く嫌だった」
〝自分はノーマルだ〟――そう言い聞かせていたはずなのに。
もはやアルジスへの感情は、他の誰に対するものとも違う。
考えれば考えるほど、「好き」以外の答えが見つからず、静流の頬は熱を帯びて赤く染まっていく。
そんな静流の様子をまるで楽しんでいるかのように、聖樹ユグドは葉を揺らした。

(喜んでる…?)

木の言葉なんてわかるはずもないのに、静流は何故だか聖樹ユグドが喜んでいる気がした。
「お前は、俺に何をさせたいんだーーー。
何もできないやくたたずな俺に神子になれっていうのか?」
聖樹ユグドに呟いても、当然答えなど帰ってこなかった。

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