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第三章「私はあなたに出逢えて幸せです」

第15話 幸せな朝とこれからの未来

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 誰時たれどき……重たい瞼を擦りながら目を開けると、すぐ近くに愛しい彼の寝顔があって、自然と顔が綻んだ。
 昨日、たくさん触れ合って、キスして、愛を囁き合ったが、夢じゃない。ちゃんと触れることができる。

 幸山さんの薄い綺麗な唇の輪郭を指でなぞって、そのまま吸い寄せられるように重ねた。耳に掛けていた髪が彼の頬を掠めて落ちた。

「ん……」

 起こしてしまったのか、顰められた眉を見ながら、ゆっくりと寝腐れ髪を撫でて愛でる。可愛い……幸せ。

 頬杖をつきながら寝顔を眺めていると彼の目がゆっくりと開いて、そのまま腕を回されて抱き寄せられた。

「起きてたなら起こしてよ……明日花さん、おはよ」
「お、おはようございます……。でもだって、気持ち良さそうに眠ってたから」
「うん、そりゃ最高だよ。すぐ隣に明日花さんがいるんだから。俺、世界で一番の幸せ者だと思う」

 そう言う彼を押し倒すように上に乗って、キスを交わしあって。どうせ死ぬなら今死にたい。幸山さんに抱きしめられながら死にたい。

「ヤバ……昨日、出し尽くしたと思ったのに、まだヤりたくなる。ゴメン、明日花さん。服を着てもらわないと理性が保てない」
「——やだ。私、幸山さんとイチャイチャしたい」
「うっ、俺の彼女可愛すぎか……! でも一つだけ言わせて。名前で呼んでってお願いしたよね? 俺、明日花さんの彼氏なんだから」

 確かに言った。昨日の行為の最中に……。
 でも恥ずかしくて、つい今まで通りに呼んでしまう。
 裸同士で抱き合っている今の方が、よっぽど恥ずかしい状況だと言うのに。

「——壱嵩さん、好き」
「俺も好き。あのさ、泊まりに誘って申し訳ないんだけど、今日仕事だから一時間くらいしたら出ないといけないんだ」
「そっか、うん。私も今日バイトだから一緒に出るね」

 もう康介もいないと思うし、家に帰っても大丈夫だろう。だが壱嵩さんの考えは慎重だった。

「明るいうちはいいけど、夜になると不安だから職場まで迎えに行くよ。明日花さんの職場はどこ?」

 彼氏って、こんなに優しいの? それとも壱嵩さんが特別優しいのか。何にせよ私には贅沢過ぎる待遇で、つい遠慮してしまう。

「川町だけど、遠いよ? 私も途中までいくよ」
「俺が迎えに行きたいから気にしないで」

 それからシャワーを浴びて、ご飯を食べて、壱嵩さんは仕事の支度を始めた。一方、先に支度を終えた私は彼の部屋を眺めてソワソワした。

 物が少ない。綺麗——……。

 コンクリが剥き出しになっているワンルームなのだが、無駄のない家具設置。だけど清潔感があってモデルルームのような内装だった。
 物やゴミが散乱しているウチとは大違いだ。

「そういえば明日花さんのアパートってオートロックじゃないよね? 女性一人暮らしなのに不用心じゃないかな?」
「あまり気にしたことなかったけど、危ないのかな?」
「そりゃ、心配は心配だよ。俺のアパートもオートロックじゃないから偉そうなことは言えないけど。もし不便じゃなければ、ここで寝泊まりする?」

 ここで寝泊まり?
 それって、もしかして同棲しようって言われてる?

 サラッと言われた爆弾発言に、思わず目開いて瞬きを繰り返した。もちろん嬉しいけど、嬉しいんだけど……!

「邪魔じゃ……ない? 私、ほら、片付けできない人間だし」

 あのゴミ部屋を見て、大抵の人は引くのに。実父ですら匙を投げて、帰省した時もホテルに泊まるくらいだ。

「あー……実は明日花さんの片付けられないことだけど、ルールを決めれば意外とうまくいくんだよ。よく使うものと使わないものを分けて、物の位置を決めるだけでも改善されるよ」
「治るの? あの散らかし癖」
「治るかは分からないけど、意識することは大事かもしれないね。大丈夫、俺も手伝うし」

 元々カッコ良かった壱嵩さんだが、更に後光が増して輝いて見えた。素敵過ぎて、益々私には勿体無いと無意識に拝んでしまう。

「その代わりじゃないけど、ご飯を作るのは好きだから作るね。いつも同じようなものになるけど」
「マジ? 嬉しいな。いつもコンビニやスーパーの惣菜ばかりだったから助かるよ。掃除は自動掃除機、洗濯は乾燥まで済むし、食器も食洗機に投げ込んで。細々としたことは俺が担当するから、ご飯は明日花さんにお願いしようかな」

 今まで億劫だった家事や日常的なことが一気に解決して、心の負荷が軽くなった。
 そしてまた時間がある時に色々説明するからと言って、壱嵩さんは合鍵を託して仕事へと出掛けていった。

「スゴい……壱嵩さんと一緒にいると、まともな人間になれる気がする」

 子供の頃にお世話になった療育の先生に、工夫すれば問題は解決するからと教えてもらったけれど、やり方が分からなくて苦労し続けていた。
 きっと壱嵩さんはその方法を知っている人なのだろう。

 康介と一緒にいた時は、ずっとコンプレックスに押し潰された気分だった。不器用なことばかり刺激されて、こんな私に愛想を尽かさないのは自分くらいだって、ずっと言われていた気がする。

 臭いものには蓋をして放置するのではなく、ちゃんと向き合わないといけなかったんだ。
 心に余裕を持って、落ち着いて行動すれば大丈夫。

 私は渡された鍵をリール式のキーフォルダに付けて、大事にバックの中にしまった。

———……★

「ここからがスタート。私達は始まったばかりだ」
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