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家族のお仕事見学
しおりを挟む「―――ん? ミィ、どうしたんだこんなところで」
騎士団の物資が入っている箱の山に混ざって、わたしも段ボールに入っていたらイルフェ兄さまに見つかっっちゃったのです。
びろーんと脇に手を差し込まれて段ボールから取り出される。
「イルフェ兄さまのお仕事見学に来たのです」
「ほう、そりゃまたどうして」
「お勉強したくないって言ったらリーフェ兄さまに宿題を出されました」
「兄ちゃんの仕事見てこいって?」
イルフェ兄さまに頭をグリグリ撫でられる。ちょい痛なのです。
「はいです。あとオルフェ兄さまと父さまの所にも行きます」
「お~ミィは真面目だなぁ」
兄さまの目にからかいの色が混ざってます。勉強をおサボりしたのバレてますね。
「兄さまお仕事見せてくさだいな」
「別にいいが、普段はひたすら体を鍛えてるだけだぞ?」
「大丈夫なのです。絵日記は描けますから」
「絵日記なのか……兄さまに後で見せてくれるのか?」
「もちろんなのです」
ここで絵日記をバカにしないのが兄さまのいい所です。
「―――最初はなにをするんですか?」
「最初は走り込みだな。ミィもやるか?」
「ミィは大人しく見学してます」
走ったら明日筋肉痛になっちゃうのです。
兄さま達が走るのをのんびり眺める。
……ミィはまだ子どもなのに、こんな余生みたいな過ごし方してていいのかな。
「……」
とりあえずクレヨンを取り出して絵日記を描くことにする。
グリグリとノートに色を塗りつけると一気に子ども心に戻れた気がする。リーフェ兄さまぐっじょぶなのです。
兄さま達は今度は重いボールの投げ合いを始めた。なんちゃらって筋肉を鍛えるらしい。ミィには難しくて分かんなかったです。
このトレーニングにわたしは大いに興味を持った。興味を持ったというか、無意識に目がボールを追った。
気付いたら地べたに座り込み首ごとボールの軌道を追っていた。猫の本能だ。
そして、つい我慢できずボールに飛びついた。
「んにゃ!!」
「んにゃ、じゃないぞミィ」
「にゅ?」
ボールに飛びついたと思ったのに空中でイルフェ兄さまにキャッチされていた。
「こら、危ないだろ?ミィはいたずらっ子だな」
兄さまは注意したその口でわたしのおでこやほっぺにちゅっちゅしてくる。
「ほら、一個ボールを上げるからこれで遊んでような?危ないからもう飛びついちゃダメだぞ」
「にゃ」
おっと返事を間違えたのです。つい猫の本性が。
「―――っかわいい!!」
なぜか興奮したイルフェ兄さまに再びギュウウウウと抱きしめられた。
ほいっとイルフェ兄さまが転がしてくれたボールに飛びつく。
ちょいんちょいんとボールを両手で転がすけどすぐに飽きました。それになんかこのボール重いのです。
「……」
腕が疲れたのでわたしは段ボールの中に戻った。今はモフ丸がいないのでなんだかスカスカに感じる。どこに遊びにいっちゃったんですかモフ丸ぅ~。
しょうがないので、わたしは兄さまにもらった大き目のボールをマイハウスの中に迎え入れてあげたのです。ん~、まあまあのフィット感。
そのまま段ボールの中でクルンと丸まったわたしは、イルフェ兄さまが膝から崩れ落ちて悶えていることなど知らなかった。
そして、ちょっとウトウトしてると、キンッキンッと金属同士がぶつかる音が耳に入ってきた。
「……?」
目を擦りながら体を起こす。
おお、騎士っぽいのです。
そこでは剣での打ち合いが始まっていた。
……こわひ。
箱からひょっこりと目から上だけを出して外を覗く。すると、イルフェ兄さまと目が合った。
「ミィ、おいで」
「?」
わたしは段ボールから出てイルフェ兄さまの元に駆け寄った。すると、ヒョイっとイルフェ兄さまの片腕に座らされた。
「はいミィ」
「?」
イルフェ兄さまに木でできた剣を渡された。これをわたしにどうしろと?
「ミィもお兄ちゃんと打ち合ってみるか」
「謹んでご遠慮するにゃん」
木剣は返しました。ミィは大人しく絵日記描きます。
「―――かけました!! 次は父さまとオルフェ兄さまの所に行ってきます!」
わたしはイルフェ兄さまに手を振って段ボールを抱える。ボールは返しました。
「今日はずっと兄ちゃんのとこにいればいいのに」
「今日中に全員分のを描き終わる約束なのです」
「じゃあ兄ちゃんが送ってってやろう」
そう言ってイルフェ兄さまはわたしを抱き上げた。
イルフェ兄さまの歩く振動が心地よくて、父さまの執務室に到着する頃にはわたしの瞼は半分下りてしまっていました。
「―――ミィ、ミィ」
「……みゅぃ」
「―――っカワッ!!」
「?」
いつの間にイルフェ兄さまからオルフェ兄さまに受け渡されたんだろう。
「兄さま達の絵日記を描きにきたんだろう?」
「あい、そうでした……」
まだ頭がボーッとする。
わたしは箱の中からノートとクレヨンを取り出し、父さまのお膝の上によじ登った。すると父さまは頭を撫でてくれる。
「ねむねむなのです」
ちゃっちゃと描いて寝よう。わたしは父さまの膝の上で必死にクレヨンを動かした。
***
「……まぁ、こうなるな」
オルフェの視線の先には父にもたれ掛かってスヤスヤと眠るミィ。父はミィを起こさないように慎重に動くので中々仕事が進まない。
「……猫は飼い主の邪魔をするものだしな」
父と兄は仕事は諦めてミィの寝顔を堪能することにした。
夜、わたしはリーフェ兄さまに絵日記を提出した。兄さまは絵日記をパラパラとめくる。
「……ミィはいつ寝ちゃったんだっけ?全部寝ぼけたまま描いたんじゃないよね?」
「もちろんなのです。寝たのは父さまとオルフェ兄さまの絵日記を描いてる途中です。イルフェ兄さまの絵日記は上手に描けました」
リーフェ兄さまはあるページを指さした。
「……これは剣?」
「これは兄さまです」
「じゃあこれも兄上?」
「これは剣です」
「……」
正直に答えると兄さまは笑顔のまま固まってしまった。
「ミィは死後に評価される系の画伯になりそうだね」
「ミィは生前に評価されたいのです」
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