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とりあえずちゃんと洋服着たかった

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 私は自宅である塔に帰ると、服をすべて脱いで広いベッドの上にダイブした。白髪がしわくちゃのシーツに散らばる。

「……つかれた」

 やはり外なんな出るものじゃないね。

 あの後正座で一時間くらい怒られた。募集要項が動物なら私だって入るじゃんか。そりゃ本気じゃなかったしお酒飲んでたけど……。最終的には泣き真似してもうしませんって言って帰って来た。

 うつ伏せになっていると眠気が襲ってくる。瞼が重い。酒のせいで思考もままならない。

 私の意識はそのまま途切れた。










 ドゴッ!!!

 そこそこ広い室内に鈍い音が響いた。それにより若干意識が浮き上がる。

「ん……」

 身を起こそうとすると背後に人の気配が。人の気配……。

 ―――――――!?

 私は慌てて寝たフリをした。

 目を閉じると心なしか風通しがいい気がする。
 もしかして壁破壊しちゃった?しちゃったよね。扉って存在知ってる?
 動くな、振り向くな、見るな私。嫌な予感しかしないぞ。
 不法侵入を果たした人物は私がいる方へ足を進める音がする。

 来んなよおおおおおおおお!!!

 何?ふざけ過ぎた?魔王の癪に障っちゃった感じ?捕まっちゃう?私前科ついちゃう?

 その人物は私の体が向いている方まで回り込んできた。速いっすね。

 んん?この魔力の大きさ……。

 私はばれないようにうっすらと目を開ける。

 そこには高そうな布でできた黒の服、黒い瞳に黒い髪の美形が。

 ―――魔王様じゃないですか。

 ご本人様いらっしゃーい。
 歓迎はしないけど。
 そりゃその長いおみ足なら歩くのも速いでしょうね。

 沈黙。すごいじっと見詰めてくるんだけど。あなた絶対鏡見てた方が楽しいよ?

 魔王は何を思ったかその美しい手を私の頭に伸ばし、一撫で。
 馴れていないのだろう。その動作はひどくぎこちない。
 一度手を放すと、再び頭を撫で、今度は髪もすいてきた。

 ……一体何がしたいんだこの人は。



 てか今気付いた。魔王と私の決定的に違う部分。

 ……私、裸じゃね?

 うっわ、やらかし。

 いや、自分の家だから裸でいるのは当然だよね。

 そりゃスースーするわけだよ。魔王に見苦しいものを見せて怒られないかな。

 とか思っていたら、その辺に散らかっていたシワシワシーツで体をくるまれた。魔王様からしたらとんだ安物でしょうけどね。私はお気に入りだけど。

 そしたら急に浮遊感に襲われた。

 え?

 何されてる?抱き上げられてる。

 高貴な二本のおててが私の体に回ってるよ。
 わお。思ったよりがっちりしてますね。驚きの安定感。めちゃくちゃフィットするわ。

 んん?なんか背中ポンポンされてる。ポンポンていうかボンボン?そんなんされても寝ないよ。
 てか若干力強いよ。普通の子供だったら逆に起きて泣き始めるからね?

 だが魔王は動きを止めない。

 いや、だから寝ないって。

「んんっ………」

 思わず身動いでしまった。
 魔王の動きがピタッと止まる。

 私はゆっくりと目を開けてみた。

 漆黒と目が合う。
 感情の薄いそれは不思議と、吸い込まれそうになる魅力を持っている。

 魔王が鋭く息を吸ったのが分かった。
 じっとこちらを見詰めてくる。

 暫く二人で見詰め合う。

 え?何て言えば良い?

 とりあえず口角を無理矢理上げて微笑む。ひきつってしまったのは仕方ないだろう。






「……養いたい………………」




 ぽろっと、魔王の口から似合わないセリフがこぼれた。
 表情は全く変わらないけど。

 小さい声だったけど静かな部屋だからよく聞こえたよ。
 聞き間違いじゃないよね。
 魔王が養いたいとか言った気がするんだけど。そんな心が備わってる筈ないじゃん。

 ひょいっ

 お?

 魔王に高い高いされてしまった。
 そして視線を合わされる。

「……」

「……」

 またもや沈黙、と思いきや魔王が口を開いた。


「お前、俺に飼われる気はないか?」

「ほえっ?」

 とんでもねぇこと言い始めたな。間抜けな反応をしてしまったじゃないか。この台詞、イケメンじゃなかったら犯罪だぞ。イケメンだから合法だけど。
 私があの場にいたのは冗談だったって普通なら分かるだろ。
 まあ、職業魔王って時点で普通とはかけ離れているんだけどね。

 魔王は真剣な口調で続けた。



「俺には普通の可愛いがり方がわからないし、力加減も得意ではないから痛い思いや不快な思いをさせるかもしれない」


 魔王は一拍置いて続ける。


「だが、お前のことは可愛らしいと思うし生まれて初めて守りたいと思った。大事にしたいと思うんだ」




「嫌なことや直してほしいことがあれば全力で対処するし、我が儘だって可能な範囲でなら何だって聞いてやる。寂しい思いもさせない。お前と居ることに周りから文句は言わせない」




「だから、」





「俺と来い」



 ―――しっかりと私の目を見詰めて、魔王は言いきった。


 ……プロポーズですかね。

 あまりの真剣さにそう思わずにはいられなかった。

 何で欲しい言葉を的確にくれちゃうかなぁ。

 超絶美形さんいこんなこと言われて断れる女なんているのだろうか。いや、いない。

 気付いたら


「はい」


 って返事した後だったよ。

 そしたらあの魔王が微笑んだ。

 少し表情が緩んだだけだけどね、でも絶対に笑った。だって纏う雰囲気が柔らかくなったもん。

 そしてもの凄い力で抱き締められた。効果音にするとミシッゴキャボゴッって感じ。

 これ私じゃなかったら背骨折れてるからね?

 抱き締められた後にはまた頭を撫でられた。う~ん、まだぎこちない。


 まあいっか。


 もう既にこの撫で方が気に入っている私がいるのだ。
 その大きな手に包まれると自然と目を細めてしまう。




 さて、

 これからよろしくね、私の飼い主様。

 まずは可愛いペットに名前を付けて下さいね?


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