8 / 133
片桐由美
2
しおりを挟む—真也side
北海道に来て1年と少しが経った。
俺等がここに来たのは1年前の2月。
2度目の冬を超え、また富良野に春が来た・・・・。
牧場の看板の下に今日のイベント予定が書かれたスタンド看板を出していると、
「あー・・真也、ここに居たのか・・・。今ラベンダー畑の高野さんから電話が来て、今年の夏も手伝いに来てくれるかって言うんだけどー・・真也行けるよね?」
そう言ってきたのは、多分・・・もう80代半ばくらいのお婆ちゃんの松さん。
ここの牧場の長で、俺等の教育係でもある松さんは全く腰も曲がっていないし未だに牛の世話や馬の世話、俺等よりも機敏に動けるスーパーお婆ちゃんだ。
俺は立ち上がって
「勿論です!1年が早いですねー・・・もう直ぐ夏かー・・・」
俺がそう言うとマツさんは笑って、
「早いよねー・・・今年はうちの牧場も観光向けの店やるし!きっと忙しいよーー!!!」
松さんはそう言って笑いながら牧場の方に戻っていった。
この辺は冬はスキー客、春位からは観光客が一気に増え・・・夏にピークを迎える。
そして秋もそこそこ人が多く、冬はまた落ち着くんだ。
昨年からこの牧場で暮らすようになって、思ったんだ。
街中の生活は華やかで楽しかったけど・・・・俺には向いていなかったのかもしれないって。
ここでの生活は一見のんびりしていて癒されるって思う人も多いかもしれないが、結構過酷で大変だ。
毎日牛の世話をして、朝も夜も関係ない。
子牛が産まれた時は・・・大騒ぎだったな。
でも、その子牛が自分の力で立ち上がり母親の乳を飲む姿を見た時・・・・久しぶりに感動した。
昼休みの時間、俺は財布とタバコだけを持って牧場の出口の方に向かう。
すると、俺の後を追いかけてくる足音と・・・
「真也さーーん!!昼飯外食ですかー??」
振り返ると、俺と一緒にこっちに送り込まれた直之と直樹が手を振って走ってきた。
俺は一旦足を止め、
「ああ、お前等も一緒に行くか?出してやるよ」
そう言うと2人は笑って、
「松さんがオムライス作ってくれるって言ってたから!俺等はこっちで食べてきまーす!」
ここは朝と夕飯は宿舎でとらなくてはならない。
しかし昼食は自由で、休憩時間内なら外出をしても良いとされている。
俺は松さんの飯を頂く時もあれば外に食べに行くこともある。
朝食の時に松さんに希望を伝えるシステムだ。
直樹と直之は金を節約したいと言って大体松さんの飯を食ってる。
2人に手を振って出口付近に置いてある軽トラに乗り込んだ。
俺がいつも昼飯に使うのは・・・この牧場の近くの定食屋だ。
昨年の12月に入って直ぐ位だったかな・・・・。
突然あの古い定食屋さんに綺麗なお姉さんが働くようになったのは!
軽トラを走らせ、牧場の前の道を真っすぐ行くと・・・その店はある。
店の前には俺と同じ軽トラが何台かと、他トラックが何台か止まってて明らかに地元の人間が集まる店って感じだ。
俺と直樹と直之がここに連れてこられて、1週間たった日に直樹と直之と飯を食いに来た店だった。
ここは何でも美味しいし、安いし・・ボリューム満点!
そして店主の夫婦も凄く優しく気さくだ。
だから俺はその日から昼飯はここで食べて少し息抜きしていたんだ。
すると・・・昨年の12月からあの綺麗なお姉さんが店頭に立つようになり、あの時は富良野の独身農家の若者とか・・・牧場の跡取り息子とか・・・結構な男たちが彼女を物色しにきたもんだ!
俺もその1人。
この辺では珍しい、可愛くって都会的な雰囲気。
派手な訳ではないけど・・・決してダサくない品がある感じ。
東京から来たでしょ?って思って・・・この前少し話をしたら、やっぱり東京から来たって言っていた。
噂だとシングルマザーだって聞いたけど、・・・・失礼かもしれないけど、子供を産んだ様には見えない。
彼女の名前は片桐由美さん。
言っておくが、以前の俺なら・・・由美さんをいやらしい目で見てどうにかしようって思ったかもしれない。
でも今は不思議とそうは思わない。
どっちかと言ったら、彼女の内面を知りたくて・・・彼女と話したいとか、顔が見たいとか・・・そう・・・思った。
その日から俺は彼女の顔が見たくて彼女目当てで定食屋に行くようになった。
俺はいつも豚丼の大盛りとサラダとみそ汁が付いているセットで、
「みそ汁は豚汁にする?」
俺がいつもそれを頼むから、彼女は直ぐにそう聞いてくれるようになった。
「あ・・・うん・・・」
そう言うと、ニッコリ笑って
「豚肉が好きなんだ?」
って・・・そう言われた。
女性に対して、緊張したのは・・・・あの、学生時代に唯一恋をしたなっちゃん以来だった。
なんて言おうかって少し考えて、
「うん、牧場で牛の面倒を見ているからー・・・牛は食べずらくって・・・」
と、別にそんな事ないのにそう言った。
すると、その人はまた笑って
「優しいね」
それが俺と由美さんの初の会話だった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった
naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】
出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。
マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。
会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。
――でも、君は彼女で、私は彼だった。
嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。
百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。
“会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる