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第一章
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しおりを挟む「何事だ!」
「だ、旦那様」
「この泣き声は、彼女…アイリス嬢か?」
「はい」
「一体、何が」
駆けつけたルドルフが見たのはどこからそれだけの大声が出るのかと思われるほど大声で泣き叫ぶアイリスを優しく抱きしめ頭を撫でているカイルの姿だった。
暫くそのまま様子を見ているとアイリスが泣きつかれて眠ってしまった。
「サリア」
「は、はい」
「アイリスの部屋は整ったのかい?」
カイルはアイリスが深く眠ったのを確認すると先程までの笑顔を消した。
その変化にその場にいた全員が息をのんだ。
こうなったカイルは父親であるルドルフでさえ恐怖を感じるほどだ。
カイルに質問されているのでサリアは答えなくてはいけなかったが、恐怖から口を開閉させるだけで言葉にならなかった。
代わりに全体を把握しており、耐性のあるセバスの方が答えた。
「いいえ、カイル様。もう暫くかかります」
「ん?セバス、どういうことだい?」
「持ち込まれたものがほとんどお使いになれない物でしたので、早急に買いに行かせてます。あと、衣服に関しましても同様でして」
「ふーん、やはりそうか。でも、服に関しては今は必要分でいいよ。今度、一緒に見繕うから。取り敢えず、暫くはベッドから動けないと思うし」
「カイル様?」
カイルが『やはり』と理解している発言をしたので全員が首をかしげた。
カイルとアイリスは今日、先程玄関であっただけだ。
匂いで『番』の事をわかると言えど向こうのするとこを把握できるわけではない。
カイルは知っていたのではなく、アイリスの状態から予測していただけだ。
「セバス、今すぐに主治医を呼んでくれ。あ、いつも母上を診てくださるターニャ女医で頼むよ」
「はい」
「父上は私と執務室でお話を」
「あ、ああ」
「母上はアイリスの事を頼みます」
「フフ、分かりました。この母に任せなさい」
「はい、お願いいたします。セバスは手配が終わったら執務室に来るように」
「畏まりました」
「アイリス、私は少し離れるが君が目覚めるまでには帰ってくるからね、ゆっくりお休み」
カイルはアイリスが掴んでいる自分のジャケットを脱いでアイリスにかけた。
アイリスは侍女たちに抱えられながらリリーシアと共にリリーシアの部屋に連れて行かれた。
カイルは同じ女性であるリリーシアや侍女たちならアイリスの事を任せられると判断し託した。
セバスはカイルの命令通りにターニャ女医を呼び、リリーシアの部屋に案内するように侍女たちに伝えた。
「では、ターニャ女医が来られたら奥様のお部屋に案内するように」
「「「「「はい」」」」」
「ナバーラ商会の方が来られたら、奥様の指示に従うように」
「「「「「はい」」」」」
「では、私は旦那様とカイル様の元に向かいます。いつも通り滞りなく行うように」
「「「「「はい」」」」」
セバスは侍女たちの返事を聞くと機微を返して、ルドルフの執務室に向かった。
あの状態のカイルのもとに向かうのを侍女たちに哀れに思われながら。
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