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第一章
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しおりを挟む温室では優しい花の香りと暖かな日差しが入り込んでいた。
ゆっくり過ごせるように用意されているソファーにカイルとアイリスは座っている。
アイリスは命令以外の行動は出来ない。
命令以外の行動をとってきつく罰せられていた経験があり、そのせいで心を壊した『人形』のようになった。
端から見たらすごい光景だろう。
着ているドレスだけが綺麗なボロボロの『人形』のような娘を隣に座らせ、嬉しそうに優しく微笑みながら尻尾を振りその手を握っている青年と言う光景だ。
「アイリス、いい子だね。ミルクティーを飲んでごらん」
「はい」
「アイリス、このプリンも美味しいよ。食べてごらん」
「はい」
アイリスはカイルに勧められるままミルクティーやプリンを食べた。
普通、この場合ならクッキーやケーキなのだろうが、カイルのリクエストに従ってプリンやゼリーが用意された。
カイルのこの判断は正しかった。
アイリスはまともな食事をしていなかったので食も細く、胃がビックリして戻していた可能性が高い。
獣人族は『番』に対してことさら甘い。
だが、カイルのこれはそれとは別物だ。
カイルはアイリスの心が壊れている事に気づいているし、ドレスに隠れた傷や痣などの虐待の跡も劣悪な環境にいて成長阻害がおきてる事も分かっていた。
獣人族は匂いである程度『番』の状態が分かるのだ。
この能力も正確なことは判明していないが、全ての獣人族に当てはまるので獣人族の本能と言うことになっている。
勿論、『番』が隠したいことは分からないが、アイリスは心が壊れているので隠すことがない。
だから、カイルはアイリスに優しく微笑み接している。
アイリスの心が修復されるように。
「アイリス、私の可愛いアイリス。もう大丈夫だよ。私が、我が家が君を守るからね」
「…………」
「いい子だね、アイリス」
「…………」
側に控えている侍女たちは痛々しく見ている。
カイルはどこまでも優しく微笑み、接し、囁いている。
だが、アイリスは一切それに反応を見せない。
その様は本当に『人形』を愛でるようであった。
カイルはアイリスを抱き寄せ、頭を撫でた。
その瞬間、今まで無反応だったアイリスがわずかに反応した。
それは触れているカイルにしか分からない程わずかな反応だった。
頭を撫でているカイルの方にわずかに寄りかかって来たのだ。
カイルはそんなアイリスの反応に喜んだ。
そこにアイリスの心を修復する活路を見出だした。
「アイリス、よく頑張ったね。もう我慢しなくていいよ。痛かったり、辛かったり、苦しかったりしたら泣いていいんだよ」
「っ」
「私の可愛いアイリス。私が許すよ。我慢しなくていいよ。君は泣いてもいいんだよ。笑ってもいいんだよ。アイリスは私の可愛い花嫁さんになるのだから」
「っっ」
「私の可愛いアイリス、よく頑張ったね。私が全てを受け止めるよ。さぁ、我慢はやめなさい。愛しているよ、アイリス」
「わあぁぁぁぁああああぁぁああああああぁぁ」
「よしよし、さぁ、泣きなさい。私が全てを受け止めるよ、アイリス」
「ああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ」
カイルに抱き締められ、頭を撫でられ、囁かれている内にアイリスの瞳に生気が宿り、涙が溢れた。
カイルに許された事とアイリスの欲しい言葉をカイルが囁いた事でアイリスの心が少し修復され、感情が溢れだした。
泣き出したアイリスをカイルは自分の胸に優しくだがしっかりと抱きしめ、頭を撫でた。
アイリスが周りを気にしないように、感情のままに泣けるように。
しかし、その泣き声は大きく屋敷中に響き、多くの使用人やカイルの両親も慌ててやってきた。
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