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第十二章 動き始めた……○○フラグ

私の好きはあくまで『推し』として

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 今日の授業が終わり、クロエ様と約束した場所に向かっている。

 クロエ様とは同じクラスだけど他の生徒に怪しまれないように時間をズラして向かうことにした。

 ーーそのはずだった。

 歩いている途中で急に立ちくらみがして壁に寄りかかった。

 冷や汗が流れ、息が荒い。

 ホント、嫌になる。気を許すと私の中で蠢いている魔力が外に出ようと暴れているんだもの。

 その魔力が闇属性だなんて。思っていたよりも……かなりキツい。

 それにしても変だ。無属性があるのにも関わらず闇が無効化になっている感覚がない。

 見方を変えれば無属性があるから、このぐらいの体調変化で済んでるのかもしれないけど。

 どこかで休めるところ……、そう思って壁伝いに歩きながら探していると令嬢に声をかけられた。

「大丈夫ですの!?」
「顔色がお悪いですわ」

 見たところ、二人組の令嬢だった。

 確か、ケニア様とシイラ様だったかな。

 心配されちゃうなんて、情けなさすぎて泣けてくる。

「大丈夫……です」

 必死に声を絞り出して言うが、二人の令嬢は引き下がらない。

「医務室にお連れしますわ」

 私の腕に抱きついた。もう一人の令嬢も私の身体を支えようと手を伸ばした。

「その必要は御座いません。私がソフィア様をお連れしますので」

 戸惑っている間に話が進んでいて、どうしようかと思っていた時に馴染みのある声が聞こえた。

 見ると、そこにはイリア様、イアン様の二人がいた。

「ですが……」
「とても苦しそうにしていらして、私達も心配なのです」

 イリア様とイアン様を見た二人の令嬢は動揺したように声を裏返っていた。

 イリア様が一歩前に出て、目を細めた。

「心配……そうですか。とてもお優しいのですね」
「ここは俺たちに任せてくれないか」

 美女と美男の双子が並んでいるだけで二人のオーラはとてもキラキラしていた。

 見惚れてるのか、二人の令嬢はボーッとイリア様とイアン様を見つめていた。

 うっとりしながら「はい」と、語尾にハートマークが入ってそうな口調で返事をした。

 二人の令嬢はそっとお辞儀をしてその場から離れていく。

「……あの、おふたぁ」

 姿が見えなくなってから私はイリア様とイアン様の方を向いて口を開こうとしたらイアン様に頬を引っ張られた。

「お~ま~え~なぉ!! リアが忠告したはずだよな」
「ふぇ??」

 イアン様は私の頬から手を放すと苦笑した。

「気を付けてと、言いましたよね」
「どういうことですか?」

 引っ張られた頬に抑え、痛みに涙目になりながらも聞くと二人は深いため息をした。

「あの二人は、あなたを良く思ってはいません。あることないことソフィア様の悪い噂を流してましたからね。医務室に連れていくフリをしてソフィア様を嵌めようとしていたのでしょう」
「……とても親切そうな人達だったのに」
「人は裏表がある生き物です。誰もが純粋さを持っている訳ではありませんもの」
「そ……」

 私はクラっとよろけそうになって壁に手をついた。
 イリア様の言ってることは間違いでは無い。

 親切さを装って、私を精神的に追い詰めようとしていたのかもしれない。

 でもなんのために?

「……良く思われてないことは知ってたけど……、陥れたいと思うほどの憎しみってなんなのでしょう」

 イリア様は手を伸ばし、私の身体を支える。

「……『わからない』というのは時に残酷な言葉ですわ。きっと、嫉妬ですわ。美形な殿方たちと仲良くしているんですのよ。その殿方の一人を狙っていたなら、面白くは無いですわ」
「面白く……ない」

 どうなんだろう。確かに、好きな人が他の女性と仲良くしてたら辛いと思うけど、陥れようとは……。

 ふと、あの光景が頭をよぎった。

 中庭で殿下とヒロインがキスをしている場面だ。

 その時、私はどう思っただろう。辛くて辛くて、……とても憎かった。

 これがゲームでのソフィアの感情なのか、私自身の感情なのかは分からないけどものすごく感情移入したんだ。

「ソフィア様は純粋ですから、気付かないのは分からなくもないですが」

 私を支えながら歩き出したイリア様が口を開く。

「……私は純粋じゃ、ない」

 ボソッと呟くと、イリア様が聞き返したが私は苦笑して話題を変えた。

 そんな私を見てイリア様とイアン様はお互いに顔を見合せて首を傾げた。

 イリア様に支えられながらも歩いて行く中、私はあの時の感情について考えていた。

 ーー嫉妬。

 そうか、あの時の感情は嫉妬だったんだ。初めての感情でとても怖かったけど。

 私の大好きは違うもの。

 好きな人は、触れられるけど推しは触れられない。尊い存在なんだもの。

 私の好きはあくまで推しとして好きなんだから……。

 その後、医務室に着くなりイリア様とイアン様は用事があったみたいで送り届けたらすぐに離れていってしまった。

 私は、少しだけ休んだら体調が少し良くなったのでクロエ様との約束の場所に向かった。

 無理せずに休んでも良かったと思うけど、体調は完全に良くならないのを知っている。

 なによりも休んでいると良くないことまで考えてしまって、鬱みたいにネガティブ思考に入りやすくなる。

 休むよりも動いていた方が良い。



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