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26.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟む月に一度の約束の日。
前回家に帰ったときから、あっという間に一ヵ月が経ってしまった。
もちろん家に帰って、義父や妹のルナに会えるのは嬉しい。
けれど、先月から何も進展がないことを突き付けられているような気がして、エリザベスは憂鬱だった。
貴族のマナーを教えてくれるレイフォードは、ワルツの練習をするための段取りを組んでくれている。
リリーシアたちは、恋愛の経験が足りないエリザベスに熱心にアドバイスをしてくれる。
自分を卑下するつもりはないが、平民として育ったエリザベスを快く思っていない生徒が多くいる中で、手を差し伸べてくれる人が側にいるのは幸せなことだと感じている。
それなのに、エリザベスの力不足でちっとも進展がない。
手を貸してくれる人たちに対して、そのことが申し訳なかった。
ハートレイ男爵にも探りを入れられてしまったし、変な横やりが入る前にどうにかしたい。
アドヴィス家の三男なんて絶対に嫌だ。
貴族学校自体は三年間あるけれど、卒業までいられると思うほどエリザベスは楽観視できなかった。
(……あ~~また女将さんに「どうだ?」って聞かれたら、何て答えよう……)
先月尋ねられたときは笑って誤魔化したけれど、女将さんには出来るだけ心配をかけたくない。
でも嘘もつきたくない。
あああ……と項垂れながら、酒場に着いたエリザベスが扉に手をかけたとき――……
「みぃーつけた」
後ろから男の低い声が聞こえて、ぞわっと背筋が凍る。
勢い良く振り向いたエリザベスの前に、全身真っ黒な格好の背の高い男が立っていた。
「ザイールさん……」
知り合いであることに安堵したものの、警戒は緩めない。
エリザベスは今、頭からフードの付いたマントを被っている。
なんで気付いたんだと思いつつ、同時に彼ならばと納得した。
「エルザ、ようやく見つけた。……なあ、知らないうちに貴方が酒場を辞めて町から姿が消えて、どれだけ俺が驚いたか分かるか?」
「……」
早速繰り出される重い発言はとりあえず聞かなかったことにする。
人目を避ける必要がある仕事柄なのか彼の趣味なのかは知らないけれど、黒のシャツに黒のスラックスに黒の靴という全身真っ黒な格好。
それに、何て返すのが正解なのか分からない反応に困る言葉。
エリザベスが知っているザイールのままだ。
「ええっと、お久しぶりですね。一年ぶりくらいですか」
「九ヵ月と十二日ぶりだ。なんで俺に何も言わず急にいなくなったんだ?」
咎めるような顔で恨めしそうに見つめるザイールに、エリザベスは「あはは……」と愛想笑いを浮かべる。
懐かしい。
この感じ、全然変わってない……
この男は、酒場で働いていた頃のファンという名のストーカーだった。
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