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愛情
しおりを挟むキース様の元へ嫁ぐ覚悟を決めてから、私はもう以前のように家族からの愛情を期待することはやめた。
彼が、家族の分まで私を愛すと、そうおっしゃってくれたから。
…私にはもう、その言葉だけで十分だった。
期待をしなくなると、これまで居心地の悪かった家族全員が顔を合わすような場でも何も感じなくなった。
夕食の席で楽しげに食事を囲む面々に、まるで演劇でも見ているかのような錯覚に捕われる。
「このお野菜のスープすごく美味しいですっ」
ミレイユがにこにこと笑顔を浮かべ周囲に語りかけた。
そんな彼女を両親や兄は微笑ましそうに見つめている。
「それは良かった。お前に褒められてシェフも鼻が高いだろう」
「あとでシェフに直接伝えてきます!」
「ミレイユは本当に優しい子ね」
いつもなら胸が苦しくなる光景も、今日は別だ。
黙々と食事を進める。
「セイラは、どうだ?お前も昔から肉や魚より野菜の方が好きだっただろう?」
ふいにサイラス兄様に話を振られ、驚いて目を見開いてしまった。
ミレイユが話題の中心となっている時、こんな風に声をかけらたことなんて今までなかった。
「…美味しいと思いますが」
怪訝そうに口を開く私に、兄は何かを言いたげな顔で口元をもごつかせた。
「…それは、良かったな」
彼が何を考えているのか全くわからない。
再の沈黙に気まずさを感じ、私は早々に夕食の席を立つのだった。
次の日、学園に向かう馬車に乗り込もうとした私に、またサイラス兄様が声をかけた。
「今日は、私と学園まで一緒に行かないか?」
昨日から、この人の様子が少しおかしい。
「…どうしてです?」
訝しげにそう尋ねると、彼はやけに真剣な眼差しで言葉を返した。
「話したいことがあるんだ」
重苦しい雰囲気に渋々頷くと、兄様はほっとした様に小さく息を吐く。
兄様と二人馬車に揺られる。
「学校はどうだ?…楽しいか?」
もう入学して半年も経つというのに、どういう意図の質問なのだろうか。
「ええ、楽しいですよ」
「困ったことはないか?」
そんなの、たまに家族のことでミレイユがつっかかってくるくらいで、概ねうまくいっている。
「特には」
「勉強は難しくないか?」
「もともと嫌いではありませんし、少しわかりにくいところなんかはキース様が教えてくれたりもするので」
図書館でキース様と過ごす時間はとても有意義で、何かわからないことを尋ねる私に彼は懇切わかりやすく教えてくれる。
「それで、話したいこととは?」
学園までの道のりはそう遠くない。
このまま遠回りな会話を続けていては、あっという間に到着してしまうだろう。
「…セイラ、お前は」
苦々しい口調で、サイラス兄様は話し始めた。
「家族が、お前のことを愛していないと思っているのか?」
そんな言葉に、自身の眉間に深いシワが刻まれていくのがわかる。
何を言うかと思えば…
「事実ですよね?」
「っ、そんなことはない!私はセイラのことを大切な妹だと思っている!愛していないわけがないだろう」
興奮したように兄は言葉を続ける。
「父や母だって同じはずだ。確かに彼らが目に見えた愛情を示すことなんて滅多にないかもしれない…だが、私たちがこうして豊かな生活を送り、学園にも通えているのは全て両親のおかげだろう」
そんな彼の言い分に、最早呆れてしまった。
「兄様はミレイユのこと慰める時よく、本当の妹だと思っている、家族として愛していると、そうおっしゃっていますよね」
「…そうだな」
「だとしたら、ミレイユへの態度こそ、愛する妹へのそれなのではありませんか?私にはそのような優しさ、彼女がやってきてから一度だって見せてくれたことなんてないじゃないですか」
愛しているなんて、今更そんなことを言われても信じられるわけがないだろう。
兄様の今までの態度が全てを証明している。
「両親だってそうです。豊かな生活を送り、学園に通えていることが私への愛情の根拠にはなり得ません。勿論その点については感謝しなくてはなりませんが、それは養育者の義務です。それに、私たちは貴族ですよ?自身の子を学園にも通わせないなんて、それこそ侯爵家の面子は丸つぶれです」
「っ、確かに根拠にはならないかもしれない。だが、両親は私達をきっと…」
ぐっと拳を握りしめて小さく呟く兄様を見つめて、そっと口を開く。
「兄様は、昨日のお昼のことを気にしているのでしょう。駄々を捏ねた子どものようなことを言ってしまいました。もう、家族に愛されたいなどとは思っておりません。兄様も昨日の言葉はお忘れください」
「…違う、そうではなくっ」
「私はもう、大切な居場所を見つけましたから」
微笑みを浮かべそんなことを口にした時、丁度馬車は学園に到着したようだった。
「では、失礼します」
ぺこりと一礼して、兄様と別れた。
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