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爆弾
しおりを挟む「で、今日はいったいどうしたんだ?急な訪問だったし、何かあったのか?手土産なんて良かったのに…」
未だフラフープのことを根に持っているらしいキース様が、客間に通した二人に投げかける。
確かに、訪問が急であることは私も気になっていた。
「いや、少し気になることを耳にしちゃってねぇ」
「気になること…?」
なんだか困った様な表情でそう言うウォルター様からは、いつもの飄々とした雰囲気は感じられない。
どうしたと言うのだろうか。
「うちの侯爵家が代々貴族間の秘密警察の様な役割をしていることは知ってるでしょ~?」
「…秘密警察?」
「あれ、セイラ嬢には言ってなかったっけ~?」
初耳です。
それにそんな大事なことを私なんかに言ってしまってもいいのだろうか。
不安になってウォルター様に視線をやると、彼は心配ないとでも言うようにニヒルな笑みを浮かべる。
「キースの家にもいろいろ援助してもらったり協力関係にあるから、どうせ後々知ることになったはずだよ?そんな不安そうな顔しないの~」
よしよしと私の頭を撫で始めるウォルター様。
彼はまるで兄のように私を甘やかす時がある。
嫌ではないけど少し気恥しい。
そんなことを思っていると、キース様が私の頭の上にある手をパシリと叩き落とす。
「あんまりセイラ嬢に気安く触るな」
「ちぇっ、心が狭い男は嫌われるちゃうんじゃな~い?」
離れていた手になんだか寂しくなっていると、今度は温かい温度に体を包まれる。
「キース様っ!?」
「セイラ嬢も、あんまり無防備だと困ります」
彼は私の背後から両手を回し、肩口にそっと顔を埋めるのだった。
「あのっ、えっと、お二人の前ですよ?」
「気心の知れた中です、構いません」
「親しき仲にも礼儀ありという言葉をご存知ですか!?」
ドキドキして真っ赤になる私を目の前のウォルター様がにやにやと見つめる。
ヒューゴ様はなんだか微笑ましそうな笑みを浮かべていた。
「じゃ、話の続き始めてい~?」
「この体勢で!?」
「キースが離れないんじゃ仕方ないよね~」
そんな言葉に、背後のキース様が満足気に笑っているのがわかった。
「でさ、俺の父親が追ってた事件があったんだよね?」
なんともない様子で話し始めるヒューゴ様に、私も大人しくキース様に身を任せることにする。
「約三年前、貴族の乗った馬車が盗賊に襲われた、とある強盗殺人事件」
それはやけに聞き覚えのある事件で、すぐにピンと来た。
「…ミレイユの」
「そうそう、あの子の両親の事件ね。犯人も捕まってなければ、目的もよくわらない。当時その事件を探っていた俺の家や、盗賊の討伐に当たった騎士団にとってはどうも不可解な事件だったみたいよ~」
ミレイユの両親の事件がそのような扱いになっていたとは知らなかった。
「それらしい盗賊を討っても、その事件に関わったという者は一人も見つけられなかったらしい。私の父も当時頭を抱えたらしいぞ!」
ヒューゴ様のお父様まで関わっていたのか。
「で、辿り着いた答えが、ミレイユ嬢の両親を殺ったのは盗賊に見せかけた殺し屋だったんじゃないかって。まあ、その方がしっくり来るよね~。あれだけ捜査しても犯人の手がかりすら見つけられないんだから」
「その線で考えても犯人は炙り出せないし、被害者だって恨まれるような人間じゃないと来た。結局捜査は打ち切りで未解決事件でお蔵入りだ」
全く知らなかった事実に混乱してしまう。
もしもそれが本当なら、あまりにも彼らが浮かばれない。
悪意を持った人間は今だってのうのうと生き残っているということだ。
「ことが動いたのは少し前。その事件と酷く類似した事件が起こった」
「っ、あ…」
ウォルター様の言葉に直接脳を揺さぶられた様な動揺が走る。
「義母の…」
「うん、侯爵夫人の件だ」
紡がれる言葉に、背筋が震える。
口の中がカラカラと乾いて、動悸が激しくなる。
自分が何か大きな事件に巻き込まれているような嫌な感覚がした。
「セイラ嬢、大丈夫ですか?聞きたくなければ聞かなくてもいいんですよ?セイラ嬢の代わりに僕が…貴女にはこれ以上苦しんで欲しくありません」
「…キース様」
耳元で囁かれる声に少しだけ勇気をもらった。
「大丈夫です、私も聞きます」
「…私も話の内容は知りませんが、つらくなったら無理をせず言ってくださいね」
こくりと頷いて、首元に回る手をきゅっと握りしめた。
「覚悟も決まったようだし、もう先に言っちゃうけど、二つの事件で疑われてるのは…」
ウォルター様の言葉にごくりと唾を飲み込む。
「前侯爵、セイラ嬢の実の父親だよ」
そうして彼は、一つ爆弾を落とした。
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