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ロナウド公爵邸
ウォルター様とヒューゴ様が我が家を訪れてから三日後のこと。
私とキース様は二人で、とある屋敷を訪れていた。
「緊張してますか?」
「…少し」
気遣うようにそっと私の肩を抱くキース様に、素直に甘えておくことにする。
正直、少しどころか、この上なく緊張していた。
ここは、ロナウド公爵邸。
亡くなった母様の生家だ。
「ようこそいらっしゃいました。ささ、中へご案内いたします」
公爵家の執事が私達二人を中へと案内する。
通された部屋に待っていたのは、老齢の男女…きっと前公爵夫妻だろう。
「初めまして、キース・バーナードと申します。こちらは、もうすぐ僕の妻になるセイラです」
「セイラです。お会いできて光栄です」
挨拶をする私達を、目の前の老夫婦はじっと見つめていた。
「ジャック・ロナウドだ。こんなことを言う資格はないのかもしれないが…会えて嬉しいよ」
「妻のマルセラです。最後にあなたを見かけたのは、あの子の葬儀の時だった…大きくなったわね」
とりあえず、拒絶はされていないようだ。
母の葬儀にはもちろん彼らも参列していたのだろうが、それに気づく余裕はなかった。
「本日は早急にお伺いして申し訳ありません。急を要する事態だったので…」
キース様が眉を下げて、本題に移ろうと口を切る。
「手紙で事の次第は把握させてもらっているよ」
「ええ、こちらはいつでもセイラを受け入れる準備はできています」
そんな言葉に、思わずキース様と顔を見合わせる。
正直、こんなにすんなりと受け入れてもらえるとは思っていなかったのだ。
そんな私達の心情を知ってか、夫妻は静かに口を開いた。
「本当は、もっと早くあなたを、そしてサイラスのことも、迎えに行かなければならなかった…」
「可愛い娘の、たった二人の忘れ形見を、こんな状況になるまで放っておいた。私達は親としても、祖父母としても失格なんだ」
その表情には、後悔の色がありありと滲んでいて、こちらの方が胸が痛む思いだった。
「…そんなこと」
否定の言葉を口にする私に、彼らは眉を下げて首を横に振る。
「娘が亡くなって、私達は、あの男を心底恨んだ。いや、今でも恨んでいるよ。娘が、シーラがあんなにも早く先立ったのは、あの男のせいだと。娘が我が家から連れていった侍女から連絡は受けていたから。あの男は娘に一欠片の愛情だって抱いていなかった。それどころか、あの子には見向きもせず、それはひどい態度だったそうだ」
歯を食いしばって怒りに震えるロナウド前公爵。
夫人も小さく肩を震わせているのがわかる。
「日に日にやつれていくシーラは、それでもうちに帰ってくることを望まなかった。もう限界だと、無理やり連れ戻そうとした矢先だったの…あの子が亡くなったのは」
「心身ともに、強い子ではなかった。亡くなったのは、あの子にも原因があることはわかっている。だけど…」
そう言う夫妻の目には涙が滲んでいる。
母を、心から愛していたのだ。
子を想う親の姿につきりと胸が痛む。
「だけど、あの男だけは、恨まずにはいられないッ」
感情を抑えきれないと言った様子で、半ば叫ぶように口を開いた。
「あいつは、シーラの葬儀の中、笑ったんだ!見間違えなんかじゃない!ほんの一瞬でも、あの男は心から嬉しそうに、微笑んだ!!」
「っ…そんな」
例えそこに愛情が芽生えなかったのだとしても、自身の妻の葬儀で笑顔を見せるなんて有り得ない。
そんな姿を想像してしまい、背筋にゾクリと冷たいものが走る。
「セイラ嬢、大丈夫ですか?」
「キース様…」
震える私の肩を彼がそっと抱き寄せる。
温かい体温に少しだけ落ち着きを取り戻した。
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