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友人 sideウォルター
しおりを挟むSide ウォルター
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サイラスと出会ったのは、もう随分と前で、正確にいつだったかなんてきっとお互い覚えていないだろう。
同い年で、同じ侯爵家。
比べられることも少なくはなかったと思う。
あいつはひどく大人びていた。
そして、冷酷だった。
見目は良いやつなので、幼いながらもおマセな令嬢達に囲まれていたが、無視を決め込んでいた。
周囲の人間なんて眼中にないと言った態度だ。
とにかくいけ好かないやつではあったが、今となっては、ただ余裕が無かっただけなのだと簡単に理解出来る。
「お前、ほんとに人間?」
「…機械に見えるか?」
初対面で随分と失礼な物言いをする俺に、サイラスはさも興味なさげにそう問い返した。
人間らしい感情なんて一つも持ち合わせていないような態度が逆に気になって、近づき始めたのは俺の方だった。
一方的に関わりを持とうとする俺に、サイラスは何も言わなかった。
口数は決して多くないが、冷たいやつだと思っていたのは偏見だと気づいた。
友人と呼べる関係になれたのがいつからか。
思えばサイラスは、初めから俺を拒絶したことなんて一度もなかった。
そうして、時間が経つに連れて、だんだんと軟派になっていく俺と違って、サイラスは相変わらず硬派な男だった。
浮ついた話の一つさえ聞かない。
どうやら侯爵家の跡取りとして、サイラスに課せられたものは尋常ではないようで、まともに睡眠すら取れていない様子。
健康で文化的な生活が送られているとは到底思えなかった。
「さすがにおかしいって」
そんな苦言を呈したところで、彼は困ったように笑うだけだった。
そして、何も出来ないまま何年か経った頃、仕事にも慣れ始めたサイラスは少しずつ調子を取り戻していった。
ミレイユ嬢がやって来たのは、丁度そんな頃だっただろうか。
「従姉妹のミレイユだ。つらい事が起きたばかりで、まだ立ち直れていないんだ」
そうサイラスに紹介される少女が、ただただ弱っている女にはとてもじゃないが見えなかった。
割と我が強いタイプだと思う。
正直、サイラスに誰かを心配している暇なんてあるのかと突っ込みたくなった。
仕事に慣れて余裕が出てきたのなら、その分自分自身をいたわって欲しかった。
崩れていったのは、その後。
学園に入学してきたミレイユ嬢と、サイラスの本物の妹であるセイラ嬢。
セイラ嬢のことは、俺自身よく知らなかった。
以前サイラスが、しっかりした強い子だと褒めていたことは記憶しているが、それだけ。
ミレイユ嬢への過保護ぶりはよく知っていたから、当然実の妹にもそうなのだと予想していた。
だが、蓋を開けてみると、全くそんなことはなくて、寧ろなんだか素っ気ない気さえしてくる。
「あ~…そう言うこと、ね」
現状を理解した時には、頭を抱えた。
完全に暴走。
皺寄せを食らうセイラ嬢に心底同情する。
サイラスの家庭環境は特殊だ。
早くに母を失い、遺されたのは、愛情を抱かないばかりか、自分の享楽のために、子を犠牲にするクズな父親と、まだ幼い妹。
縋れる拠り所もなく、侯爵家や妹、抱えきれないほどの重荷を背負わされたサイラスの苦労は計り知れないだろう。
妹や家のため、がむしゃらに走り続けてきた彼が、セイラ嬢の心にまで細やかに気を配ることはきっと難しかったはずだ。
もともと不器用なやつではある。
だが、生じてきた兄妹間の歪みが、ミレイユ嬢が訪れた事で大きくなっていったことも事実だ。
酷な話ではあるが、昔と今とでは状況も違う。
そう、成熟して余裕を取り戻した今のサイラスと、幼いセイラ嬢が手を伸ばした過去のサイラスとでは、まるで違うのだ。
二人の少女が助けを求めた時、そうしてやれるだけの力があったか、そうでなかったか。
それだけの差なのだろう。
そして、サイラス自身の少しの後悔。
幼いセイラ嬢に寄り添えなかった悔いが、ミレイユ嬢への行動を助長したのだろう。
それで実の妹を蔑ろにするのでは、本末転倒もいい所だが。
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ウォルター視点続きます!
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