これ以上ない幸福、もしくは、大いなる救済の物語

あんみつ~白玉をそえて~

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これ以上ない幸福、もしくは、大いなる救済の物語

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 最高級の羽毛布団、触れるだけで壊れてしまいそうな繊細なガラス細工、誰をも魅了する世にも美しい宝飾品。けれど世のどんなものも、彼を引きつけるには至らない。それを男が理解したのはあれから半年後のことだった。一度だって声を発したことのない彼に、今日も男は話しかける。
 最初はただの空想だった。自嘲が漏れてしまうくらいありえない、夢物語。でも、そんな御伽噺に憧れるのも良いではないか、なんて、最初に冗談交じりに言ったのは、誰だったか。
 ある日の事だ。男は、己の領地の湖で倒れた彼を見つけた。彼の姿は、遠目から見てもわかるほど異様だった。異様なまでに、美しかった。純粋な親切心と、少しの好奇心から、男は彼へと駆け寄った。肩を揺さぶっても、声をかけても反応はない。とりあえず手持ちの水でも飲ませようと、男が彼の背を起こした、その時だった。背中に触れた男の手は、言葉では言い表せない、奇妙な感覚をとらえた。本来人間の体にないはずのものが、そこにはごく当たり前のように存在していた。

「もうすっかり完治したようですね」

 壊れ物を扱うような優しい声で。男は翼を見つめる。

「本当に、あんなにも酷い状態だったのに......やはり天使様とは人間を超越した生き物なのですね。ああ!いえいえ、最初から人間ごときが天使様にかなうとは一切思っておりません。私たちのような下等な生物と貴方様を比べるなど、なんとおこがましい!失言でした、申し訳ございません」

 男は大げさな仕草で頭を下げる。彼のうつろな瞳は何も映していないのに。その謝罪だって、誰も聞いていないのに。

「……それにしても、本当にお美しい……」

 うっとりと男は目を瞬かせる。視線は彼の体を上から下へとゆっくり辿る。床まで広がる艶やかな髪。作り物のように透き通った瞳を縁取る豊かな睫毛。日の光を浴びていない、雪のように真っ白で長い手足。何にも捕らわれない、光り輝くような翼。男が望んだ完璧が、そこにはあった。
 こらえきれなくなったように、男は彼の足元へと這いつくばる。

「こらえ性のない男だと思われても......もう、耐えられません……どうか私のような卑しい者が触れることを、お許しください……ああ、その寛大な御心に感謝いたします」

 自ら聞いておきながら、返答を気にする素振りもなく、男は翼へと、恰好だけは恭しく口づける。リップ音とともに、甘く切なげな男の声が、辺りにこだまする。

「貴方様が去ってしまう日を思うと胸が苦しく、不安で夜も眠れないのです……ずっと前に完治した貴方様が旅立たない理由は私だと、私さえここにいれば貴方様が行ってしまわれないと、自惚れてしまいそうになります。貴方様の優しさに、溺れてしまいそうになります......溺れてしまっても、よいのですか?」

 鋭い痛みを伴うほど冷たい彼の手を取って。満足げに口の端を歪めて。男は今日も人形へ問いかける。

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