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眩暈のころ
01. ほぼ二十歳のころ 1
しおりを挟む大晦日のとの曇った冷たい午後、喫茶館でバター茶を飲みながら温まっているとき、蝉丸が、
「成人式のあと、中学の同窓会があるん知っとる?」と云った。「あと云うても夜、三越の裏のクラブであるんやって。会費制にして、卒業生やなくても、誰でも入れるようにするみたい」
「へー。しゃれた企画じゃんか」
「皆んな振袖とかで来るんやろか。まさか、しんどいよね。成人式で、たまに紋付着てる男子がおるけど、はりきりすぎじゃろ、て、つっこみたくなるわ」
「つっこまないと、申し訳がたたない気がするね。ふざけているようにしか見えないもの。そもそも、どうして成人式に出席したいのかが、全然分からない」
「ほんとほんと」
お互い十二月生まれなので、十九歳になりたてで成人と宣告されるのも癪にさわるうえ、会場に整列させられ坐らされ、偉いさん方の面白くもない訓示を拝聴したがる料簡が分からない。友だちに会えるから、と勧められても、会いたいひとには個人的に会いに行けばすむことだから、やっぱり理解が出来ない。蝉丸の意向も同様である。
「実は一応、着物を着て、写真は撮る予定なんよ。爺と婆が、記念に残しとけ、うるさいけん、たまには家族サービスするんもええやろ。あとで美味しいもんをご馳走してやる云われたら、よう断らんし」
そう云って、蝉丸は照れたように、短かくなった煙草を灰皿に押しつけた。
「で、同窓会は行くのかい」と、私が尋ねた。
「うん。当日の気分次第、て思ってたけど、近海が来るらしいけん」
懐かしい名前を聞いて、私ははっとした。
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