3 / 36
眩暈のころ
02. ほぼ二十歳のころ 2
しおりを挟む「青木も来たらいいよ。近海も喜ぶわ。あいつ、なんでか知らんけど、青木の兄貴分、みたいなつもりでおったもんねえ」
「そうだったっけ。舎弟になったつもりはないのになあ」
寒い風がごうごうと吹きすさび、古いガラス窓をしきりに揺らしている。近くで、金物の転がる音が聞こえた。
「青木に覚えがなくても、近海は気がかりやったんよ。己の心配せないかんのに、他人の心配してる場合じゃないやろ」蝉丸はしみじみと云った。
「一応は、回復したんでしょう」
「詳しくは知らんけど」
「こんがり日焼けして、めちゃくちゃマッチョになってたら、おかしいよね」
「ついでに声まで、無駄にでっかくなっとるとか」
「しかも濁声で」
冗談ではぐらかしてみたが、最後に見かけた、遮断機の向こうに佇む近海の、もの云いたげで紙のように白い顔が眼に浮かび、取り返しのつかない事が起こってしまったような胸騒ぎがして、私は堪らなかった。
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる