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眩暈のころ
03. 中学三年のころ(春) 1
しおりを挟む蝉丸とは中学の二年と三年が同じクラスで、近海とは三年で一緒になった。蝉丸と近海は一年の時、組が同じであったらしい。
近海はすらりと背が高く、態度が格別大きいわけでもないのに、その長身のせいか、随分ふてぶてしい感じがした。嫌味な優等生のようであり、横着な不良のようでもある、独特と云うよりか特殊な存在感を漂わせていた。
蝉丸を通じて、近海は早いうちに、私の顔と名前を覚えていたようである。友人と鬼ごっこをして教室を駆け回っていた時に、私は机の足につまづき、床に転んでしまった。
眼ざとく見つけた近海が、
「青木、鈍くさー」と独り言みたいに、ぽつりと云った。
他の者に知らしめるかのように、わざわざ宣告しやがったのである。私は彼を呪いながら、無言で立ちあがった。
後で思い返すと、近海のつもりはどうでも、言い訳をするチャンスが与えられたのだから、もじもじしていないで、「うっさい、ほっとけ」くらい云っておけば良かったのだ。
別の日の放課後、蝉丸と二人で渡り廊下に膝を立てて坐り、お喋りをしていたら、近海が前を通りかかった。
彼は抑揚のない口調で、
「きみら、パンツが見えている」と云った。
「短パンはいてるから平気」蝉丸と私がそろって答えると、
「お行儀が悪いと云っているんだ。見苦しい」
近海は、ついでに注意してみた、くらいの感情のこもらない声で云いながら、早足ですたすた歩いて校門を出て行った。
「近海は何か変わってるね」私が云った。
「そうかなあ。頭はええけど、良すぎて変、云うほどでもないし……あ、顔が変?」
「器量が、どうこうじゃなくってさあ」
「本人には云わんほうがええかもね。都合良く解釈して、俺は他の奴らと違って特別なんじゃ、云うて増長したらいかんもん」
「いや、だから、すでに増長してるようにも見えるわけさ」
「確かに、何か偉そうな感じする。一年の時から、あんなんよ。可愛げのない。あの自信は、どこからやって来るんやろ」
「うーん……それだけでもなくて」
的確に説明出来ないのがもどかしい。威圧的にふるまうことはないし、神経質なそぶりを見せることもないのに、近海をとりかこむ空気は、微量ながら常にぴりぴりとはりつめている。
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