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眩暈のころ
04. 中学三年のころ(春) 2
しおりを挟む「あー、分かった。なるほどねえ」と蝉丸が納得したように頷いた。「近海はバンドしよるけん、ステージにあがった時なめられんように、普段から練習しよんやないの。ギターかまえて、鏡の前で」
「何の練習だよ」
「かっこつける練習」
蝉丸の推理はともかく、いささか興味を惹かれなくもない話題だったので、私は、
「バンドやってんの」と尋ねた。
「ストーンズのコピーバンド。遊んでばっかしみたいやのに成績ええんやもん。体育は得意やし、おまけに背ぇはでっかい。不公平やと思わん?」
蝉丸は幼少のみぎりより、ミルクを飲んで身長を伸ばさんと勤めているそうだが、成果はまだ現れてはいなかった。
「天は二物を与えるからね」
「せめて、男前じゃなくて良かったわ。いやいや、男前なら良かったんよ。そしたら、全てを許してやるのに」
「ライブとか、やってんのかなあ。うちの学校の文化祭、コンサートみたいな気の利いたイベントないじゃんか」
「楽器店のしょぼいコンテストに出たとか、出れんかったとか、云いよった気がする」
「中坊ではライブハウスは無理だわね」
「青木は好きなん?」
いきなりな質問にぎょっとして、返答に困っていたら、
「ストーンズ」と蝉丸は私の動揺に気がつきもせず、あっさり云った。
「ブライアン・ジョーンズさんは素敵」
「ビートルズなら、スチュアート・サットクリフさんじゃねー」
「ねー」
結局、話題はそのまま、六十年代の洋楽のほうへうってしまい、近海の噂はお仕舞いになった。私は安心したような、がっかりしたような気持がした。
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