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眩暈のころ
18. 中学三年のころ(クリスマス前) 16
しおりを挟むさて、漫画雑誌を読み終えた私は、退屈なのでテレビをつけてみた。
途端に、中年の男性アナウンサーが、
「三時のニュースでん」と生真面目な口調で云った。
他に気づいた者はいなかった。アナウンサーは、さすがに動揺せず、澄まして原稿を読み進めた。
三時のニュースでん、三時のニュースでん、と頭のなかで渦巻かせていたら、
「僕は、青木さん家の新聞を配達してるんだ」だしぬけに四っつぁんが云った。
四っつぁんは、のぶおのバンドのギタリストである。不良でも優等生でもなく、ことさら大人しくもない、地味な風采の男子だった。
「へー」
私は会話を打ち切った。
彼に罪はない。だが、実家が米屋なのをコンプレックスに感じていた自意識過剰な私は、「何でこいつが、あたしの家だと知っているのだ」と内心慌てふためき、それすら尋ねられずにいた。
家計を助けているのかとか、バンド活動の資金にしているのかとか、敷衍はしなくても、せめてたった一言、「あんたバイトしてて偉いねえ」とねぎらいの言葉をかけていれば良かったと、今さらながら、本当に悔やまれる。
あんまり盛り上がらないクリスマス会だったけれども、その日のことは、何となく心地よい思い出として残っている。
ついでに思い出したので書いておく。
若干の変更を加えたメンバーで、自転車に乗り、初詣にも出かけた。
人混みにもまれながら屋台をひやかし、参拝をすませてお神籤を引き、さて帰る段になってみると、のぶおの姿がない。幼児やないけん、探さんくても大丈夫やろ、と片付けて、放っぽらかしたまま、みんなでバーガーショップへ行った。
新学期にのぶおと再会したときには、のぶお迷子事件のことなどすっかり忘れていた。
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