ロボ彼がしたい10のこと

猫屋ちゃき

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第四話

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「ごめん、星奈。幽霊とか言ったら怖がらせちゃった? てか、不謹慎だよね。ごめん……」
「幽霊なんていない」

 星奈の様子の変化に幸香があわてて言い繕おうとすると、エイジがやや語気を強めて言った。そのきっぱりとした物言いに、星奈も幸香も驚く。

「だ、だよね。さすがロボットが言うと違うね。説得力があるー。うん、いるわけない。大丈夫だよ、星奈」

 渡りに船とばかりに、エイジの言葉に乗っかって幸香はこの場を収めようとした。

「そうだね」

 雰囲気を悪くしたかったわけではないから、星奈もとりあえず笑ってみせた。エイジがなぜ強く言葉を発したのか気になったけれど、表情がないからわからなかった。

「それにしても家庭用ロボットのモニターかあ。使い心地を確かめるって、あれ? 『エイジ、○○って検索して』みたいなのをさせてみるの?
エイジ、明日の天気は?」

 幸香はエイジのことを何とか受け入れようとしているのか、唐突にそんなことを言い出した。
 何か違うのではないかと星奈は思ったのだけれど、案の定エイジも首を傾げていた。おまけに心なしか口元は歪んでいる。

「自分のスマホで調べたらいいだろ。俺はスマートスピーカーじゃないんだぞ」
「何よその言い方! あー何かめっちゃ今の瑛一っぽいわー」
「ぽいとかぽくないとかよくわからないけど、とにかく俺はスマートスピーカーじゃないからな」

 幸香に言われたことがよほど嫌だったらしく、エイジはあからさまに嫌悪感を示していた。研究所からやってきて三日目で、初めてのことだ。

「気分的には、外国人留学生を受け入れるホストファミリーみたいな感じでいいって。異文化交流の中で人間的な感情の変化が生まれるのが目的らしいんだ。あと、情緒の面で欠けてるなって部分を感じたら報告して欲しいって」

 幸香とのやりとりを見て、まさに異文化交流だなと星奈は思った。エイジの変化を見ると、幸香と会わせたのはよかったのかもしれない。

「ホストファミリーかあ。そういうことなら、何か理解できた気がする」
「あとね、エイジは自分で“やりたいことリスト”を作ってるから、それを実現するための手伝いをするのが、このモニターのバイトの主な内容だと思う」

 星奈は冷蔵庫にマグネットで貼っておいたリストを取ってきて、幸香に渡した。

「何これ。一個目からして変なの。『お好み焼きを食べてみたい』って、外国人かよ」

 リストを目にした幸香が、早速つっこんだ。
 二人のバイト先であるお好み焼き屋さんには、わりと外国人観光客が来る。留学生も来る。お好み焼きが食べたい外国人の気持ちがよくわからないから、つっこみを入れた幸香の思いは理解できる。

「食べてみたいものがお好み焼きでよかったよ。天ぷらとか食べたいって言われても、私作れないもん」
「だよね。てかエイジのやりたいことってさ……何か可愛いね」
「でしょ」

 リストを見て、幸香も星奈と同じことを思ったらしい。エイジのやりたいことは、どれもささやかで、そして何だか可愛らしい。
 これがロボットのやりたいことだというのが、心をくすぐるのだ。研究所から出るに当たって、エイジがこのリストを真野や長谷川と相談しながら考えたのだと想像すると、優しい気持ちになる。

「なるほどねえ。だったら全部、叶えてあげたいよね。で、星奈だけじゃなく協力者が増えれば、それだけうまくいきやすくなるってことでしょ?」

 俄然やる気になったらしい幸香が、そう言ってニカッと笑った。それを見て、エイジはキョトンとする。
 それはキョトンとしか表現できない顔だ。目を軽く見開き、口も半開きになっている。顔を合わせてしばらくはずっと睨まれていたのだから、そうして驚くのも無理はないだろう。

「じゃあ、今から作戦会議といきますか! その前に、腹ごしらえね! 何か作るから」
「やったー!」

 やる気になった幸香の宣言に、星奈は歓喜した。
 幸香は星奈と違い、かなりの料理上手だ。その派手な見た目には釣り合わないほどマメで、研究熱心で、凝り性なのだ。
 そんな幸香の手料理を食べられるとあって、星奈は嬉しくて小躍りした。協力を申し出てくれたのが嬉しいのもあって、気分はぐっと上向きになる。

「泣いたり笑ったり……セナは忙しいな」

 この喜びぶりの理由がわからないエイジは、星奈を見てそう言った。


「米が炊けるのも諸々合わせて、四十五分くらい待ってねー」
「はーい」

 スーパーで必要なものを買い揃えてきてから、幸香は改めてキッチンに立った。バターチキンカレーを作ってくれるのだという。慣れた様子の頼もしい背中に期待しつつ、星奈は真野たちからもらった名刺を手にスマホでメールを打ち始める。

「モニターとしてレポート書くのって、難しいねえ。大学の課題もそうなんだけど、書き出しでまずつまずくんだよね」

 エイジのことをレポートにしようとするも、こういったことに慣れていないため、星奈は早速頭を抱えた。

「大学の課題はあれだけどさ、商品としての使い心地をレポートするんなら、コスメのレビューとか参考にしたらいいんじゃない? コスメのモニターは何回かやったことあるけど、気になることと改善して欲しいところ、それから気に入ったところを書けば大丈夫な感じだよ」
「そんなもんか」

 幸香に言われた通り、星奈は有名なコスメのレビューサイトを検索した。星の数による評価と簡単な文章によるレビューが並んでいて、パッと見てわかりやすい。中の文章は、わりと言いたい放題だ。褒める文章ばかり並んでいるのではないのが、信用できるということだろうか。

「エイジは、こんな感じでいいと思う?」
「うん。というより『お好み焼き食べた。映画見た。買い物行った。エイジ異常なし』でいいと思う」
「そ、そっか」

 なにもすることがないから虚空を見ていたっぽいエイジに声をかければ、そんな返事が返ってくる。
 それでは夏休み最終日にあわてて書いた日記帳みたいであまりにひどいから、もう少し丁寧に書こうと星奈は思った。

(モノレールに乗ったときの反応も変だったから、それも報告しておこう。あれはたぶん、様子が変だった)

 三日分の行動の報告と、気になることについて星奈はメールに書いた。どうすればわかりやすいか考えて、「行動」とそれに対するエイジの「反応」とその他の気になったことを記しておく「備考」にわけることにした。
 これを最長でも半年間続けるのなら、きちんとパソコンでテンプレートを作っておくのもありなのかもしれないなどと考えているうちに、幸香が食器を手にテーブルを拭きにきた。
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