紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

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相模ノ統吾郎一味の探索〜其の肆。

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 吉原の一切を取り纏める会所の頭取である四郎兵衛は、若衆に命じて茶と梅の実三つを伝三郎達に共した。
「紀州の梅の実でございます」
「これは馳走だ。某は梅の実は紀州贔屓でしてな。どれ一つ」
 口に含むと梅の実の何とも言えぬ上品な味と香りが舌と鼻を楽しませてくれる。
「やはり紀州の梅の実でござるな」
 藤助も口にして称賛するが、勘吉に梅の実の味の良さはまだ分からないようだ。
 茶葉も良い味と香りをしている。
 八女でも宇治でもない。
「狭山の茶葉でござるか」
 これには四郎兵衛もちょっと驚いたようで、思わず感嘆の声を上げた。
「小柳の旦那の御母堂様は茶道楽でしてね。小さい時分から舌を仕込まれたらしいんで。へい」
 藤助の言葉に四郎兵衛が笑った。
「それはそれは。今時珍しい事にございますな。小柳様は良き御母堂様をお持ちになられたようで。宜しければ少々お土産に包みましょうかな」
「それは忝い。母の喜ぶ顔が目に浮かびまする」
 伝三郎は自然と頭を下げた。
 すると四郎兵衛がまた笑った。
「小柳様は珍しい御方でございますな。お武家様が町人に。それもこのような卑しき稼業の者に頭をお下げになられるとは初めての事にございますよ」
「ふむ。それ程に珍しい事かな。士分であれ何であれ、良き事悪しき事に拘らず頭を下げるのが本当ではないのかな」
 これには四郎兵衛のみならず、藤助も勘吉も控えている会所の若衆までもが驚嘆した。
 確かに伝三郎の言う事は正しいのだが、それをできる者がいるかと聞かれれば首を横に振るのが世の常である。ましてや武家衆が町衆に頭を下げるなどお天道様が西から上るくらい有り得ない事だった。
 それを伝三郎は至極当たり前の事だと言ってのけた。これは並大抵の人物ではないと誰もが確信した。
「時に四郎兵衛殿。桃花楼に揚羽なる太夫がおりますな」
「京のお大尽、西野屋惣兵衛様の事にございますかな」
 打てば響くとはこの事だろう。
「確かに上客ではございますが、この御時世には相応しくない遊び方をなさいますでな。私共もそれなりに気にかけておりましたが、どなた様にございますかな」
「ふむ。さすがは四郎兵衛殿じゃ。彼奴めは京、大坂一円を荒らし回る畜生働きの凶賊にて、四人の手下を率いる相模ノ統吾郎でござるよ」
「成る程。では揚羽と遊ぶ金は盗み金にございましたか」
「如何にも左様。彼奴めは二十日程前に江戸入りし、その日の内に浅草にある質商小江戸屋与四郎方に押し込み、二百三十両もの金子を盗み取ったる上に一家皆殺しにいたした凶賊、いや犬畜生にも劣る外道の人非人でござる」
「な、何と。小江戸屋さんに押し入ったのが西野屋惣兵衛こと相模ノ統吾郎でしたか」
 聞けば、小江戸屋与四郎は出雲楼の染香という遊女の客で、派手ではなかったが、さっぱりした遊び方をする事で吉原ではそれなりに名の売れた人物であったようだ。
「小江戸屋さんが盗人一味に襲われなさった事は存じておりましたが、まさかその盗人めが堂々とこの吉原でお大尽遊びに耽っていたとは」
 四郎兵衛の拳が小刻みに震え、額に太い青筋が浮かんでいる。
「四郎兵衛殿。某は畏れ多くも上様から斬り捨て御免状を賜ったる身にござる。なれど、この吉原で刃を振るうは野暮の極み。なれば吉原を出た後で縄を打つか斬り捨てるのみ。合力願えまいか」
 伝三郎の頼みに、四郎兵衛は間髪入れずに大きく頷いた。
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