紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

文字の大きさ
4 / 41

相模ノ統吾郎一味の探索〜其の参。

しおりを挟む
 小柳伝三郎と堀越ノ藤助親分、下っ引きの勘吉は谷中の道を吉原へと向かっていた。
 伝三郎は羽織袴ではなく、ちょっと崩した髷に着古した物とまでは言えないが、二、三回は洗い張りしたような紺絣の着流しに茶帯を巻き、腰の大小を落とし差し、紫房ノ十手は懐に隠している。
 藤助親分は小間物問屋伊勢屋の主人藤右衛門で、勘吉は小僧か手代見習いの勘助という役を演じている。
 これなら吉原遊びの主人と小僧、それの用心棒だと誰もが信じて疑うまい。
「伊勢屋の旦那。駕籠を使いますか」
 伝三郎の柳田真太郎が言うと、
「それは良いですね。派手に乗り込みましょうかね」
「お、親分。おいらも乗るんですかい」
「馬鹿野郎。親分じゃなくて旦那様と呼べと言っただろうが」
 勘吉は藤助親分に軽い拳骨を喰らってしまった。
「まあまあ、落ち着け。こんな所で騒ぐんじゃあねぇよ。人目があらぁな」
 伝三郎が小声で割って入ると、藤助の藤右衛門はハッとした顔になり、勘吉の勘助は焦ったような顔付きになった。
「こりゃあどうも申し訳のねえこって」
「すいやせん」
 二人が軽く頭を下げるのへ、近くに屯ってる駕籠かき達に声をかける。
「駕籠を三丁頼めるかい」
「へい。三丁でござんすね。それで白でござんすかい。それとも赤ですかい」
 ここで言う白とか赤とか言うのは吉原道中の酒手の他のご祝儀代の事だ。
 祝儀の値段をどうこうする遣り取りが面倒なので伝三郎は財布から一朱金を二枚取り出して駕籠かき達に一枚ずつポイっと投げ渡した。
 一朱金は銭に換算すると約二百五十文になるので祝儀としては充分だろう。
 駕籠かき達がにんまりと笑った。
 伝三郎達(主に伝三郎)を上客と見たのだろう。
 加護に乗った伝三郎、藤助親分、勘吉は威勢の良い駕籠かきの声に揺られながら吉原道中を行く。
「用心棒の旦那。着きやしたぜ」
 駕籠の垂れを巻き上げると確かに吉原の大門があった。
「早かったな。駕籠屋。また頼むぞ」
「へぇい。今後もどうぞご贔屓に」
 追加で一朱金を渡すと駕籠かき達は満面の笑みで去っていった。
「柳田さん。参りましょうかね」
「うむ。参ろうではないか」
「勘助。遅れるんじゃありませんよ」
「はい。旦那様」
 伝三郎達は役になりきって大門を潜った。
 まずは四郎兵衛会所にいかねば。
 会所の若衆の一人に声をかける。
「頭取はいなさるかい」
「へえ。どちらさんで」
「南町奉行所年番方与力付き同心小柳伝三郎だ」
 懐の紫房ノ十手をチラッと見せると、若衆は慌てて頭を下げた。
「こいつはどうも、とんだ御見逸れを」
「御用だ。四郎兵衛の頭取に取り次いでくんな」
 若衆は会所に飛び込むように走っていった。すると、直ぐに戻ってきた。
「頭取がお会いすると」
「そうかい。手間をかけたな。コイツは酒手だ。皆んなでってくれ」
 一分金を一枚握らせると、若衆達の顔が綻んだ。
 四郎兵衛会所の二階座敷に通されると
其処には四十五、六くらいの貫禄のある男が座っていた。
「四郎兵衛殿かな」
「はい。この吉原を取り纏めます会所の頭取で四郎兵衛にございます」
「若衆から聞き及びではござろうが改めて。拙者、南町奉行所年番方与力付き同心小柳伝三郎にござる。以後よしなに」
「こちらこそよろしくお願い申し上げます」
 何故だろうか。四郎兵衛とは初めて会ったにも関わらず、まるで旧知の友人に再会したかのようなそんな懐かしい気持ちが心の中を吹き抜けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。 毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!

処理中です...