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加増、下賜品、礼金、礼品〜其の弐。
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「上意」
「ははあぁっ」
伝三郎はその場に平伏した。
「上意。南町奉行所年番方与力付同心小柳伝三郎敏和。其の方、御府内は元より関東一円にて悪逆非道の数々を働きし浪人盗賊団回天党を討ち取り、盗人宿を突き止めて盗み金六千七百七十五余両を取り返したるその手腕、腕前、真に天晴れ至極なり。よって、加増百俵二人扶持、馬上太刀一口、素槍一本、銀子五百両、馬一頭を下賜し、松平の姓を与え、御目見得御免とし、越前守直属の隠密与力に任ずるもの也。享保八年十月九日、征夷大将軍徳川吉宗」
「ははあぁっ。有り難き幸せ」
異例も異例、幕府開闢以来の異例の珍事である。
加増分を合わせると、伝三郎の家禄は百五十俵四人扶持で、御目見得御免の上に馬をも下賜されたので、足軽、御家人ではなく歴とした旗本身分になったのである。又、松平の姓を与えられたという事は、徳川家一門に連なる者として扱われるという事だ。
よってこれからは『松平伝三郎敏和』と名乗る事になる。
分家立ちどころか別家立てになった。
これは一度実家の小栁家に挨拶にいかなければならないな。
それにしてもと控えの間を見ると、まあ、山積みの進物の数々よ。
「御奉行。あの進物でございますが。当家のみにて貰い受けるは些か荷が重うございまする」
「ふむ。然れば如何致すな」
「は。できますれば与力、同心の皆様方にも些少なりともお裾分けをできますれば、はい」
「ふむ。左様よの。其の方一人のみが貰い受けては妬む者が出ぬとは言い切れぬの。相分かった。其のように取り計らおう」
「忝うございます」
あんなに貰っても置き場がないし、生物などの食品が腐ってしまう。それならばとお願いしてみたらあっさりとお許しが頂けたので、正直言ってホッとした。
加増に五百両もの大金に馬上太刀、その上に松平の姓までもとは望外に過ぎる。いや、望外過ぎた。
「伝三郎」
「はい」
「これは奉行所からの御褒美金じゃ」
まだあったのかと心の中で叫びながら頂戴した奉書紙包みの重さから察するに十両くらいだろう。
「有り難き幸せにございます」
「手傷は無かったとは言え昨日の今日じゃ。疲れてもおろう。今日はもう帰って休め。体を休めるのも仕事の内じゃぞ」
「それでは御言葉に甘えまして。御免仕りまする」
疲れているかと問われたら、疲れていると答えるくらいには疲れている。しかし、そうと分かっていて呼び出したのは御奉行じゃありませんかとは口が裂けても言えるわけがない。なのでさっさと帰って眠りたい。熱燗を一杯ひっかけて布団に入りたい。
そうと思えば足取りが急に重たくなったし、体も怠い。
下賜品やその他の進物は届けてくれるのだがら、手ぶらで帰れる。
「日村様。某は参加できませぬが、これで皆様方と何処ぞで一杯」
伝三郎が御褒美金から五両を渡すと、日村はちょっと驚いたようだが、直ぐに笑顔で頷いた。
「良く分かっておるな。御進物も皆に分けるのだから、お主の株も鰻上りじゃな。相分かった。皆で飲むとしよう」
「御配慮の程、有り難く」
日村に一礼して足早に奉行所を出ると門前にお静が待ち受けていた。
「旦那。お疲れ様でございます」
「おう。疲れたぜ」
「御褒美は出ましたか」
「まあな。御公儀から五百両、御奉行からは十両。その他下賜品や進物が山積みだった。そんなの持ち帰れねえから、今は目録だけ貰ってきた。帰ったら読んでみるさ。まあ、それだけで疲れそうだがな」
「それはそれは。ふふふ」
「何だよ、その含み笑いは」
ジト目で見ると、
「旦那。御進物とやらが屋敷に届いてないとでもお思いですか」
「まさか」
「はい。そのまさかです。出入りの商人からも沢山届いてますよ」
「か、勘弁してくれ」
「勘弁も何も、それだけの事をしてのけたんですからしょうがないじゃありませんか。それに、お金は幾ら有っても困りませんからね。有り難く受け取っておきましょうよ」
「屋敷の根太が壊れないか」
「壊れるようなら蔵を建てればいいだけじゃありませんか。さあ、早く帰りましょう」
「ああ。そうだな」
悪党を斬って疲れ、御褒美を貰って疲れるとは、何とも困ったもんだな。
「ははあぁっ」
伝三郎はその場に平伏した。
「上意。南町奉行所年番方与力付同心小柳伝三郎敏和。其の方、御府内は元より関東一円にて悪逆非道の数々を働きし浪人盗賊団回天党を討ち取り、盗人宿を突き止めて盗み金六千七百七十五余両を取り返したるその手腕、腕前、真に天晴れ至極なり。よって、加増百俵二人扶持、馬上太刀一口、素槍一本、銀子五百両、馬一頭を下賜し、松平の姓を与え、御目見得御免とし、越前守直属の隠密与力に任ずるもの也。享保八年十月九日、征夷大将軍徳川吉宗」
「ははあぁっ。有り難き幸せ」
異例も異例、幕府開闢以来の異例の珍事である。
加増分を合わせると、伝三郎の家禄は百五十俵四人扶持で、御目見得御免の上に馬をも下賜されたので、足軽、御家人ではなく歴とした旗本身分になったのである。又、松平の姓を与えられたという事は、徳川家一門に連なる者として扱われるという事だ。
よってこれからは『松平伝三郎敏和』と名乗る事になる。
分家立ちどころか別家立てになった。
これは一度実家の小栁家に挨拶にいかなければならないな。
それにしてもと控えの間を見ると、まあ、山積みの進物の数々よ。
「御奉行。あの進物でございますが。当家のみにて貰い受けるは些か荷が重うございまする」
「ふむ。然れば如何致すな」
「は。できますれば与力、同心の皆様方にも些少なりともお裾分けをできますれば、はい」
「ふむ。左様よの。其の方一人のみが貰い受けては妬む者が出ぬとは言い切れぬの。相分かった。其のように取り計らおう」
「忝うございます」
あんなに貰っても置き場がないし、生物などの食品が腐ってしまう。それならばとお願いしてみたらあっさりとお許しが頂けたので、正直言ってホッとした。
加増に五百両もの大金に馬上太刀、その上に松平の姓までもとは望外に過ぎる。いや、望外過ぎた。
「伝三郎」
「はい」
「これは奉行所からの御褒美金じゃ」
まだあったのかと心の中で叫びながら頂戴した奉書紙包みの重さから察するに十両くらいだろう。
「有り難き幸せにございます」
「手傷は無かったとは言え昨日の今日じゃ。疲れてもおろう。今日はもう帰って休め。体を休めるのも仕事の内じゃぞ」
「それでは御言葉に甘えまして。御免仕りまする」
疲れているかと問われたら、疲れていると答えるくらいには疲れている。しかし、そうと分かっていて呼び出したのは御奉行じゃありませんかとは口が裂けても言えるわけがない。なのでさっさと帰って眠りたい。熱燗を一杯ひっかけて布団に入りたい。
そうと思えば足取りが急に重たくなったし、体も怠い。
下賜品やその他の進物は届けてくれるのだがら、手ぶらで帰れる。
「日村様。某は参加できませぬが、これで皆様方と何処ぞで一杯」
伝三郎が御褒美金から五両を渡すと、日村はちょっと驚いたようだが、直ぐに笑顔で頷いた。
「良く分かっておるな。御進物も皆に分けるのだから、お主の株も鰻上りじゃな。相分かった。皆で飲むとしよう」
「御配慮の程、有り難く」
日村に一礼して足早に奉行所を出ると門前にお静が待ち受けていた。
「旦那。お疲れ様でございます」
「おう。疲れたぜ」
「御褒美は出ましたか」
「まあな。御公儀から五百両、御奉行からは十両。その他下賜品や進物が山積みだった。そんなの持ち帰れねえから、今は目録だけ貰ってきた。帰ったら読んでみるさ。まあ、それだけで疲れそうだがな」
「それはそれは。ふふふ」
「何だよ、その含み笑いは」
ジト目で見ると、
「旦那。御進物とやらが屋敷に届いてないとでもお思いですか」
「まさか」
「はい。そのまさかです。出入りの商人からも沢山届いてますよ」
「か、勘弁してくれ」
「勘弁も何も、それだけの事をしてのけたんですからしょうがないじゃありませんか。それに、お金は幾ら有っても困りませんからね。有り難く受け取っておきましょうよ」
「屋敷の根太が壊れないか」
「壊れるようなら蔵を建てればいいだけじゃありませんか。さあ、早く帰りましょう」
「ああ。そうだな」
悪党を斬って疲れ、御褒美を貰って疲れるとは、何とも困ったもんだな。
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