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臨時職『討伐隊』結成。
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伝三郎が南北両町奉行所与力同心達十九名に人斬りの術を指導し始めてから半月が過ぎた頃、全員が二枚の畳を斬れるようになったので、次に刃引き刀での実戦形式の稽古をつける事にした。
皆、死なないとは分かっているが、やはりおっかなびっくりで腰が引けていて中々斬り合いの間合いに入れないようだ。
しかし、伝三郎はそれを許さなかった。
「貴様ら、死にたいのかっ!斬らねば斬られる。殺さなければ殺されるのだ。死にたくなければ敵を殺せっ!斬りたいから斬るのではない。死にたくないから斬るのだ。それを頭に叩き込めっ!」
「「「はいっ」」」
三谷七右衛門を筆頭にして刃引きの刀での実戦的な斬り合い稽古が始まった。
初めこそ消極的であったが、やがて本気の殺気を放ちながら勇んで刃引き刀を振るっている。
初めて人を斬るために、御様御用役の山田浅右衛門殿に願い出て、首斬りと胴斬りをさせてもらいもした。
刃引き刀での斬り合い稽古、巻藁斬り稽古、組討稽古、首斬り、胴斬りは凄惨を極めたが、それに文句を言う者は一人もいなかった。
それから半月が経つと、皆、立派な人斬りの顔付きになっていた。
それを見た南町奉行大岡越前守忠相と北町奉行大久保備中守実隆は僅か一ヵ月でこうまで変わるのかと驚きを隠せないでいた。
「伝三郎。良くやった」
「見事である」
「はい。しかし、某はただ人の斬り方を指導したのみにて、真の功労者はこの場に控えおります方々にございますれば、お褒めの御言葉を彼らに賜りとう存じまする」
「うむ。それはそうじゃな」
「皆の者。良くやった。見事であるぞ」
お褒めの言葉を賜った皆は感激の余り涙を禁じ得なかった。
また、伝三郎の謙虚な人柄に胸打たれるものを感じていた。
「ああ、そうじゃ。うっかりしておったが、皆の者に吉報がある」
はて、吉報とは何ぞや。
伝三郎達は静かに待った。
「其の方らに臨時職を務めさせよとの御内意が下った」
「その名は『討伐隊』である」
討伐隊とは何ぞや。
「盗賊白浪ノ権蔵一味に対抗し得るだけの剣術の腕前を会得した其方らで討ち取るべく臨時に設けられた御役目じゃ」
「御役料は金二十五両じゃ」
「金二十五両にございますか」
北町奉行所定町廻り同心田辺三郎次が素っ頓狂な声をあげた。
「左様。金二十五両じゃ」
おおっ。
響めきにも似たような歓声が上がった。
「捕物装束じゃが、紺色の小袖に裁っ付け袴、鉢金、鎖帷子、鎖籠手、鎖脛当、刀、長脇差、十手となる」
「御奉行。長脇差にございますか」
「うむ。刀が折れた時、刃毀れ著しき時のための用心にの」
これは人を斬るためだけの物だと誰もが得心した。
「葵の旗印を賜った故、皆々抜かるでないぞ」
「葵の旗印に負けぬように、御役目に励め」
「「「「応っ」」」」
かくして、南北両町奉行所の有志による『討伐隊』が結成されたのであった。
皆、死なないとは分かっているが、やはりおっかなびっくりで腰が引けていて中々斬り合いの間合いに入れないようだ。
しかし、伝三郎はそれを許さなかった。
「貴様ら、死にたいのかっ!斬らねば斬られる。殺さなければ殺されるのだ。死にたくなければ敵を殺せっ!斬りたいから斬るのではない。死にたくないから斬るのだ。それを頭に叩き込めっ!」
「「「はいっ」」」
三谷七右衛門を筆頭にして刃引きの刀での実戦的な斬り合い稽古が始まった。
初めこそ消極的であったが、やがて本気の殺気を放ちながら勇んで刃引き刀を振るっている。
初めて人を斬るために、御様御用役の山田浅右衛門殿に願い出て、首斬りと胴斬りをさせてもらいもした。
刃引き刀での斬り合い稽古、巻藁斬り稽古、組討稽古、首斬り、胴斬りは凄惨を極めたが、それに文句を言う者は一人もいなかった。
それから半月が経つと、皆、立派な人斬りの顔付きになっていた。
それを見た南町奉行大岡越前守忠相と北町奉行大久保備中守実隆は僅か一ヵ月でこうまで変わるのかと驚きを隠せないでいた。
「伝三郎。良くやった」
「見事である」
「はい。しかし、某はただ人の斬り方を指導したのみにて、真の功労者はこの場に控えおります方々にございますれば、お褒めの御言葉を彼らに賜りとう存じまする」
「うむ。それはそうじゃな」
「皆の者。良くやった。見事であるぞ」
お褒めの言葉を賜った皆は感激の余り涙を禁じ得なかった。
また、伝三郎の謙虚な人柄に胸打たれるものを感じていた。
「ああ、そうじゃ。うっかりしておったが、皆の者に吉報がある」
はて、吉報とは何ぞや。
伝三郎達は静かに待った。
「其の方らに臨時職を務めさせよとの御内意が下った」
「その名は『討伐隊』である」
討伐隊とは何ぞや。
「盗賊白浪ノ権蔵一味に対抗し得るだけの剣術の腕前を会得した其方らで討ち取るべく臨時に設けられた御役目じゃ」
「御役料は金二十五両じゃ」
「金二十五両にございますか」
北町奉行所定町廻り同心田辺三郎次が素っ頓狂な声をあげた。
「左様。金二十五両じゃ」
おおっ。
響めきにも似たような歓声が上がった。
「捕物装束じゃが、紺色の小袖に裁っ付け袴、鉢金、鎖帷子、鎖籠手、鎖脛当、刀、長脇差、十手となる」
「御奉行。長脇差にございますか」
「うむ。刀が折れた時、刃毀れ著しき時のための用心にの」
これは人を斬るためだけの物だと誰もが得心した。
「葵の旗印を賜った故、皆々抜かるでないぞ」
「葵の旗印に負けぬように、御役目に励め」
「「「「応っ」」」」
かくして、南北両町奉行所の有志による『討伐隊』が結成されたのであった。
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