紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

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白浪ノ権蔵一味の探索〜其の肆。

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 伝三郎と七右衛門は示し合わせたかのように目を覚ました。
 時は寅ノ上刻(午前一時から三時頃)。
 寅ノ上刻と言えば夜討ちと言うより寧ろ朝駆け。
 討伐予備隊が持ち込んだ捕物装束に着替えると、穂畑屋の裏手に集結した伝三郎ら四十八名は、今一度捕物装束に不備がないかを確かめた。
 額に鉢金、襷掛けの小袖の下に鎖帷子、手甲の上に鎖籠手、裁っ着け袴の上に鎖脛当、刀と脇差の目釘を湿らせ、柄巻を絞るように締める。御用提灯に火を灯し、二代目白浪ノ権蔵一味が投宿している山野屋の表と裏を固めた。
 捕物がある事を宿場役人や周りの旅籠には四半刻前に報せた。どうして前もって報せなかったのかと言うと、もしかすると内通者がいるかもしれないからだ。
 山野屋の主人も白浪一味で、投宿しているのも全て白浪一味の者達だから何の障りもなく討ち込める。
「各々方。覚悟は宜しいな」
 静かな頷きが返ってきた。
 捕方達が刀を抜き連れたのを見て、伝三郎は大きく息を吸い込み、
「南北両町奉行所討伐隊である。白浪ノ権蔵以下一味の者共、神妙に致せっ」
 大音声で叫ぶと、大戸を槌で打ち破って斬り込んだ。
 そこからは大乱戦となった。
 いきなりの討ち込みに山野屋主人太一郎他奉公人達が慌てて道中差や長脇差、匕首、包丁で斬りかかってくるのを打ち払って斬り捨てる。
「斬れ、斬れ、斬って斬って斬り捲れっ」
 伝三郎の檄を受け、七右衛門や同心達が奮起して斬り捲る。
 山野屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだ。首や手足、深々と斬られた死体が転がり、血の海が広がっている。
 討伐隊の面々は返り血を浴び、顔も捕物装束も真っ赤に染まり、まるで赤鬼のような姿になっている。予備隊の同心達はその姿と殺気、余りにも凄惨な斬り合いを目の当たりにし、不覚にも胃の中の物を吐いてしまった者もいる。
 次々と討ち取られていく盗人達を見て一人の盗賊が逃げ出した。
 が、それを見た一味の者が、
「お頭。俺達を見捨てるのかっ」
 と叫んだので、其奴をよく見ると、初代白浪ノ権蔵こと権六が書いた人相書きと同じ顔だったので、手下達を見捨てて逃げ出そうとしたのが二代目白浪ノ権蔵だと気付いた。
 伝三郎はすかさず二代目権蔵の足を狙って分銅付きの捕縄を擲った。
 捕縄は二代目権蔵の両足に巻き付き、権蔵は転んでしまった。長脇差で捕縄を斬り払おうとするも、伝三郎が捕縄を右に左にと引っ張るので二代目権蔵は長脇差を取り落とし、ごろごろと転がりながら引き寄せられる。
「二代目白浪ノ権蔵。テメェだけは生捕りになんかしねえからな。テメェが手に掛けた人々の怨みを背負い、あの世で滅多斬りにされるがいいぜ」
 伝三郎は、命乞いをする二代目白浪ノ権蔵に対して耳を傾ける事なく、拝領刀の同田貫上野介二尺五寸を八双に構えて振り下ろし、一太刀で二代目権蔵の首を刎ね飛ばした。
「南町奉行所与力松平伝三郎敏和が、二代目白浪ノ権蔵を討ち取ったり」
 大音声で叫ぶと、生き残っていた八人の手下達は、自分達のお頭が討ち取られたのを知り、刃向かう気を失って道中差や長脇差、匕首を投げ捨てた。
「召し捕れっ」
 討伐隊の同心達が八人に縄を打つ。
「残党の有無を調べよ。刃向かう者は斬り捨てろ」
 調べた結果、残党は一人もおらず、討ち取った者十九名、捕らえた者八名の計二十七名が白浪一味の全てだった。
 一息入れて刀に刃毀れがないかどうかを確かめ、手拭いで血脂を拭い取り、懐紙で念入りに拭いをかける。
 刀を納め、代わりに十手を抜いたその時、討伐予備隊の同心が三人の宿場役人に縄を打って連れてきた。
「鮎川。その者共は如何した」
「はい。この三名は白浪一味の内通者共にございます」
 七右衛門の問いに答えたのは討伐予備隊の北町奉行所高積見廻り同心高山満吉で、その後ろには四人の見習い同心がいた。
「松平殿。捕り逃した者は居らぬようでござるな」
「如何にも左様でござるな。各々方、勝鬨を上げよっ」
 予備隊を含む討伐隊四十八名は十手を高らかに突き上げ、千住宿中に響くような大声で、
 えい、えい、おーっ
 えい、えい、おーっ
 えい、えい、おーっ
と勝鬨を上げた。
 伝三郎ら討伐隊の討ち込みで宿場の殆どが目を覚ましていたので、勝鬨を上げると、やんややんやの大喝采が巻き起こった。
 伝三郎達は宿場の番屋に生捕りにした八名を連れて行き、夜明けまでじっくりたっぷりと尋問という名の拷問で盗み金の隠し場所を白状させた。
 隠し場所は山野屋の台所の水瓶の下だった。
 掘り起こしてみると、何と十個もの千両箱と小粒金や銀子、銭が入った大甕が埋まっていた。それを数えると、六百八十八余両もあった。千両箱と合わせると、実に一万六百八十八余両もの大金であった。
 しかも、諸国の盗人宿には別に二万余両もの盗み金があると言うのだから、これは驚いた。
 討伐及び捕縛が終わったのは、東の空が明るくなり始めた頃だった。後始末を宿場役人に任せて、伝三郎らは疲れ切って重くなった足を引き摺るようにしながら、千両箱十個と大甕を大八車に積み込み、生捕りにした八名の一味の者共並びに内通者の宿場役人三名を引き連れて江戸の町に戻っていった。
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