20 / 41
白浪ノ権蔵一味の探索〜其の肆。
しおりを挟む
伝三郎と七右衛門は示し合わせたかのように目を覚ました。
時は寅ノ上刻(午前一時から三時頃)。
寅ノ上刻と言えば夜討ちと言うより寧ろ朝駆け。
討伐予備隊が持ち込んだ捕物装束に着替えると、穂畑屋の裏手に集結した伝三郎ら四十八名は、今一度捕物装束に不備がないかを確かめた。
額に鉢金、襷掛けの小袖の下に鎖帷子、手甲の上に鎖籠手、裁っ着け袴の上に鎖脛当、刀と脇差の目釘を湿らせ、柄巻を絞るように締める。御用提灯に火を灯し、二代目白浪ノ権蔵一味が投宿している山野屋の表と裏を固めた。
捕物がある事を宿場役人や周りの旅籠には四半刻前に報せた。どうして前もって報せなかったのかと言うと、もしかすると内通者がいるかもしれないからだ。
山野屋の主人も白浪一味で、投宿しているのも全て白浪一味の者達だから何の障りもなく討ち込める。
「各々方。覚悟は宜しいな」
静かな頷きが返ってきた。
捕方達が刀を抜き連れたのを見て、伝三郎は大きく息を吸い込み、
「南北両町奉行所討伐隊である。白浪ノ権蔵以下一味の者共、神妙に致せっ」
大音声で叫ぶと、大戸を槌で打ち破って斬り込んだ。
そこからは大乱戦となった。
いきなりの討ち込みに山野屋主人太一郎他奉公人達が慌てて道中差や長脇差、匕首、包丁で斬りかかってくるのを打ち払って斬り捨てる。
「斬れ、斬れ、斬って斬って斬り捲れっ」
伝三郎の檄を受け、七右衛門や同心達が奮起して斬り捲る。
山野屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだ。首や手足、深々と斬られた死体が転がり、血の海が広がっている。
討伐隊の面々は返り血を浴び、顔も捕物装束も真っ赤に染まり、まるで赤鬼のような姿になっている。予備隊の同心達はその姿と殺気、余りにも凄惨な斬り合いを目の当たりにし、不覚にも胃の中の物を吐いてしまった者もいる。
次々と討ち取られていく盗人達を見て一人の盗賊が逃げ出した。
が、それを見た一味の者が、
「お頭。俺達を見捨てるのかっ」
と叫んだので、其奴をよく見ると、初代白浪ノ権蔵こと権六が書いた人相書きと同じ顔だったので、手下達を見捨てて逃げ出そうとしたのが二代目白浪ノ権蔵だと気付いた。
伝三郎はすかさず二代目権蔵の足を狙って分銅付きの捕縄を擲った。
捕縄は二代目権蔵の両足に巻き付き、権蔵は転んでしまった。長脇差で捕縄を斬り払おうとするも、伝三郎が捕縄を右に左にと引っ張るので二代目権蔵は長脇差を取り落とし、ごろごろと転がりながら引き寄せられる。
「二代目白浪ノ権蔵。テメェだけは生捕りになんかしねえからな。テメェが手に掛けた人々の怨みを背負い、あの世で滅多斬りにされるがいいぜ」
伝三郎は、命乞いをする二代目白浪ノ権蔵に対して耳を傾ける事なく、拝領刀の同田貫上野介二尺五寸を八双に構えて振り下ろし、一太刀で二代目権蔵の首を刎ね飛ばした。
「南町奉行所与力松平伝三郎敏和が、二代目白浪ノ権蔵を討ち取ったり」
大音声で叫ぶと、生き残っていた八人の手下達は、自分達のお頭が討ち取られたのを知り、刃向かう気を失って道中差や長脇差、匕首を投げ捨てた。
「召し捕れっ」
討伐隊の同心達が八人に縄を打つ。
「残党の有無を調べよ。刃向かう者は斬り捨てろ」
調べた結果、残党は一人もおらず、討ち取った者十九名、捕らえた者八名の計二十七名が白浪一味の全てだった。
一息入れて刀に刃毀れがないかどうかを確かめ、手拭いで血脂を拭い取り、懐紙で念入りに拭いをかける。
刀を納め、代わりに十手を抜いたその時、討伐予備隊の同心が三人の宿場役人に縄を打って連れてきた。
「鮎川。その者共は如何した」
「はい。この三名は白浪一味の内通者共にございます」
七右衛門の問いに答えたのは討伐予備隊の北町奉行所高積見廻り同心高山満吉で、その後ろには四人の見習い同心がいた。
「松平殿。捕り逃した者は居らぬようでござるな」
「如何にも左様でござるな。各々方、勝鬨を上げよっ」
予備隊を含む討伐隊四十八名は十手を高らかに突き上げ、千住宿中に響くような大声で、
えい、えい、おーっ
えい、えい、おーっ
えい、えい、おーっ
と勝鬨を上げた。
伝三郎ら討伐隊の討ち込みで宿場の殆どが目を覚ましていたので、勝鬨を上げると、やんややんやの大喝采が巻き起こった。
伝三郎達は宿場の番屋に生捕りにした八名を連れて行き、夜明けまでじっくりたっぷりと尋問という名の拷問で盗み金の隠し場所を白状させた。
隠し場所は山野屋の台所の水瓶の下だった。
掘り起こしてみると、何と十個もの千両箱と小粒金や銀子、銭が入った大甕が埋まっていた。それを数えると、六百八十八余両もあった。千両箱と合わせると、実に一万六百八十八余両もの大金であった。
しかも、諸国の盗人宿には別に二万余両もの盗み金があると言うのだから、これは驚いた。
討伐及び捕縛が終わったのは、東の空が明るくなり始めた頃だった。後始末を宿場役人に任せて、伝三郎らは疲れ切って重くなった足を引き摺るようにしながら、千両箱十個と大甕を大八車に積み込み、生捕りにした八名の一味の者共並びに内通者の宿場役人三名を引き連れて江戸の町に戻っていった。
時は寅ノ上刻(午前一時から三時頃)。
寅ノ上刻と言えば夜討ちと言うより寧ろ朝駆け。
討伐予備隊が持ち込んだ捕物装束に着替えると、穂畑屋の裏手に集結した伝三郎ら四十八名は、今一度捕物装束に不備がないかを確かめた。
額に鉢金、襷掛けの小袖の下に鎖帷子、手甲の上に鎖籠手、裁っ着け袴の上に鎖脛当、刀と脇差の目釘を湿らせ、柄巻を絞るように締める。御用提灯に火を灯し、二代目白浪ノ権蔵一味が投宿している山野屋の表と裏を固めた。
捕物がある事を宿場役人や周りの旅籠には四半刻前に報せた。どうして前もって報せなかったのかと言うと、もしかすると内通者がいるかもしれないからだ。
山野屋の主人も白浪一味で、投宿しているのも全て白浪一味の者達だから何の障りもなく討ち込める。
「各々方。覚悟は宜しいな」
静かな頷きが返ってきた。
捕方達が刀を抜き連れたのを見て、伝三郎は大きく息を吸い込み、
「南北両町奉行所討伐隊である。白浪ノ権蔵以下一味の者共、神妙に致せっ」
大音声で叫ぶと、大戸を槌で打ち破って斬り込んだ。
そこからは大乱戦となった。
いきなりの討ち込みに山野屋主人太一郎他奉公人達が慌てて道中差や長脇差、匕首、包丁で斬りかかってくるのを打ち払って斬り捨てる。
「斬れ、斬れ、斬って斬って斬り捲れっ」
伝三郎の檄を受け、七右衛門や同心達が奮起して斬り捲る。
山野屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだ。首や手足、深々と斬られた死体が転がり、血の海が広がっている。
討伐隊の面々は返り血を浴び、顔も捕物装束も真っ赤に染まり、まるで赤鬼のような姿になっている。予備隊の同心達はその姿と殺気、余りにも凄惨な斬り合いを目の当たりにし、不覚にも胃の中の物を吐いてしまった者もいる。
次々と討ち取られていく盗人達を見て一人の盗賊が逃げ出した。
が、それを見た一味の者が、
「お頭。俺達を見捨てるのかっ」
と叫んだので、其奴をよく見ると、初代白浪ノ権蔵こと権六が書いた人相書きと同じ顔だったので、手下達を見捨てて逃げ出そうとしたのが二代目白浪ノ権蔵だと気付いた。
伝三郎はすかさず二代目権蔵の足を狙って分銅付きの捕縄を擲った。
捕縄は二代目権蔵の両足に巻き付き、権蔵は転んでしまった。長脇差で捕縄を斬り払おうとするも、伝三郎が捕縄を右に左にと引っ張るので二代目権蔵は長脇差を取り落とし、ごろごろと転がりながら引き寄せられる。
「二代目白浪ノ権蔵。テメェだけは生捕りになんかしねえからな。テメェが手に掛けた人々の怨みを背負い、あの世で滅多斬りにされるがいいぜ」
伝三郎は、命乞いをする二代目白浪ノ権蔵に対して耳を傾ける事なく、拝領刀の同田貫上野介二尺五寸を八双に構えて振り下ろし、一太刀で二代目権蔵の首を刎ね飛ばした。
「南町奉行所与力松平伝三郎敏和が、二代目白浪ノ権蔵を討ち取ったり」
大音声で叫ぶと、生き残っていた八人の手下達は、自分達のお頭が討ち取られたのを知り、刃向かう気を失って道中差や長脇差、匕首を投げ捨てた。
「召し捕れっ」
討伐隊の同心達が八人に縄を打つ。
「残党の有無を調べよ。刃向かう者は斬り捨てろ」
調べた結果、残党は一人もおらず、討ち取った者十九名、捕らえた者八名の計二十七名が白浪一味の全てだった。
一息入れて刀に刃毀れがないかどうかを確かめ、手拭いで血脂を拭い取り、懐紙で念入りに拭いをかける。
刀を納め、代わりに十手を抜いたその時、討伐予備隊の同心が三人の宿場役人に縄を打って連れてきた。
「鮎川。その者共は如何した」
「はい。この三名は白浪一味の内通者共にございます」
七右衛門の問いに答えたのは討伐予備隊の北町奉行所高積見廻り同心高山満吉で、その後ろには四人の見習い同心がいた。
「松平殿。捕り逃した者は居らぬようでござるな」
「如何にも左様でござるな。各々方、勝鬨を上げよっ」
予備隊を含む討伐隊四十八名は十手を高らかに突き上げ、千住宿中に響くような大声で、
えい、えい、おーっ
えい、えい、おーっ
えい、えい、おーっ
と勝鬨を上げた。
伝三郎ら討伐隊の討ち込みで宿場の殆どが目を覚ましていたので、勝鬨を上げると、やんややんやの大喝采が巻き起こった。
伝三郎達は宿場の番屋に生捕りにした八名を連れて行き、夜明けまでじっくりたっぷりと尋問という名の拷問で盗み金の隠し場所を白状させた。
隠し場所は山野屋の台所の水瓶の下だった。
掘り起こしてみると、何と十個もの千両箱と小粒金や銀子、銭が入った大甕が埋まっていた。それを数えると、六百八十八余両もあった。千両箱と合わせると、実に一万六百八十八余両もの大金であった。
しかも、諸国の盗人宿には別に二万余両もの盗み金があると言うのだから、これは驚いた。
討伐及び捕縛が終わったのは、東の空が明るくなり始めた頃だった。後始末を宿場役人に任せて、伝三郎らは疲れ切って重くなった足を引き摺るようにしながら、千両箱十個と大甕を大八車に積み込み、生捕りにした八名の一味の者共並びに内通者の宿場役人三名を引き連れて江戸の町に戻っていった。
50
あなたにおすすめの小説
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】
3巻からは戦争編になります。
戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。
※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
連合艦隊司令長官、井上成美
ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。
毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる