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白浪ノ権蔵一味の探索〜其の参。
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湯屋から出た伝三郎は南町奉行所に向かい、奉行大岡越前守忠相に二代目白浪ノ権蔵と主だった者達の人相書と盗人宿、塒を記した物を見せた。
御奉行は無言で見ていたが、
「伝三郎。これを何処で手に入れたのだ」
「蛇の道は蛇、餅は餅屋にございます」
「ふむ。それは今後も使えるのか」
「畏れながら此度一度きりの縁にございます」
「左様か。惜しい気もするがやむを得ぬか。相分かった。討伐隊に出動を命ずる。一人も生きて逃すでないぞ」
「承知仕りましてございます」
二代目白浪ノ権蔵一味の盗人宿は日光道中の千住宿にある。
馬に乗れるのは与力である伝三郎と三谷七右衛門のみで、同心達は騎乗を許されていないので徒歩で向かったほうが白浪ノ権蔵一味に気付かれないだろう。
伝三郎は船宿『川清』に向かい、北町奉行所与力三谷七右衛門殿に使いを出した。
半刻後、三谷七右衛門殿と同心九名が川清に集まった。
「松平殿。我が方の御奉行のお許しも出たので早速、捕物に向かおうではござらぬか」
「まあ、待たれよ。我らが向かうは千住宿でござれば、皆で向かえば白浪一味の目に留まるやも知れませぬ故、三々五々に別れて向かったほうが宜しいかと存ずる」
伝三郎は逸る三谷を宥める。
「捕物装束はいつも通りで宜しいが、一つだけ申しておく事がござる」
「それは如何なる事にござるかな」
「白浪ノ権蔵は某に斬らせていただきたい」
「ふむ。元より我らは討伐隊にござる故一向に構い申さぬ」
「忝い。しからばこれより捕物の手筈を整えましょうぞ」
一刻余の話し合いの後、討伐隊が三々五々に別れて千住宿に向かった。
姿は道中羽織に道中袴、頭には菅笠を被り、十手は懐に隠し持って行く。向かうのは伝三郎ら討伐隊だけではなく、伝三郎から人斬りの手解きを受けるのを拒んだ者達の中で改心し、恥を忍んで頭を下げ、人の斬り方を御教授下さいと願ってきた南町奉行所同心十五名、北町奉行所同心十三名の合わせて二十八名の討伐予備隊も随行する。
総勢四十八名からなる討手達が千住宿に着いたのは暮れ六つ頃で、白浪ノ権蔵一味が投宿している旅籠山野屋の正面にある穂畑屋や斜め前の田嶋屋など八つの旅籠に別れて投宿した。
部屋は二階の間続きの六畳間を二部屋。
番頭の喜助が宿帳を持って来たので、江戸深川六間堀町浜中長屋住浪人沢北吉右衛門、同山下六兵衛と記帳し、二人分の旅籠代八百四十文を前払いすると、番頭がホッとした顔をしたのへ苦笑いした。心付けとして一朱金二枚を包むと心底驚いた顔をして伝三郎らを見るが、頷いてやると番頭は満面の笑みを浮かべて下がっていった。
「松、いや、沢北さん。随分と弾みましたね」
「何、あのくらいせぬと何かの時に不安ですからな」
「成る程。違いない」
伝三郎の吉右衛門と七右衛門の六兵衛は顔を見合わせて笑った。
心付けの相場は一朱金程度だから、伝三郎の二朱の心付けに、近年珍しく懐の温かい上客として丁重に扱われた。
夕餉の膳に銚子を一本頼んでいたが、上客と見ているので宿からの心配りだろう。もう一本付いていた。膳を運んできた女中にも心付けとして一朱を包むのを忘れなかった。
伝三郎と七右衛門は苦笑いしながら差しつ差されつで楽しく飲んだ。
「六兵衛殿。今日は疲れましたな」
「そうですな。ちと早いが湯に入りましょう」
「そうしましょう」
伝三郎の吉右衛門と七右衛門の六兵衛は浴衣の帯に脇差を差し、手拭いを下げて湯殿に向かう。
幸いにも湯殿に客はいなかったので、背中を洗い合って湯に浸かる。
ああぁぁぁぁ。
二人とも何とも気持ちよさそうな声を出した。
「湯屋も良いが、旅籠の湯殿もいいものですね」
「全くもってその通りですな。疲れが湯に溶けていきそうですな」
二人は極楽極楽と湯を楽しみ、他の客が湯殿に入って来たので湯殿を出て、少し早いが布団に入った。
「今宵が楽しみですな」
「如何にも。なれどあの事はお忘れなきように」
二代目白浪ノ権蔵を伝三郎が斬る事を念押しすると、
「心得てござる」
七右衛門のはっきりとした返事に伝三郎はホッとして眠りに落ちた。
御奉行は無言で見ていたが、
「伝三郎。これを何処で手に入れたのだ」
「蛇の道は蛇、餅は餅屋にございます」
「ふむ。それは今後も使えるのか」
「畏れながら此度一度きりの縁にございます」
「左様か。惜しい気もするがやむを得ぬか。相分かった。討伐隊に出動を命ずる。一人も生きて逃すでないぞ」
「承知仕りましてございます」
二代目白浪ノ権蔵一味の盗人宿は日光道中の千住宿にある。
馬に乗れるのは与力である伝三郎と三谷七右衛門のみで、同心達は騎乗を許されていないので徒歩で向かったほうが白浪ノ権蔵一味に気付かれないだろう。
伝三郎は船宿『川清』に向かい、北町奉行所与力三谷七右衛門殿に使いを出した。
半刻後、三谷七右衛門殿と同心九名が川清に集まった。
「松平殿。我が方の御奉行のお許しも出たので早速、捕物に向かおうではござらぬか」
「まあ、待たれよ。我らが向かうは千住宿でござれば、皆で向かえば白浪一味の目に留まるやも知れませぬ故、三々五々に別れて向かったほうが宜しいかと存ずる」
伝三郎は逸る三谷を宥める。
「捕物装束はいつも通りで宜しいが、一つだけ申しておく事がござる」
「それは如何なる事にござるかな」
「白浪ノ権蔵は某に斬らせていただきたい」
「ふむ。元より我らは討伐隊にござる故一向に構い申さぬ」
「忝い。しからばこれより捕物の手筈を整えましょうぞ」
一刻余の話し合いの後、討伐隊が三々五々に別れて千住宿に向かった。
姿は道中羽織に道中袴、頭には菅笠を被り、十手は懐に隠し持って行く。向かうのは伝三郎ら討伐隊だけではなく、伝三郎から人斬りの手解きを受けるのを拒んだ者達の中で改心し、恥を忍んで頭を下げ、人の斬り方を御教授下さいと願ってきた南町奉行所同心十五名、北町奉行所同心十三名の合わせて二十八名の討伐予備隊も随行する。
総勢四十八名からなる討手達が千住宿に着いたのは暮れ六つ頃で、白浪ノ権蔵一味が投宿している旅籠山野屋の正面にある穂畑屋や斜め前の田嶋屋など八つの旅籠に別れて投宿した。
部屋は二階の間続きの六畳間を二部屋。
番頭の喜助が宿帳を持って来たので、江戸深川六間堀町浜中長屋住浪人沢北吉右衛門、同山下六兵衛と記帳し、二人分の旅籠代八百四十文を前払いすると、番頭がホッとした顔をしたのへ苦笑いした。心付けとして一朱金二枚を包むと心底驚いた顔をして伝三郎らを見るが、頷いてやると番頭は満面の笑みを浮かべて下がっていった。
「松、いや、沢北さん。随分と弾みましたね」
「何、あのくらいせぬと何かの時に不安ですからな」
「成る程。違いない」
伝三郎の吉右衛門と七右衛門の六兵衛は顔を見合わせて笑った。
心付けの相場は一朱金程度だから、伝三郎の二朱の心付けに、近年珍しく懐の温かい上客として丁重に扱われた。
夕餉の膳に銚子を一本頼んでいたが、上客と見ているので宿からの心配りだろう。もう一本付いていた。膳を運んできた女中にも心付けとして一朱を包むのを忘れなかった。
伝三郎と七右衛門は苦笑いしながら差しつ差されつで楽しく飲んだ。
「六兵衛殿。今日は疲れましたな」
「そうですな。ちと早いが湯に入りましょう」
「そうしましょう」
伝三郎の吉右衛門と七右衛門の六兵衛は浴衣の帯に脇差を差し、手拭いを下げて湯殿に向かう。
幸いにも湯殿に客はいなかったので、背中を洗い合って湯に浸かる。
ああぁぁぁぁ。
二人とも何とも気持ちよさそうな声を出した。
「湯屋も良いが、旅籠の湯殿もいいものですね」
「全くもってその通りですな。疲れが湯に溶けていきそうですな」
二人は極楽極楽と湯を楽しみ、他の客が湯殿に入って来たので湯殿を出て、少し早いが布団に入った。
「今宵が楽しみですな」
「如何にも。なれどあの事はお忘れなきように」
二代目白浪ノ権蔵を伝三郎が斬る事を念押しすると、
「心得てござる」
七右衛門のはっきりとした返事に伝三郎はホッとして眠りに落ちた。
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