紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

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白浪ノ権蔵一味の探索〜其の弐。

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 白浪ノ権蔵一味の手下達が商家を構えたり、裏長屋に隠れ住んでいるのではないかとの厳重な探索の結果、浅草の葛屋仁四郎一座座頭以下十三名、松島町の小間物問屋成島屋嘉兵衛以下奉公人二十名、深川六間堀町南平長屋住棒手振り伊助、女房おちか、同元町利三郎長屋住鋳物師秀松の計三十六名を討ち取り、捕縛した。
 生捕りにした鋳物師秀松こと傘戸ノ秀吉に盗人宿や他の一味の者共の住まいを白状致せと尋問したが、秀吉は頑として口を割らなかった。業を煮やした伝三郎は脇差で両耳を斬り刎ね、鼻を削ぎ、両手の爪の間に竹串を突き刺し、足の甲に小柄を突き刺し、そこへ蝋燭の蝋を垂らし、更に腕の皮を小削ぎ取った。
 拷問よりも苛烈で凄惨な遣り口に詮議方与力や同心達も胃の腑の中の物を吐いてしまった。
「松平殿。些か遣り過ぎ「手緩い。誰がある。石板を持て」」
 抱き石をしようとしたら、秀吉が悲鳴をあげた。
「ま、ま、待ってくれ。喋る。し、知ってる事は全部喋るから、もう勘弁して下さい」
 さすがに伝三郎の拷問に耐えられなかったのだろう。秀吉は知っている限りの事を白状した。
 それを生捕りにしたもう一人、成島屋の手代に扮していた並木ノ与之助の証言と照らし合わせて間違いないと断定し、南北町奉行に上申の上、討伐隊の出動となった。
 討伐隊二十名は五人一組になって江戸中の白浪一味の盗人宿や塒を急襲し、討ち取ったる者五十八名、捕縛した者十二名にも及んだ。
 この事は瓦版で江戸中に知れ渡り、江戸を売って逃れようとした者達が大勢いたが、品川の面番所(旧関所)で討伐隊と南北両町奉行所の捕方によって討ち取られたり捕らえられりした。
 その数二十四名。
 一日で実に百六名の白浪一味の盗人が討ち取られたり捕らえられたりした。白浪ノ権蔵一味の総数は二百名前後。その内の半数近くが一夜にして露と消えたので、白浪ノ権蔵がどうするのかが焦点となっている。
 生捕りにした盗人共には傘戸ノ秀吉と同様の、いや、それよりも激しい拷問が待ち受けており、並木ノ与之助のように心が折れるまで生き地獄を身を持って味わう事になるのだった。
 そして何事もない日々が三日も続いたある日、伝三郎は両国米沢町にある湯屋『熊ノ湯』で朝湯に浸かりながら連日連夜の疲れを洗い流していた。
 町奉行所の与力同心は朝湯に限って女湯に入る事ができたが、伝三郎はそれをしなかった。男湯でのんびりしていたら、
「お侍様。相湯を願います」
 と六十近い老人が入ってきた。
 歳の割にはがっしりとした体付きのその老人には幾つもの刀疵があり、元は武家だったと言われても不思議はなかった程だ。加えて、その五体から放たれる貫禄と威厳は並々ならぬものであった。
 伝三郎はただの町人ではないと見た。それも堅気者では決して放つ事のできない死の淵を彷徨う恐ろしさがあった。
「南の与力、松平様でございますね」
「おうよ。俺が松平だが、何か用事かい、多分、先代の白浪ノお頭さんよ」
「御見破りとは御見逸れ致しました」
 やっぱり白浪ノ権蔵、それも先代だったか。試しに言っただけだったのだが、まさかに当たるとは少し驚いた。
「今日は是非ともお願い致したい事がございまして」
「ふぅん。まあ、いいぜ。聞こうじゃないか」
「畏れ入ります。実は只今、世間様を騒がせております二代目白浪ノ権蔵でございますが、そいつは私の実の倅でございます」
「そうかい。先代の白浪ノお頭よ、育て方を間違えたようだな」
「真に恥ずかしい限りにございます」
「んで、俺に何をしろって言うんだい」
「はい。倅を、二代目白浪ノ権蔵を斬っていただきたく存じます」
「良いのかい。お前さんの倅だろうに」
「倅だからにございます。あの馬鹿息子は盗人の道を踏み外した外道にございますれば、待ち受けるは死あるのみかと」
「まあなぁ。見付け次第斬り捨てろとの御下知だからな。言われなくても斬るんだが、何か望みがあるかい」
「ございます。できますれば磔獄門ではなく、松平様の御刀で死末していただきたく存じます」
 外道と言えどもやっぱり倅は倅。磔獄門にされる様は見たくないのだろう。
「先代の。引き受けた。オメェさんの馬鹿息子は一太刀であの世に送ってやる」
「ありがとう存じます。倅と主だった者達の人相書きと塒にしている場所を記した物を松平様の衣紋駕籠に置いておきましたので、お役立て下さい」
「ありがとうよ。さて、上がるかな。先代のお頭。江戸の町から消えな。黒門町の質屋播磨屋太平に言えば、ちゃんとした道中手形を作ってくれるからよ」
「お見逃しいただけますので」
「役人ってのは、清濁併せ飲むくらいの事ができないようじゃあ、務まらねえのさ。ところでオメェさんの名前は何て言うんだい」
「はい。本名は権六でございます」
「そうかい。それじゃあ、権六のとっつぁん、達者に暮らせよ。じゃあな」
 先代白浪ノ権蔵こと権六は伝三郎の背中に向けて両手を合わせた。
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