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第20話 パワースポットで夫婦喧嘩
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私たちは、言われた通り外に出た。ちょうど太陽が隠れて月が出た頃で、辺りは暗くなりかけている。夜営業までには戻って来られないかもしれないので、残ったあやかしたちに留守番を頼んで、今日は休業することにした。
「じゃ、行くわよ。しっかり踏ん張ってね。それ!」
おとはさんの掛け声が聞こえた瞬間、気持ちの準備をする間もなく、気づくと私たちは木の葉のように軽々と宙を舞っていた。行く先は、さっき紅蓮が言った宝明山の方向である。寿寿亭からは10キロくらいの距離にあるから、本来ならそれなりの時間がかかるはずなのに、どんな時空のゆがみをすり抜けているのかは知らないが、あっという間に到着した。
急激な移動だったせいか、車酔いみたいな状態になっている。前にバクさんのねぐらに行った時のことを思い出した。ふらふらした体をどうにか踏ん張り、私はおとはさんに尋ねた。
「おとはさん、ここはどこですか? 真っ暗で何も見えません」
「ごめんね、もう夜だから。今視界を明るくするから待って。ここは宝明山の奥にある神域よ」
神域! 聞きなれない言葉に私はぎょっとした。確かにここは山の中のようだ。暗くて何も見えないが、うっそうとした森の先に洞窟のようなものがある。ここがカゲロウの居場所らしい。部屋の電気をつけるようにおとはさんが周りを明るくする。しかし、不思議なことに、光源は電気でも炎でもなく自然光だった。まるで時間が巻き戻ったような錯覚を覚える。
「おとはさん本当の神様だったんですね。確かに攻撃力強い印象でしたけど」
「そうよ。私たちはこの山の夫婦神。ふもとに宝明山神社っていう大きな神社があるでしょ? そこで祀られているのは私たちよ」
何と。情報量が多すぎてついて行けない。宝明山神社は、地元では有名な大きな神社だ。毎年初詣に多くの参拝客が訪れ、夫婦円満のご利益があるとして結婚式も盛んに執り行われている。なのに、目の前にいる、バブルファッションに身を包んだ人が、由緒正しい神社に祀られる神様だなんて悪い冗談としか思えない。
「ましろ、お前も前にここに来たことがあるんだが、まだ思い出せないか?」
「え? そうだったの? ごめん、分からない……」
悲しそうな紅蓮の顔(実際は佐藤さんの姿かたちだが)を見て、次第に何も思い出せないことが申し訳なく思えてきた。私がさっさと思い出していれば、紅蓮は佐藤さんの体を乗っ取ることもなかっただろう。そう考えると自分にも責任があるように思ってしまう。
「ここに来られたってことは、無事結界をすり抜けられたってことね。影郎は……いたーっ! やっぱりおなごと一緒じゃない! あなた、そこで何やってるの!」
おとはさんが叫んだ先にはカゲロウと、何やら若いカップル? らしき者がいた。しかし、驚いたのはカゲロウの格好である。いつもの着流し姿ではなく、日本神話に出て来る神様の格好をしている! 髪の毛だって若白髪ではなく黒々としてるし、長い髪を耳の横で結えて、あれはそう……
「みす〇学苑!」
「こら! ましろ! 神に向かってそれはなかろう! もっと他に言い方はないのか!?」
「ちょっと、反応するとこそこ!? あなたまたおなごを神域に連れ込んだわね? 今日という今日は許さないわよ!」
「これがそう見えるか! 道祖神が夫婦喧嘩をしたというから仲裁に入っただけじゃ! 旦那もこの場におるじゃろ。お前、どれだけ嫉妬深いんじゃ!」
確かに、若いカップルは道祖神のような格好をしている。道祖神たちは、呆気に取られた表情で私たちを見ていた。確かに突然押し掛けたわけだから、彼らがびっくりするのも仕方がない。
「みんなあなたのこと神様みたいなものとは言ってたけど、ガチ神とは聞いてないわよ!? 一体これはどういうこと?」
「皆大体のことは察してたが、わしが口止めしといたんじゃ。仕事サボって下界に入り浸ってるのがバレるわけにはいかんからのう」
「それより、紅蓮とかいうあやかしが佐藤さんの中に入っちゃったのよ。あなたに解いてもらいたくておとはさんに連れて来てもらったの。緊急事態なら結界も自動解除されるからって。お取り込み中悪いけど、お願い」
カゲロウはおとはさんからこちらに目を移して、私と紅蓮を交互に見つめた。その時の彼の顔と言ったら鳩が豆鉄砲を食らったようという表現がぴったりだった。
「おぬし、またコン猿の中に入ったんか!? このわしの契約を破るなんていい度胸をしておるな!」
「契約は破ってない! 確かに体に入ってしまったのは悪いと思うが、懐かしくなってつい——」
紅蓮が慌てて弁解めいたことを言う。しかし、それどころではなく怒り心頭のおとはさんが割って入った。この時になると、彼女も日本神話の女神のような装束を着ている。ほら、アマテラスとか卑弥呼とかその辺? 私の貧弱な知識ではこれくらいの説明しかできないが。でも、バブルファッションより余程似合っている。
「ちょっと、何ゴチャゴチャ話してるのよ! あなたが結界を張って何かやるなんて大抵ろくなことじゃないのよ! 今日という今日は許さないんだからねっ!」
「わっ! これだから嫉妬深い妻は嫌なんじゃ! 誰だ、夫婦円満のご利益なんて言った奴は! 宝明山神社は縁切寺にでも変えるべきじゃ! ましろ、今は詳しく説明する暇がないから、とりあえずお前の記憶を戻しておく。お千代さんも亡くなった後だから、契約違反にはならんじゃろ」
「え? おばあちゃんが何だって?」
「それも後で話す! わっ、おとは! ここで攻撃するな!」
カゲロウはおとはさんに追い回されながら、何かの術をこちらにぶつけてきた。それが何なのか理解する暇もなく、私は前後不覚に陥った。そこで見たものは、10歳のひと夏の経験。何で忘れられたんだろうとしか思えない強烈な出来事だった。
「じゃ、行くわよ。しっかり踏ん張ってね。それ!」
おとはさんの掛け声が聞こえた瞬間、気持ちの準備をする間もなく、気づくと私たちは木の葉のように軽々と宙を舞っていた。行く先は、さっき紅蓮が言った宝明山の方向である。寿寿亭からは10キロくらいの距離にあるから、本来ならそれなりの時間がかかるはずなのに、どんな時空のゆがみをすり抜けているのかは知らないが、あっという間に到着した。
急激な移動だったせいか、車酔いみたいな状態になっている。前にバクさんのねぐらに行った時のことを思い出した。ふらふらした体をどうにか踏ん張り、私はおとはさんに尋ねた。
「おとはさん、ここはどこですか? 真っ暗で何も見えません」
「ごめんね、もう夜だから。今視界を明るくするから待って。ここは宝明山の奥にある神域よ」
神域! 聞きなれない言葉に私はぎょっとした。確かにここは山の中のようだ。暗くて何も見えないが、うっそうとした森の先に洞窟のようなものがある。ここがカゲロウの居場所らしい。部屋の電気をつけるようにおとはさんが周りを明るくする。しかし、不思議なことに、光源は電気でも炎でもなく自然光だった。まるで時間が巻き戻ったような錯覚を覚える。
「おとはさん本当の神様だったんですね。確かに攻撃力強い印象でしたけど」
「そうよ。私たちはこの山の夫婦神。ふもとに宝明山神社っていう大きな神社があるでしょ? そこで祀られているのは私たちよ」
何と。情報量が多すぎてついて行けない。宝明山神社は、地元では有名な大きな神社だ。毎年初詣に多くの参拝客が訪れ、夫婦円満のご利益があるとして結婚式も盛んに執り行われている。なのに、目の前にいる、バブルファッションに身を包んだ人が、由緒正しい神社に祀られる神様だなんて悪い冗談としか思えない。
「ましろ、お前も前にここに来たことがあるんだが、まだ思い出せないか?」
「え? そうだったの? ごめん、分からない……」
悲しそうな紅蓮の顔(実際は佐藤さんの姿かたちだが)を見て、次第に何も思い出せないことが申し訳なく思えてきた。私がさっさと思い出していれば、紅蓮は佐藤さんの体を乗っ取ることもなかっただろう。そう考えると自分にも責任があるように思ってしまう。
「ここに来られたってことは、無事結界をすり抜けられたってことね。影郎は……いたーっ! やっぱりおなごと一緒じゃない! あなた、そこで何やってるの!」
おとはさんが叫んだ先にはカゲロウと、何やら若いカップル? らしき者がいた。しかし、驚いたのはカゲロウの格好である。いつもの着流し姿ではなく、日本神話に出て来る神様の格好をしている! 髪の毛だって若白髪ではなく黒々としてるし、長い髪を耳の横で結えて、あれはそう……
「みす〇学苑!」
「こら! ましろ! 神に向かってそれはなかろう! もっと他に言い方はないのか!?」
「ちょっと、反応するとこそこ!? あなたまたおなごを神域に連れ込んだわね? 今日という今日は許さないわよ!」
「これがそう見えるか! 道祖神が夫婦喧嘩をしたというから仲裁に入っただけじゃ! 旦那もこの場におるじゃろ。お前、どれだけ嫉妬深いんじゃ!」
確かに、若いカップルは道祖神のような格好をしている。道祖神たちは、呆気に取られた表情で私たちを見ていた。確かに突然押し掛けたわけだから、彼らがびっくりするのも仕方がない。
「みんなあなたのこと神様みたいなものとは言ってたけど、ガチ神とは聞いてないわよ!? 一体これはどういうこと?」
「皆大体のことは察してたが、わしが口止めしといたんじゃ。仕事サボって下界に入り浸ってるのがバレるわけにはいかんからのう」
「それより、紅蓮とかいうあやかしが佐藤さんの中に入っちゃったのよ。あなたに解いてもらいたくておとはさんに連れて来てもらったの。緊急事態なら結界も自動解除されるからって。お取り込み中悪いけど、お願い」
カゲロウはおとはさんからこちらに目を移して、私と紅蓮を交互に見つめた。その時の彼の顔と言ったら鳩が豆鉄砲を食らったようという表現がぴったりだった。
「おぬし、またコン猿の中に入ったんか!? このわしの契約を破るなんていい度胸をしておるな!」
「契約は破ってない! 確かに体に入ってしまったのは悪いと思うが、懐かしくなってつい——」
紅蓮が慌てて弁解めいたことを言う。しかし、それどころではなく怒り心頭のおとはさんが割って入った。この時になると、彼女も日本神話の女神のような装束を着ている。ほら、アマテラスとか卑弥呼とかその辺? 私の貧弱な知識ではこれくらいの説明しかできないが。でも、バブルファッションより余程似合っている。
「ちょっと、何ゴチャゴチャ話してるのよ! あなたが結界を張って何かやるなんて大抵ろくなことじゃないのよ! 今日という今日は許さないんだからねっ!」
「わっ! これだから嫉妬深い妻は嫌なんじゃ! 誰だ、夫婦円満のご利益なんて言った奴は! 宝明山神社は縁切寺にでも変えるべきじゃ! ましろ、今は詳しく説明する暇がないから、とりあえずお前の記憶を戻しておく。お千代さんも亡くなった後だから、契約違反にはならんじゃろ」
「え? おばあちゃんが何だって?」
「それも後で話す! わっ、おとは! ここで攻撃するな!」
カゲロウはおとはさんに追い回されながら、何かの術をこちらにぶつけてきた。それが何なのか理解する暇もなく、私は前後不覚に陥った。そこで見たものは、10歳のひと夏の経験。何で忘れられたんだろうとしか思えない強烈な出来事だった。
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