2 / 4
1章 淳の過去①
しおりを挟む1章 淳の過去
多摩 淳(たま あつし)。平成X年11月11日生まれの36歳。身長184.1cm、体重60.3㎏の瘦せ型体系。趣味は囲碁や将棋、それにカラオケ。現在の職業は(筆者の温情で)フリーター(ということにしておく)。H大学文学部で歴史学を専攻。そして、年齢=彼女なし歴の冴えない独身男性である。無論、童貞であることは言うまでもない。この男が、物語の主役である。どうぞお見知りおき願いたい。
「予想はしてたけど、大負けかよ」
まるで競馬で負けたかのような言い草だが、これには訳がある。そもそも合コンというのは、男性側が多くの参加費を負担するのである。したがって、ただの一人とも連絡先を交換出来なかったこの男にとっては、競馬で負けたときの屈辱感に勝るとも劣らない※ダメージを負ってしまったのである。
「やっぱ定職に就くべきなのか…。いや、それは好みじゃないしな、何とかして楽して稼げないかねぇ」
この無職は甲斐性というものが足りない。この男の本性が垣間見えた今、フリーターだ何だと気遣う必要はなくなった。35歳以上もフリーターの定義に加えろという提言は、今となっては戯言であったと思って頂ければ幸いである。
淳には、今まで「胸を張って頑張った」と言える経験が無い。それゆえ、物事に対し諦めが早く、逃げ癖が付いてしまっている。少し昔話をしよう。
中学生になった淳は、部活動選択を迫られていた。小学生時代、特に習い事を行っていなかった方々は、中学でどの部活に入るか大いに悩まれたことと思う。淳自身もその例外ではなかった。だが、彼の入ろうとする部は決まっていた。
「俺、サッカー部に入るわ。楽しそうだし」
「マジか、でもお前がサッカーやるなら、俺もやるわ!」
「サンキュ、真中もいると心強いな」
当時小学生の間で、ゲームを原作とするサッカーアニメが流行っていた。「超次元サッカー」という現実離れした世界観のもと、多種多様な必殺技が繰り広げられる様子がテレビで放映されるたび、少年である淳の心は揺さぶられた。やがてはサッカーそのものに興味を持ち、親友の真中を誘ってサッカー部への入部を決意したのだ。真中もまた、淳と同様の経緯でサッカーに興味を持った人物だった。
「サッカー部?あんたが?」
「うん」
「絶対に続かないからやめなさい。あんた運動神経良くないし、ろくな運動経験も無いんだから」
「大丈夫だって。真中も一緒に入ってくれるし、何とかなると思うよ」
「だとしてもよ。いいこと、スポーツをやるにしても、もっとソフトなとこにしなさい。サッカーなんてハードなスポーツ、あんたみたいなヒョロガリには向いてないから」
「んだよ、勝手に決めつけんなよ!」
母親との口論の末、淳は半ば強引にサッカー部へと入部した。淳の胸中には、自分が運動音痴であることを馬鹿にした母への対抗心があった。新入部員にはサッカー経験者も多く、レギュラーを勝ち取ることは不可能に近いという自覚はあったが、意地でも3年間続けるつもりだった。
最初は、インサイドキックを覚えることから始まった。ボールを蹴るときの基本中の基本である。当然ながら経験者は小学生のうちにマスターしていることだが、淳にはそれすら初めて知るものだった。幸い、初心者は淳や真中の他にも数名おり、彼らと切磋琢磨しながら淳は何とか日々の練習に食らいついていた。
1年後、顧問の1人が他校に転任する際、部内でお別れの挨拶があった。このとき、淳はこのような言葉をかけられた。
「多摩、お前は正直すぐ辞めると思ってた。言っちゃ悪いけど、初心者組の中でもあまり器用なタイプじゃなかったもんな。だけど、この1年でだいぶマシになった。よく頑張ったな」
この顧問は、大学を出たばかりの新人の先生で、普段の練習指導にも時折経験の浅さが見え隠れしていた。ただ、新人の先生らしく丁寧で熱心な指導をする人でもあった。初心者の淳にも、(多少嫌な顔はしつつも)優しく指導してくれたのだ。
淳は自分の頑張りが認められたようで、嬉しさを隠せないでいた。しかし同時に、少し有頂天にもなっていた。超ド級の初心者である自分でも、とりあえず1年間サッカー部で過ごせたからである。このことに淳は、良くも悪くも満足感を覚えたようであった。かくして淳のサッカー部1年生編は終わり、ターニングポイントである2年生編を迎えるのであった。
※筆者は競馬をやったことがないので、本当にそうなのかどうかは一切の責任を負いかねる。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる