本業、フリーター。

Tady

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1章 淳の過去①

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  1章 淳の過去

 
 多摩 淳(たま あつし)。平成X年11月11日生まれの36歳。身長184.1cm、体重60.3㎏の瘦せ型体系。趣味は囲碁や将棋、それにカラオケ。現在の職業は(筆者の温情で)フリーター(ということにしておく)。H大学文学部で歴史学を専攻。そして、年齢=彼女なし歴の冴えない独身男性である。無論、童貞であることは言うまでもない。この男が、物語の主役である。どうぞお見知りおき願いたい。

「予想はしてたけど、大負けかよ」

 まるで競馬で負けたかのような言い草だが、これには訳がある。そもそも合コンというのは、男性側が多くの参加費を負担するのである。したがって、ただの一人とも連絡先を交換出来なかったこの男にとっては、競馬で負けたときの屈辱感に勝るとも劣らない※ダメージを負ってしまったのである。

「やっぱ定職に就くべきなのか…。いや、それは好みじゃないしな、何とかして楽して稼げないかねぇ」

 この無職は甲斐性というものが足りない。この男の本性が垣間見えた今、フリーターだ何だと気遣う必要はなくなった。35歳以上もフリーターの定義に加えろという提言は、今となっては戯言であったと思って頂ければ幸いである。
 淳には、今まで「胸を張って頑張った」と言える経験が無い。それゆえ、物事に対し諦めが早く、逃げ癖が付いてしまっている。少し昔話をしよう。


 
 中学生になった淳は、部活動選択を迫られていた。小学生時代、特に習い事を行っていなかった方々は、中学でどの部活に入るか大いに悩まれたことと思う。淳自身もその例外ではなかった。だが、彼の入ろうとする部は決まっていた。

「俺、サッカー部に入るわ。楽しそうだし」
「マジか、でもお前がサッカーやるなら、俺もやるわ!」
「サンキュ、真中もいると心強いな」

 当時小学生の間で、ゲームを原作とするサッカーアニメが流行っていた。「超次元サッカー」という現実離れした世界観のもと、多種多様な必殺技が繰り広げられる様子がテレビで放映されるたび、少年である淳の心は揺さぶられた。やがてはサッカーそのものに興味を持ち、親友の真中を誘ってサッカー部への入部を決意したのだ。真中もまた、淳と同様の経緯でサッカーに興味を持った人物だった。

「サッカー部?あんたが?」
「うん」
「絶対に続かないからやめなさい。あんた運動神経良くないし、ろくな運動経験も無いんだから」
「大丈夫だって。真中も一緒に入ってくれるし、何とかなると思うよ」
「だとしてもよ。いいこと、スポーツをやるにしても、もっとソフトなとこにしなさい。サッカーなんてハードなスポーツ、あんたみたいなヒョロガリには向いてないから」
「んだよ、勝手に決めつけんなよ!」

 母親との口論の末、淳は半ば強引にサッカー部へと入部した。淳の胸中には、自分が運動音痴であることを馬鹿にした母への対抗心があった。新入部員にはサッカー経験者も多く、レギュラーを勝ち取ることは不可能に近いという自覚はあったが、意地でも3年間続けるつもりだった。
 最初は、インサイドキックを覚えることから始まった。ボールを蹴るときの基本中の基本である。当然ながら経験者は小学生のうちにマスターしていることだが、淳にはそれすら初めて知るものだった。幸い、初心者は淳や真中の他にも数名おり、彼らと切磋琢磨しながら淳は何とか日々の練習に食らいついていた。
 1年後、顧問の1人が他校に転任する際、部内でお別れの挨拶があった。このとき、淳はこのような言葉をかけられた。

「多摩、お前は正直すぐ辞めると思ってた。言っちゃ悪いけど、初心者組の中でもあまり器用なタイプじゃなかったもんな。だけど、この1年でだいぶマシになった。よく頑張ったな」

 この顧問は、大学を出たばかりの新人の先生で、普段の練習指導にも時折経験の浅さが見え隠れしていた。ただ、新人の先生らしく丁寧で熱心な指導をする人でもあった。初心者の淳にも、(多少嫌な顔はしつつも)優しく指導してくれたのだ。
 淳は自分の頑張りが認められたようで、嬉しさを隠せないでいた。しかし同時に、少し有頂天にもなっていた。超ド級の初心者である自分でも、とりあえず1年間サッカー部で過ごせたからである。このことに淳は、良くも悪くも満足感を覚えたようであった。かくして淳のサッカー部1年生編は終わり、ターニングポイントである2年生編を迎えるのであった。



※筆者は競馬をやったことがないので、本当にそうなのかどうかは一切の責任を負いかねる。
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