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2話

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「何も一人でやっていたわけじゃないでしょう、子どもの遊び相手になっていただけよ」
「言い訳をするな!」
「どうしてそんなに血の気が多いのよ……」
「もうお前とはやっていけん! よって、婚約は破棄とする!!」

 ――そこまで言われてしまった。

 関係を解消する、と。

「理不尽だわ、ちょっと砂遊びをしたくらいで婚約破棄だなんて」
「もうがきじゃないんだぞ!?」
「一人でやっていたわけじゃないでしょ?」
「だとしても、だ! みっともない! そんなやつが、そんな女が、婚約者だなんて恥ずかしくて生きていけない!!」

 何を言っても彼は聞いてくれそうにない。
 彼の耳には既に分厚い蓋ができてしまっている。

「婚約破棄だ! 婚約は、破棄! ……じゃあな。ここまでだ、とっとと消え失せろ」

 そう述べる彼の瞳はどこまでも深く暗く冷ややかなものであった。

 ……ああそうか、彼の中ではもう完全に終わっているのか。

 その時になってようやく悟った。

 もう戻る道はないのだと。

「分かったわ、さようならアドレフスク」

 それだけ発して、私は彼の前から去った。

 あんなことだけで切り捨てられるなんて、夢にも思わなかった。だって親戚の子と遊んでいただけなのよ? ただそれだけ。しかも、違法行為みたいな遊びをしていたわけでもない。砂浜で砂を使って遊ぶなんて珍しいことじゃないでしょう? なのに、それを理由に婚約破棄。

 ……納得できるかと言われれば首を横に振る外ない。

 でも、それでも、こうなってしまったものは仕方がない。他人の心を書き換える能力なんて私にはないのだし。これが流れなのならばそれに乗ってゆくしかやりようはないのだ。

 さようなら、アドレフスク。

 貴方のこと嫌いじゃなかったわ。
 でももう共に行く未来はないのね。
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