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2話 改めて自己紹介
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白髪混じりの髪をぴっちりと固め、黒い正装をおしゃれに着こなしているリンツ。彼は確かに、王子らしい雰囲気をまとっている。飾りすぎていないところが品があると感じる。
ただ、気になることが一つ。
彼は二十歳の娘の結婚相手という年齢ではない。
どちらかといえば、父親の方が近い年齢なのではないかなと思うのだが。
「君は、ピシアへ来たのは初めてかな?」
「そうです」
「よし! ではでは、この国の良いところを話そう!」
なぜか馴れ馴れしいリンツの振る舞いが、私にとっては謎でしかない。
「この国の名産品は——」
「あの」
「ん? 何かな」
「貴国のことより、貴方のことを聞かせて下さい」
もちろん、ピシアについて知ることも大切だ。そこの王家に嫁ぐのだから、当然のこと。
ただ、今はリンツのことを知りたい。
私たちはこれから結婚することとなるのだから。
「僕のこと?」
「はい」
「おぉ! 僕に関心が?」
「これから結婚するのなら、少しでもお互いのことを知っておいた方が良いと思って」
するとリンツは、目をぱちぱちさせた。
「君……凄いね!」
「え」
「まだ若いのに凄くしっかりしているから、感心したよ」
リンツの黒い瞳が、子どものように輝き始める。
大人とはとても思えない、純粋な目だ。
「いいよ、僕と君の話をしよう」
「はい」
私はそっと頷く。
すると彼は話し始めた。
「じゃあ改めて。僕はリンツ・フローラ、ピシアの第一王子だよ。なかなか良い相手がいなくてね、気づけばこんな歳になってしまっていたんだ」
相変わらず、よく喋る。
「そうだったのですか……」
どちらかというと父親に近い年代の男性がなぜ私の相手なのか、と疑問に思っていたけれど、彼の話を聞いていたらそんな疑問はどうでもよくなってきた。
今大切なのは、年齢が近いことではなく、共に暮らしていけそうかどうかである。
「キャシィさんのことも聞かせてもらえないかな? 無論、抵抗がなければだがね」
「アックス王国の第二王女、キャシィ・アクスと申します。よろしくお願いします」
上手く自己紹介をするのは、意外に難しかった。つい、あっさりした挨拶になってしまう。
リンツのように気さくなタイプの人ならば、工夫をしてもっと上手に話せるのだろうが、私には無理だ。
「好きな食べ物は、何かあるのかね?」
おっと、意外な質問が来た。
「食べ物ですか」
「そうだよ。甘いものでも、食事のものでも」
「えぇと……」
私は暫し思考する。
好きな食べ物——脳の中を、ひたすらに探った。
もちろん、これまでたくさんのものを食べてきた。王女ということもあって、他人よりは色々なものを食べたことがある。そして、その中には、美味しいものがいくつもあった。
それゆえ、好きな食べ物を一つ二つに絞るのは難しい。
「いくつかあって、答えられません」
結局、この答えしかなかった。
まともな答えにはなっていないかもしれないけれど。
私がそんな中途半端な答えを発すると、リンツはニコッと明るい笑みを浮かべた。しわの刻まれた大人びた顔ながら、笑みを浮かべると、とても可愛らしい。
「なるほど、ね」
「ちゃんと答えられず、すみません」
「いやいや。気にしないで。こんなことをいきなり聞いた僕が謝らないといけないくらいだよ」
彼は穏やかだった。
怒ることがあるのだろうか、と思ってしまったくらいだ。
「なんというか……すみません」
「いやいや、こちらこそすまなかったね」
「いえ。私の方が謝らなくては」
「いやいや、こちらこそ謝らないといけないのだよ」
そんな風に同じようなやり取りを繰り返した後、私とリンツは、視線を絡めてふふっと笑った。
親が勝手に決めた相手だから、良い関係を築くのは難しいだろうと思っていた。私が選んだ相手ではないから、と。
けれど、案外そうでもないようで。
仲良くやっていけるかもしれないな。
段々そう思えてきた。
ただ、気になることが一つ。
彼は二十歳の娘の結婚相手という年齢ではない。
どちらかといえば、父親の方が近い年齢なのではないかなと思うのだが。
「君は、ピシアへ来たのは初めてかな?」
「そうです」
「よし! ではでは、この国の良いところを話そう!」
なぜか馴れ馴れしいリンツの振る舞いが、私にとっては謎でしかない。
「この国の名産品は——」
「あの」
「ん? 何かな」
「貴国のことより、貴方のことを聞かせて下さい」
もちろん、ピシアについて知ることも大切だ。そこの王家に嫁ぐのだから、当然のこと。
ただ、今はリンツのことを知りたい。
私たちはこれから結婚することとなるのだから。
「僕のこと?」
「はい」
「おぉ! 僕に関心が?」
「これから結婚するのなら、少しでもお互いのことを知っておいた方が良いと思って」
するとリンツは、目をぱちぱちさせた。
「君……凄いね!」
「え」
「まだ若いのに凄くしっかりしているから、感心したよ」
リンツの黒い瞳が、子どものように輝き始める。
大人とはとても思えない、純粋な目だ。
「いいよ、僕と君の話をしよう」
「はい」
私はそっと頷く。
すると彼は話し始めた。
「じゃあ改めて。僕はリンツ・フローラ、ピシアの第一王子だよ。なかなか良い相手がいなくてね、気づけばこんな歳になってしまっていたんだ」
相変わらず、よく喋る。
「そうだったのですか……」
どちらかというと父親に近い年代の男性がなぜ私の相手なのか、と疑問に思っていたけれど、彼の話を聞いていたらそんな疑問はどうでもよくなってきた。
今大切なのは、年齢が近いことではなく、共に暮らしていけそうかどうかである。
「キャシィさんのことも聞かせてもらえないかな? 無論、抵抗がなければだがね」
「アックス王国の第二王女、キャシィ・アクスと申します。よろしくお願いします」
上手く自己紹介をするのは、意外に難しかった。つい、あっさりした挨拶になってしまう。
リンツのように気さくなタイプの人ならば、工夫をしてもっと上手に話せるのだろうが、私には無理だ。
「好きな食べ物は、何かあるのかね?」
おっと、意外な質問が来た。
「食べ物ですか」
「そうだよ。甘いものでも、食事のものでも」
「えぇと……」
私は暫し思考する。
好きな食べ物——脳の中を、ひたすらに探った。
もちろん、これまでたくさんのものを食べてきた。王女ということもあって、他人よりは色々なものを食べたことがある。そして、その中には、美味しいものがいくつもあった。
それゆえ、好きな食べ物を一つ二つに絞るのは難しい。
「いくつかあって、答えられません」
結局、この答えしかなかった。
まともな答えにはなっていないかもしれないけれど。
私がそんな中途半端な答えを発すると、リンツはニコッと明るい笑みを浮かべた。しわの刻まれた大人びた顔ながら、笑みを浮かべると、とても可愛らしい。
「なるほど、ね」
「ちゃんと答えられず、すみません」
「いやいや。気にしないで。こんなことをいきなり聞いた僕が謝らないといけないくらいだよ」
彼は穏やかだった。
怒ることがあるのだろうか、と思ってしまったくらいだ。
「なんというか……すみません」
「いやいや、こちらこそすまなかったね」
「いえ。私の方が謝らなくては」
「いやいや、こちらこそ謝らないといけないのだよ」
そんな風に同じようなやり取りを繰り返した後、私とリンツは、視線を絡めてふふっと笑った。
親が勝手に決めた相手だから、良い関係を築くのは難しいだろうと思っていた。私が選んだ相手ではないから、と。
けれど、案外そうでもないようで。
仲良くやっていけるかもしれないな。
段々そう思えてきた。
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