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6話 初めて食べる夕食
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待つことしばらく、ローザが料理を運んで来てくれた。
下に駒のついた台に料理を乗せて、私の部屋まで持ってきてくれたのである。
「お持ちしました」
台の上には、いくつかの皿が乗せられている。
やや深さのある器に、レタスを始めとした葉野菜を森林のごとく詰め込んだ、サラダ。卵色の汁の上に琥珀のような煮凝にこごりを乗せたスープ。白身魚を薄く切ったものを、咲き誇る華麗な花のように皿に盛りつけた刺身。
いくつもの料理があるが、そのすべてが、まるで芸術品のよう。
「うわぁ……!」
「どうぞ召し上がって下さい」
「凄く豪華ですね!」
こんな華やかな料理を見せられたら、興奮を隠せない。凄まじい勢いで食いつきたくなる衝動を抑えることで、精一杯だ。
「早速いただいても構いませんか!?」
そう問うと、ローザはふふっと笑う。
「とても嬉しそうですね」
嬉しいに決まっている。
こんな素敵な料理を目の前に並べられているのだ、嬉しくないわけがない。
さぁ、どれから食べよう?
私の頭には、もはやそれしかない。
「このままでお食べになります? それとも、テーブルへ移しましょうか?」
「このままで大丈夫です」
早く食べたくて仕方がない。
「では、しばらく失礼致します。お食事終わられましたら、気軽に声をお掛け下さい」
ローザは軽く頭を下げると、台に乗った料理はそのままで、部屋から出ていった。
こうして、また一人になる。
一人になるとまたしても退屈さが込み上げてきた。が、今は先ほどまでと違って、食べるべき料理がある。だから、目の前に並んだ料理に集中しておくことに決めた。
美味しいものを食べれば、気分も変わるはず。
台の上に皿と一緒に置かれたフォークを手に取る。そして、サラダを一番手前へ持ってくる。
「いただきます」
やや深さのある器に入ったレタスにフォークを豪快に突き刺し、そのまま口へ運ぶ。口に含み、一度噛むと、爽やかな音と共に水が溢れた。噴水のようなレタスだ。
「……美味しい!」
朝日を浴びたように、目が覚めた。
私は、次から次へと、サラダを口へ運ぶ。なんて美味しいのだろう、と思いながら。
これは、一人で食べることにしておいて良かった。
他人のいるところでだと、こんな勢いでは食べられないから。
私は次に、スープへと視線を移す。
「これは絶対美味しいはず……」
サラダを食べ終え、一旦フォークを置くと、先端が正円になっているスプーンと、スープの入ったグラスを手に取る。
意外にも、グラスはひんやりしていた。どうやら冷たいスープが入っているようだ。
地味な卵色の上で、琥珀のような煮凝りが輝いている。その輝きといったら、まるで、「まだ食べてくれないのか」と言っているかのよう。
無意識のうちに、喉が上下する。
王女ならば、本来は、品良く少しずつ飲むべきなのだろう。
しかし、今の私は、早く食べたくて仕方ない気分。周りには誰もおらず、気にすることは何もないので、躊躇わずどんどん飲むことにした。
もっとも、さすがにグラスごと傾けることはしなかったが。
「琥珀……!」
煮凝りが喉をつるんと滑り降りた直後、私は、思わずそんなことを言ってしまった。
一人で話しているというだけでも厳しいものがあるのに、よく分からないことを発してしまうなんて、正直かなり恥ずかしいことだ。
周囲に誰もいない時で、本当に良かった。
続けて私は、刺身へと手を伸ばす。
花のように盛りつけられた生の白身魚の切り身は、まるで絵画のよう。戸惑うほどに美しく、食べて良いのか疑問に思ってしまうくらいのものだ。
フォークを刺して、一枚身を取る。
そして、口に放り込む。
「……っ!」
思わず言葉を失った。
あまりに美味しすぎたから。
弾力はあるのに、ほどよいタイミングで身がほぐれていく。だから、ぐにぐに噛み続けなくて済む。
「ピシアの料理って……凄い」
私は思わず、そんなことを呟いてしまった。
だって、そうではないか。
出された料理のすべてが美味しく、しかも見た目も華やかで。とにかく、信じられないくらいのハイクオリティなのだ。
「信じられない……」
なぜここまで素晴らしい料理がたくさんなのか、私には理解できなかった。
これを毎日食べられるかもしれないと思うと、胸が高鳴る。
下に駒のついた台に料理を乗せて、私の部屋まで持ってきてくれたのである。
「お持ちしました」
台の上には、いくつかの皿が乗せられている。
やや深さのある器に、レタスを始めとした葉野菜を森林のごとく詰め込んだ、サラダ。卵色の汁の上に琥珀のような煮凝にこごりを乗せたスープ。白身魚を薄く切ったものを、咲き誇る華麗な花のように皿に盛りつけた刺身。
いくつもの料理があるが、そのすべてが、まるで芸術品のよう。
「うわぁ……!」
「どうぞ召し上がって下さい」
「凄く豪華ですね!」
こんな華やかな料理を見せられたら、興奮を隠せない。凄まじい勢いで食いつきたくなる衝動を抑えることで、精一杯だ。
「早速いただいても構いませんか!?」
そう問うと、ローザはふふっと笑う。
「とても嬉しそうですね」
嬉しいに決まっている。
こんな素敵な料理を目の前に並べられているのだ、嬉しくないわけがない。
さぁ、どれから食べよう?
私の頭には、もはやそれしかない。
「このままでお食べになります? それとも、テーブルへ移しましょうか?」
「このままで大丈夫です」
早く食べたくて仕方がない。
「では、しばらく失礼致します。お食事終わられましたら、気軽に声をお掛け下さい」
ローザは軽く頭を下げると、台に乗った料理はそのままで、部屋から出ていった。
こうして、また一人になる。
一人になるとまたしても退屈さが込み上げてきた。が、今は先ほどまでと違って、食べるべき料理がある。だから、目の前に並んだ料理に集中しておくことに決めた。
美味しいものを食べれば、気分も変わるはず。
台の上に皿と一緒に置かれたフォークを手に取る。そして、サラダを一番手前へ持ってくる。
「いただきます」
やや深さのある器に入ったレタスにフォークを豪快に突き刺し、そのまま口へ運ぶ。口に含み、一度噛むと、爽やかな音と共に水が溢れた。噴水のようなレタスだ。
「……美味しい!」
朝日を浴びたように、目が覚めた。
私は、次から次へと、サラダを口へ運ぶ。なんて美味しいのだろう、と思いながら。
これは、一人で食べることにしておいて良かった。
他人のいるところでだと、こんな勢いでは食べられないから。
私は次に、スープへと視線を移す。
「これは絶対美味しいはず……」
サラダを食べ終え、一旦フォークを置くと、先端が正円になっているスプーンと、スープの入ったグラスを手に取る。
意外にも、グラスはひんやりしていた。どうやら冷たいスープが入っているようだ。
地味な卵色の上で、琥珀のような煮凝りが輝いている。その輝きといったら、まるで、「まだ食べてくれないのか」と言っているかのよう。
無意識のうちに、喉が上下する。
王女ならば、本来は、品良く少しずつ飲むべきなのだろう。
しかし、今の私は、早く食べたくて仕方ない気分。周りには誰もおらず、気にすることは何もないので、躊躇わずどんどん飲むことにした。
もっとも、さすがにグラスごと傾けることはしなかったが。
「琥珀……!」
煮凝りが喉をつるんと滑り降りた直後、私は、思わずそんなことを言ってしまった。
一人で話しているというだけでも厳しいものがあるのに、よく分からないことを発してしまうなんて、正直かなり恥ずかしいことだ。
周囲に誰もいない時で、本当に良かった。
続けて私は、刺身へと手を伸ばす。
花のように盛りつけられた生の白身魚の切り身は、まるで絵画のよう。戸惑うほどに美しく、食べて良いのか疑問に思ってしまうくらいのものだ。
フォークを刺して、一枚身を取る。
そして、口に放り込む。
「……っ!」
思わず言葉を失った。
あまりに美味しすぎたから。
弾力はあるのに、ほどよいタイミングで身がほぐれていく。だから、ぐにぐに噛み続けなくて済む。
「ピシアの料理って……凄い」
私は思わず、そんなことを呟いてしまった。
だって、そうではないか。
出された料理のすべてが美味しく、しかも見た目も華やかで。とにかく、信じられないくらいのハイクオリティなのだ。
「信じられない……」
なぜここまで素晴らしい料理がたくさんなのか、私には理解できなかった。
これを毎日食べられるかもしれないと思うと、胸が高鳴る。
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