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7話 もう少し一人でいさせて
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ピシアへ来て初めての食事は、とても豪華で、非常に美味しいものだった。
特に、一人で食べられたということが大きかったと思う。
一人で食べると周囲に気を遣わなくて良いので、食事だけを楽しみたい私としては最高なのだ。
その晩、誰かがドアをノックした。
扉についた覗き穴から外を確認すると、リンツの姿が見える。
「こんばんは、体調はどうかな?」
私が覗き穴から外を覗いていることに気づいているのかいないのかは不明だが、彼は扉越しにそんなことを言った。
「問題ありません」
無視するのも悪いので、一応それだけ返しておく。
「もしよかったら、話でもしないかね? 僕が生まれた頃の話とか、僕が三歳だった頃の話とか、聞きたくはないかな?」
「いえ、結構です」
リンツは私と話をしたいと思ってくれているのだろう。それは、ある意味、光栄なことかもしれない。さほど仲良くもない私に対して興味を持ってくれているということなのだから、感謝しなくてはならないことだ。
だが、今はそういう気分にはなれない。
この環境に慣れるまで、そして、両親への複雑な思いが片付くまでは、部屋で一人でいる方が良いと思うのだ。
「あ、もしかして、話題に問題があったかな。そういえば、よく言われるのだよ。『リンツは話がくだらない』とね。ははは」
「話がくだらない、と思っているわけではありません。ただ、今はお話する気になれないだけです」
「ふむ……複雑だね……。では、話すのではなく、ゲームをするというのはどうだろう? トランプでも用意させようか」
リンツは粘る。とにかく粘る。
こう言っては失礼かもしれないが、そろそろ面倒臭くなってきた。
「あの!」
「ん? 何かね」
「しばらく放っておいて下さい!」
扉は開けず、閉めたままでそう言い放つ。
——暫し、沈黙。
それから数十秒ほど経過し、先に沈黙を破ったのは、リンツの方だった。
「今は僕と一緒にいる気分ではないということかね?」
「はい。すみませんが」
「そうか、なら仕方ない。また明日来るとするよ」
リンツの声は、どことなく元気がなくなっていた。
「ではおやすみ。キャシィさん」
その言葉を最後に、リンツの声は聞こえなくなった。諦めて去っていったのだろう。
私はほっとすると同時に、申し訳ない気分にもなった。
だって、せっかく気を遣って会いに来てくれたというのに、それを断ってしまったんだもの。
私とて悪魔ではない。
申し訳ないと思う心だって持っているのだ。
けれど、今外へ出たら、リンツを始めとするピシアの人たちに、冷たく接してしまう気がする。所詮物程度としてしか見ていないのだろう、と言ってしまいそうな気がして、怖い。
酷いのはピシアの人たちじゃない。
勝手に私を利用した、両親だ。
私は何度も、自分にそう言い聞かせた。間違えないように、である。
——それにしても。
胸の奥に暗雲を立ち込めさせる、両親への不信感。これは、いつの日か消えてくれるのだろうか。忘れられる時が来るのだろうか。
「はぁ……これさえなければ」
ベッド上に大の字に寝転び、まだ慣れない天井を見上げる。
「あんな顔するなら……正直に言ってくれれば良かったのに」
結婚式の直後、姉は純粋に祝福してくれていたのに、両親はそうではなかった。非常に気まずそうな顔つきをしていた。そう——何か隠し事をしているような顔だった。
あの時は分からなかったけれど、今なら、二人があんな表情になっていた理由が分かる。
国のために、娘を利用した。
それを隠していたから、あんな曇った顔をしていたのだろう。
「何なのよ! もう!」
娘を利用してニシシと笑っているならまだ分かりやすいのに。
あんな罪悪感に苛まれているような顔をされたら、恨もうにも恨みきれないではないか。
特に、一人で食べられたということが大きかったと思う。
一人で食べると周囲に気を遣わなくて良いので、食事だけを楽しみたい私としては最高なのだ。
その晩、誰かがドアをノックした。
扉についた覗き穴から外を確認すると、リンツの姿が見える。
「こんばんは、体調はどうかな?」
私が覗き穴から外を覗いていることに気づいているのかいないのかは不明だが、彼は扉越しにそんなことを言った。
「問題ありません」
無視するのも悪いので、一応それだけ返しておく。
「もしよかったら、話でもしないかね? 僕が生まれた頃の話とか、僕が三歳だった頃の話とか、聞きたくはないかな?」
「いえ、結構です」
リンツは私と話をしたいと思ってくれているのだろう。それは、ある意味、光栄なことかもしれない。さほど仲良くもない私に対して興味を持ってくれているということなのだから、感謝しなくてはならないことだ。
だが、今はそういう気分にはなれない。
この環境に慣れるまで、そして、両親への複雑な思いが片付くまでは、部屋で一人でいる方が良いと思うのだ。
「あ、もしかして、話題に問題があったかな。そういえば、よく言われるのだよ。『リンツは話がくだらない』とね。ははは」
「話がくだらない、と思っているわけではありません。ただ、今はお話する気になれないだけです」
「ふむ……複雑だね……。では、話すのではなく、ゲームをするというのはどうだろう? トランプでも用意させようか」
リンツは粘る。とにかく粘る。
こう言っては失礼かもしれないが、そろそろ面倒臭くなってきた。
「あの!」
「ん? 何かね」
「しばらく放っておいて下さい!」
扉は開けず、閉めたままでそう言い放つ。
——暫し、沈黙。
それから数十秒ほど経過し、先に沈黙を破ったのは、リンツの方だった。
「今は僕と一緒にいる気分ではないということかね?」
「はい。すみませんが」
「そうか、なら仕方ない。また明日来るとするよ」
リンツの声は、どことなく元気がなくなっていた。
「ではおやすみ。キャシィさん」
その言葉を最後に、リンツの声は聞こえなくなった。諦めて去っていったのだろう。
私はほっとすると同時に、申し訳ない気分にもなった。
だって、せっかく気を遣って会いに来てくれたというのに、それを断ってしまったんだもの。
私とて悪魔ではない。
申し訳ないと思う心だって持っているのだ。
けれど、今外へ出たら、リンツを始めとするピシアの人たちに、冷たく接してしまう気がする。所詮物程度としてしか見ていないのだろう、と言ってしまいそうな気がして、怖い。
酷いのはピシアの人たちじゃない。
勝手に私を利用した、両親だ。
私は何度も、自分にそう言い聞かせた。間違えないように、である。
——それにしても。
胸の奥に暗雲を立ち込めさせる、両親への不信感。これは、いつの日か消えてくれるのだろうか。忘れられる時が来るのだろうか。
「はぁ……これさえなければ」
ベッド上に大の字に寝転び、まだ慣れない天井を見上げる。
「あんな顔するなら……正直に言ってくれれば良かったのに」
結婚式の直後、姉は純粋に祝福してくれていたのに、両親はそうではなかった。非常に気まずそうな顔つきをしていた。そう——何か隠し事をしているような顔だった。
あの時は分からなかったけれど、今なら、二人があんな表情になっていた理由が分かる。
国のために、娘を利用した。
それを隠していたから、あんな曇った顔をしていたのだろう。
「何なのよ! もう!」
娘を利用してニシシと笑っているならまだ分かりやすいのに。
あんな罪悪感に苛まれているような顔をされたら、恨もうにも恨みきれないではないか。
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