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37話 話しておきたいこと
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同室にするにあたって話しておきたいことを、私はリンツに言う。
「まず一つ目なのですけど、二人で同じ部屋にするということは、この部屋とは違う部屋で、ということになりますよね?」
私がそんなことを言ったのが意外だったのか、リンツは一瞬きょとんとした顔をした。しかし、数秒すると普段の表情に戻る。そして、微笑みながら返してくれる。
「そうだね。そうなると思うよ」
「この部屋で、というわけにはいきませんか?」
リンツは首を傾げる。
「この部屋で? それはつまり、この部屋で二人で暮らすことはできないか、ということかな?」
私はゆっくりと一度頷く。
「はい」
「なるほど……しかし、狭くはないかね?」
「それは分かっています。ただ、せっかく慣れることができたのだから、できればここから離れたくないな、と」
他者からすればどうでもいい話かもしれない。そんな小さいことを気にして、と思われるかもしれない。
けれども、私にとっては、慣れた環境で過ごせるかどうかはかなり重要なところなのだ。
「なるほど……分かった。では、その方向で考えることとしよう」
リンツは理解してくれたようだった。
「ありがとうございます……!」
「いえいえ、そのくらいならどうとでもなるとも」
「ありがとうございます」
「なに、気にすることはない。キャシィさんのためになら、できることはすべてするつもりだよ」
隣の国からやって来た、何の特徴もない、ただ「第二王女」であるだけの娘。それが私だ。そんな私のことさえ思いやってくれるなんて、リンツは驚くべき優しさである。これがキザな男性相手だったなら、「またそんな都合のいいことを言って」と呆れたかもしれないが、少年のような心を持つリンツが相手だとそんなことは思ってこないから不思議だ。
「で、他には何かあるかね?」
リンツは自らそう聞いてきてくれた。
「他は……あ、そうでした」
「何かあるかな?」
「私、自室ではかなりダラダラするんです。だから、他の身分の高い女性のように、一日中品良く過ごすことはできないと思います。そんな私ですが、それでも大丈夫ですか」
せっかく向こうから聞いてくれたのだから、と思い、私ははっきりと述べた。
自らこういうことを言い出すのは難しい。どうしても「言わない方がいいかも」と思ってしまう部分があるから。
ただ、向こうから聞いてくれたとなれば、話は別だ。
リンツが聞いてきたことに答えた。それだけのことなら、悪い気はしない。
「君は、そんなことを気にしていたのかね?」
「はい。……おかしいですか」
「いや、べつに、おかしいとは言わないよ。ただね」
何を言われるのだろう? という不安が込み上げる。
「そんなことを気にしているなんて、キャシィさんは可愛いね!」
リンツはあっけらかんと発した。
なぜそんなに笑顔なの?
なぜそんなに楽しげなの?
疑問はたくさんだ。
彼のことだから悪気はないのだろうけど。
「可愛いって……少し馬鹿にしてます?」
冗談めかしつつ、一応言ってみる。するとリンツは、一度きょとんとした後、晴れやかな笑みを浮かべた。
「馬鹿に、だって? 何を言っているのかね、そんなわけないじゃないか。キャシィさんが可愛いということを伝えたかっただけだよ」
リンツに直接「可愛い」なんて言われたので、つい照れてしまって、上手に言葉を返せなかった。
この程度で照れていると、第三者に「そんなことを真剣に受け止めるなんて」と言われてしまいそうだ。
……もちろん私だって分かっている。
少し優しいことを言われたからといって簡単にぽーっとなっては駄目だということくらい、分かっているの。
「……そうですか。では気にしないで下さい」
「誤解させてしまったなら、きちんと謝るよ」
「いえ、いいの。気にしないで」
あっ。
言葉を発し終えてから、私は、自分のミスに気づく。
そう、いつもと違う言葉遣いをしてしまったのである。
リンツと話す時は、ある程度丁寧な言葉を遣うように心がけきた。たとえ距離が近くなったとしても一線は引いておくように、努めてきたのだ。けれど、ついうっかり、友達と話でもするかのような口調で話してしまった。これは、完全なミスである。
「あ……」
リンツは穏やかな人。しかし、ずっと年上であることに変わりはないのだ。そんな人に対して慣れ慣れしい言葉遣いをするなんて、失礼としか言いようがない。
「いい!」
やってしまった……と一人後悔していた時、リンツが突如言い放った。
「まず一つ目なのですけど、二人で同じ部屋にするということは、この部屋とは違う部屋で、ということになりますよね?」
私がそんなことを言ったのが意外だったのか、リンツは一瞬きょとんとした顔をした。しかし、数秒すると普段の表情に戻る。そして、微笑みながら返してくれる。
「そうだね。そうなると思うよ」
「この部屋で、というわけにはいきませんか?」
リンツは首を傾げる。
「この部屋で? それはつまり、この部屋で二人で暮らすことはできないか、ということかな?」
私はゆっくりと一度頷く。
「はい」
「なるほど……しかし、狭くはないかね?」
「それは分かっています。ただ、せっかく慣れることができたのだから、できればここから離れたくないな、と」
他者からすればどうでもいい話かもしれない。そんな小さいことを気にして、と思われるかもしれない。
けれども、私にとっては、慣れた環境で過ごせるかどうかはかなり重要なところなのだ。
「なるほど……分かった。では、その方向で考えることとしよう」
リンツは理解してくれたようだった。
「ありがとうございます……!」
「いえいえ、そのくらいならどうとでもなるとも」
「ありがとうございます」
「なに、気にすることはない。キャシィさんのためになら、できることはすべてするつもりだよ」
隣の国からやって来た、何の特徴もない、ただ「第二王女」であるだけの娘。それが私だ。そんな私のことさえ思いやってくれるなんて、リンツは驚くべき優しさである。これがキザな男性相手だったなら、「またそんな都合のいいことを言って」と呆れたかもしれないが、少年のような心を持つリンツが相手だとそんなことは思ってこないから不思議だ。
「で、他には何かあるかね?」
リンツは自らそう聞いてきてくれた。
「他は……あ、そうでした」
「何かあるかな?」
「私、自室ではかなりダラダラするんです。だから、他の身分の高い女性のように、一日中品良く過ごすことはできないと思います。そんな私ですが、それでも大丈夫ですか」
せっかく向こうから聞いてくれたのだから、と思い、私ははっきりと述べた。
自らこういうことを言い出すのは難しい。どうしても「言わない方がいいかも」と思ってしまう部分があるから。
ただ、向こうから聞いてくれたとなれば、話は別だ。
リンツが聞いてきたことに答えた。それだけのことなら、悪い気はしない。
「君は、そんなことを気にしていたのかね?」
「はい。……おかしいですか」
「いや、べつに、おかしいとは言わないよ。ただね」
何を言われるのだろう? という不安が込み上げる。
「そんなことを気にしているなんて、キャシィさんは可愛いね!」
リンツはあっけらかんと発した。
なぜそんなに笑顔なの?
なぜそんなに楽しげなの?
疑問はたくさんだ。
彼のことだから悪気はないのだろうけど。
「可愛いって……少し馬鹿にしてます?」
冗談めかしつつ、一応言ってみる。するとリンツは、一度きょとんとした後、晴れやかな笑みを浮かべた。
「馬鹿に、だって? 何を言っているのかね、そんなわけないじゃないか。キャシィさんが可愛いということを伝えたかっただけだよ」
リンツに直接「可愛い」なんて言われたので、つい照れてしまって、上手に言葉を返せなかった。
この程度で照れていると、第三者に「そんなことを真剣に受け止めるなんて」と言われてしまいそうだ。
……もちろん私だって分かっている。
少し優しいことを言われたからといって簡単にぽーっとなっては駄目だということくらい、分かっているの。
「……そうですか。では気にしないで下さい」
「誤解させてしまったなら、きちんと謝るよ」
「いえ、いいの。気にしないで」
あっ。
言葉を発し終えてから、私は、自分のミスに気づく。
そう、いつもと違う言葉遣いをしてしまったのである。
リンツと話す時は、ある程度丁寧な言葉を遣うように心がけきた。たとえ距離が近くなったとしても一線は引いておくように、努めてきたのだ。けれど、ついうっかり、友達と話でもするかのような口調で話してしまった。これは、完全なミスである。
「あ……」
リンツは穏やかな人。しかし、ずっと年上であることに変わりはないのだ。そんな人に対して慣れ慣れしい言葉遣いをするなんて、失礼としか言いようがない。
「いい!」
やってしまった……と一人後悔していた時、リンツが突如言い放った。
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