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41話 お気に入りなのは色なのね
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リンツは、私のターコイズのワンピースを、非常に気に入っているらしい。そのせいか、腰を曲げたり背を丸めたりして、ありとあらゆる角度から私の体を見てくる。素晴らしい彫刻を鑑賞するかのように。
他人ひとの体をそんなに見るなんて、失礼よ!
そう言ってやりたい気分ではあるのだが、相手が下心のないリンツであるだけに、そんなにきついことを言う気にはなれなくて。
「おぉ……。素晴らしいよ、このワンピース」
「気に入ったみたいね」
「もちろん! それは、もちろんだとも!」
リンツは目を大きく開いて、勢いよく述べる。
「こんな美しい色は見たことがない!」
……気に入っているのは、色なのね。
なぜだろう、少し切ない気分になった。
彼が気に入っているのは「私」ではなくて「ワンピース」で。しかも、ワンピースそのものではなくて、ワンピースの「色」である。
私が切なくなったのは、多分、それが原因なのだろう。
「そう……綺麗な色よね。私も気に入っているわ」
「ん? キャシィさん、少し元気がないことはないかね?」
貴方のせいよ。貴方が、私よりワンピースの色に夢中になるからよ。
内心そんなことを思ってしまったが、その思いを口から出すことはしないでおいた。
言っても意味のないことだと、分かっているから。
「いいえ。そんなことはないわ」
私はそう返す。
しかし、リンツは納得できないような顔。怪しむような表情で、首を軽く傾げる。
「……本当かね?」
「本当よ」
「しかし、何だか顔色が悪く見えるよ?」
「それは元々。気にしないでちょうだい」
くだらないことで少し憂鬱になっているなんて、言えない。
それに、そんなことを打ち明けたって、リンツが不快な思いをするだけだ。
「そうかね……僕の気のせいならいいのだがね。ま、とにかく、体調に異変があったら言ってくれたまえ」
リンツは、しわの刻まれた顔に柔らかな笑みを浮かべながら、そっと言葉をかけてくれた。
「お気遣いありがとう」
「いやいや。お礼を言われるようなことは、何もしていないよ」
そこで彼は話題を変える。
「そうだ! 今、外へ行けるかね?」
「え」
急に話題が変わり、私は一瞬動揺した。
「今日は半日工事だろう? ここにはいられない。だから、その間……もしよかったら僕の部屋へ来ないかね?」
そうだった。部屋を拡張するための工事があるのだったわね。
リンツに言われたことで、今日工事があるということを思い出した。
彼に言われなかったら、すっかり忘れていて、いざその時になって思い出すことになるところだった。そんなことになったら、きっと大慌てすることになったことだろう。こればかりは感謝。
「リンツさんの部屋に?」
「そう。前は何度か来てもらった覚えがある! しかし、ここしばらくは来てもらえていない! ……だから少し寂しくてね」
後半、突然、哀愁漂う顔つきになるリンツ。
いつも陽気でよく笑うリンツだが、年を感じさせるその面には、今のような表情の方が似合っている。哀愁漂う表情が似合う顔なのだと、さりげなく気がついてしまった。
「そうね、じゃあ行かせてもらうわ。今からでいい?」
「もちろん!」
リンツはまた笑顔に戻っていた。
「あ、でも……部屋の片付けはまだできていないわ」
母国から持ってきた荷物はそんなに多くない。しかし、日頃使っている日用品は、部屋中に散らばっている。散乱させているというわけではないけれど、まだ片付けられてはいない。特に洗面所なんかは、色々と物が残っている。
「それは大丈夫! 侍女に任せておけばいい!」
「ローザさんに?」
「そう! それで何の問題もないよ」
親切なローザのことだ、頼めば引き受けてはくれるだろう。だが、彼女に任せてしまったりして、良いのだろうか。片付けを他人に任せて自分は遊びにいくなんて、無責任に思えて仕方ない。
そんな不安を読んでいてそれを掻き消すかのように、リンツは言ってくる。
「もし何かあったら、ということは、既に僕から頼んであるから」
「え!」
「だから、キャシィさんが心配することはないよ」
「えぇっ!」
他人ひとの体をそんなに見るなんて、失礼よ!
そう言ってやりたい気分ではあるのだが、相手が下心のないリンツであるだけに、そんなにきついことを言う気にはなれなくて。
「おぉ……。素晴らしいよ、このワンピース」
「気に入ったみたいね」
「もちろん! それは、もちろんだとも!」
リンツは目を大きく開いて、勢いよく述べる。
「こんな美しい色は見たことがない!」
……気に入っているのは、色なのね。
なぜだろう、少し切ない気分になった。
彼が気に入っているのは「私」ではなくて「ワンピース」で。しかも、ワンピースそのものではなくて、ワンピースの「色」である。
私が切なくなったのは、多分、それが原因なのだろう。
「そう……綺麗な色よね。私も気に入っているわ」
「ん? キャシィさん、少し元気がないことはないかね?」
貴方のせいよ。貴方が、私よりワンピースの色に夢中になるからよ。
内心そんなことを思ってしまったが、その思いを口から出すことはしないでおいた。
言っても意味のないことだと、分かっているから。
「いいえ。そんなことはないわ」
私はそう返す。
しかし、リンツは納得できないような顔。怪しむような表情で、首を軽く傾げる。
「……本当かね?」
「本当よ」
「しかし、何だか顔色が悪く見えるよ?」
「それは元々。気にしないでちょうだい」
くだらないことで少し憂鬱になっているなんて、言えない。
それに、そんなことを打ち明けたって、リンツが不快な思いをするだけだ。
「そうかね……僕の気のせいならいいのだがね。ま、とにかく、体調に異変があったら言ってくれたまえ」
リンツは、しわの刻まれた顔に柔らかな笑みを浮かべながら、そっと言葉をかけてくれた。
「お気遣いありがとう」
「いやいや。お礼を言われるようなことは、何もしていないよ」
そこで彼は話題を変える。
「そうだ! 今、外へ行けるかね?」
「え」
急に話題が変わり、私は一瞬動揺した。
「今日は半日工事だろう? ここにはいられない。だから、その間……もしよかったら僕の部屋へ来ないかね?」
そうだった。部屋を拡張するための工事があるのだったわね。
リンツに言われたことで、今日工事があるということを思い出した。
彼に言われなかったら、すっかり忘れていて、いざその時になって思い出すことになるところだった。そんなことになったら、きっと大慌てすることになったことだろう。こればかりは感謝。
「リンツさんの部屋に?」
「そう。前は何度か来てもらった覚えがある! しかし、ここしばらくは来てもらえていない! ……だから少し寂しくてね」
後半、突然、哀愁漂う顔つきになるリンツ。
いつも陽気でよく笑うリンツだが、年を感じさせるその面には、今のような表情の方が似合っている。哀愁漂う表情が似合う顔なのだと、さりげなく気がついてしまった。
「そうね、じゃあ行かせてもらうわ。今からでいい?」
「もちろん!」
リンツはまた笑顔に戻っていた。
「あ、でも……部屋の片付けはまだできていないわ」
母国から持ってきた荷物はそんなに多くない。しかし、日頃使っている日用品は、部屋中に散らばっている。散乱させているというわけではないけれど、まだ片付けられてはいない。特に洗面所なんかは、色々と物が残っている。
「それは大丈夫! 侍女に任せておけばいい!」
「ローザさんに?」
「そう! それで何の問題もないよ」
親切なローザのことだ、頼めば引き受けてはくれるだろう。だが、彼女に任せてしまったりして、良いのだろうか。片付けを他人に任せて自分は遊びにいくなんて、無責任に思えて仕方ない。
そんな不安を読んでいてそれを掻き消すかのように、リンツは言ってくる。
「もし何かあったら、ということは、既に僕から頼んであるから」
「え!」
「だから、キャシィさんが心配することはないよ」
「えぇっ!」
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