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47話 貴方に出会うのを
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若干面倒臭い女性イレーネと別れ、私とリンツは再び歩き出す。
行き先は知らぬまま、彼の後を追うように歩き続ける。
どこへたどり着くのか分からないので少し不安はあるが、極力何も考えないようにしつつ、私は歩いた。
前を行くのがリンツなので、少々不安もある。ちゃんと目的地にたどり着けるのだろうか、という不安だ。ただ、彼の足取りに迷いはない。だからきっと大丈夫だろう。私は、良い方向に考えるようにしておいた。
歩くことしばらく。
リンツが立ち止まったのは、木製の扉の前だった。
「着いたよ、キャシィさん!」
目の前にある扉は、木製ながら艶があり、かさついていない。綺麗に加工されている。しかも、ところどころに細やかな模様が刻み込まれており、かなり豪華な仕上がりだ。
だが、わざわざ紹介するほどのものとは思えない。
リンツが私に見せようとしてくれていたのは、この扉だったのだろうか……?
少々変わり者のリンツのことだ、意外な展開が起こらないとは言えない。だから「この扉を見せたかったんだ!」なんて言い出しそうな気もする。が、さすがにそれはないと思うのだが。
「この扉を見せるために、わざわざここまで?」
恐る恐る尋ねてみる。
すると彼は、笑顔で返してくれた。
「違うよ!」
ほっ。
やっぱり違ったのね、良かった。
「見せたいのは、ここの部屋!」
ここの部屋。それはつまり、この扉の向こうに広がる部屋の中、という解釈で間違いないのだろうか。
「部屋?」
「そう! キャシィさんに似合う綺麗なものがたくさんあるのだよ!」
綺麗なもの、か。
悪くない。
そんな風に考えていると、リンツが扉を開けてくれた。
豪華なデザインの木製扉の向こうに広がっていたのは、いくつものガラス細工が飾られている部屋。
「うわぁ! 凄いっ……!」
思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。
あまり広くない部屋だ。しかも、棚がたくさん置いてあるため、なおさら広くは感じられない。
しかし、狭さなんて、ちっとも気にならない。
そんなことは欠片も気にならないくらい、他が美しいからだ。
「ここは一体!?」
「ガラス細工の部屋だよ!」
……おぉ。
驚きの当たり前な答え。
いや、それは見れば分かるだろう。
そんな風に突っ込みたくなるような答えだ。
何となく残念な気分になる答えを返してくれる辺り、リンツらしいと言えるだろう。それが良いのか悪いのかはともかく。
「もしかして……リンツさんのコレクションなの?」
「それに近いね」
「やっぱり! そういうこと!」
部屋に入って一番に目に留まったのは、鹿の形をした作品。片手の手のひらに乗る程度の大きさの、四本足で立っている透明な鹿だ。
透明なガラスで作られているため、色はほぼない。しかし、それでも鹿に見える。十人に聞けば、少なくとも九人は「鹿」と分かるだろう。そのくらい、鹿らしい造形だ。
やや丸みを帯びた角も、可愛らしい。
「これ、鹿よね!?」
透明感があって綺麗、しかも知っている動物がモチーフだったので、ついテンションが上がってしまう。
「そうだよ」
「凄く素敵ね!」
「おぉ! 気に入ってくれたかね! それは嬉しい」
鹿の形のガラス細工に心を奪われている私を眺め、リンツは微笑んでいた。その柔らかな表情は、包容力を感じさせる。
「これもリンツさんのものなの?」
「その鹿はだね、僕がまだ二十歳にもなっていなかった頃に貰った贈り物なのだよ」
「誰かに貰ったものなのね」
透明な鹿。
それはとても非現実的。それは凄く幻想的。
こんな鹿を見られるなんて、まるで、不思議の国に迷い込んだかのよう。
「あれは確かー……北の国からお客さんが来た時だったかな? そのお客さんが持ってきてくれた贈り物の中に、これが一つだけ混ざっていてね」
ガラス細工が、その北の国の名産品か何かだったのかと、一瞬思ってしまった。だが、一つだけだったということは、べつに名産品というわけでもないのだろう。
「あら。一つだけだったのね」
「そう! なぜか一つだけだったのだよ!」
「不思議ね」
「やはりそう思うかね! 僕もそう思った。きっと、運命の出会いだったに違いない!」
勢いのある声で話すリンツは、生気に満ちている。
お世辞にも若いとは言い難い年のリンツだが、今は、青年のような若々しさだ。
「ふふ。そうね。きっとそうよ」
「キャシィさんもそう思うかね!?」
「えぇ。この鹿はきっと、貴方に出会うのを待っていたのだわ」
行き先は知らぬまま、彼の後を追うように歩き続ける。
どこへたどり着くのか分からないので少し不安はあるが、極力何も考えないようにしつつ、私は歩いた。
前を行くのがリンツなので、少々不安もある。ちゃんと目的地にたどり着けるのだろうか、という不安だ。ただ、彼の足取りに迷いはない。だからきっと大丈夫だろう。私は、良い方向に考えるようにしておいた。
歩くことしばらく。
リンツが立ち止まったのは、木製の扉の前だった。
「着いたよ、キャシィさん!」
目の前にある扉は、木製ながら艶があり、かさついていない。綺麗に加工されている。しかも、ところどころに細やかな模様が刻み込まれており、かなり豪華な仕上がりだ。
だが、わざわざ紹介するほどのものとは思えない。
リンツが私に見せようとしてくれていたのは、この扉だったのだろうか……?
少々変わり者のリンツのことだ、意外な展開が起こらないとは言えない。だから「この扉を見せたかったんだ!」なんて言い出しそうな気もする。が、さすがにそれはないと思うのだが。
「この扉を見せるために、わざわざここまで?」
恐る恐る尋ねてみる。
すると彼は、笑顔で返してくれた。
「違うよ!」
ほっ。
やっぱり違ったのね、良かった。
「見せたいのは、ここの部屋!」
ここの部屋。それはつまり、この扉の向こうに広がる部屋の中、という解釈で間違いないのだろうか。
「部屋?」
「そう! キャシィさんに似合う綺麗なものがたくさんあるのだよ!」
綺麗なもの、か。
悪くない。
そんな風に考えていると、リンツが扉を開けてくれた。
豪華なデザインの木製扉の向こうに広がっていたのは、いくつものガラス細工が飾られている部屋。
「うわぁ! 凄いっ……!」
思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。
あまり広くない部屋だ。しかも、棚がたくさん置いてあるため、なおさら広くは感じられない。
しかし、狭さなんて、ちっとも気にならない。
そんなことは欠片も気にならないくらい、他が美しいからだ。
「ここは一体!?」
「ガラス細工の部屋だよ!」
……おぉ。
驚きの当たり前な答え。
いや、それは見れば分かるだろう。
そんな風に突っ込みたくなるような答えだ。
何となく残念な気分になる答えを返してくれる辺り、リンツらしいと言えるだろう。それが良いのか悪いのかはともかく。
「もしかして……リンツさんのコレクションなの?」
「それに近いね」
「やっぱり! そういうこと!」
部屋に入って一番に目に留まったのは、鹿の形をした作品。片手の手のひらに乗る程度の大きさの、四本足で立っている透明な鹿だ。
透明なガラスで作られているため、色はほぼない。しかし、それでも鹿に見える。十人に聞けば、少なくとも九人は「鹿」と分かるだろう。そのくらい、鹿らしい造形だ。
やや丸みを帯びた角も、可愛らしい。
「これ、鹿よね!?」
透明感があって綺麗、しかも知っている動物がモチーフだったので、ついテンションが上がってしまう。
「そうだよ」
「凄く素敵ね!」
「おぉ! 気に入ってくれたかね! それは嬉しい」
鹿の形のガラス細工に心を奪われている私を眺め、リンツは微笑んでいた。その柔らかな表情は、包容力を感じさせる。
「これもリンツさんのものなの?」
「その鹿はだね、僕がまだ二十歳にもなっていなかった頃に貰った贈り物なのだよ」
「誰かに貰ったものなのね」
透明な鹿。
それはとても非現実的。それは凄く幻想的。
こんな鹿を見られるなんて、まるで、不思議の国に迷い込んだかのよう。
「あれは確かー……北の国からお客さんが来た時だったかな? そのお客さんが持ってきてくれた贈り物の中に、これが一つだけ混ざっていてね」
ガラス細工が、その北の国の名産品か何かだったのかと、一瞬思ってしまった。だが、一つだけだったということは、べつに名産品というわけでもないのだろう。
「あら。一つだけだったのね」
「そう! なぜか一つだけだったのだよ!」
「不思議ね」
「やはりそう思うかね! 僕もそう思った。きっと、運命の出会いだったに違いない!」
勢いのある声で話すリンツは、生気に満ちている。
お世辞にも若いとは言い難い年のリンツだが、今は、青年のような若々しさだ。
「ふふ。そうね。きっとそうよ」
「キャシィさんもそう思うかね!?」
「えぇ。この鹿はきっと、貴方に出会うのを待っていたのだわ」
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