母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?

四季

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17話「病院」

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 こちらの世界の病院は、元々生きていた世界の病院とは見た目が大きく違っていた。

 元の世界での病院といったら、大小はあるにせよ、それなりに立派なところが多かった。地域を代表するようなところであれば、ショッピングモールかと勘違いしそうなほど広く綺麗なところもあったぐらいだ。
 けれども、こちらの世界の病院は、古い平屋だった。

 田舎にある一軒家のような外観である。

「ここが……病院、なんですか?」
「そうだけど、それがどうかしたのかい? あ、もしかして、珍しいのかい?」
「……はい」
「へぇ。人間の世界ってのは、こんな感じじゃないんだね」

 こちらの世界で生きているアカリにとっては、こういった病院が当たり前のものなのだろう。
 生きている世界が違えば感覚も違う、というのは、正しいこと――それを改めて実感する。

「やっはり……向こうとは別の世界なんですね。こうして慣れない風景を見ていると、改めて感じます」

 ここへ来てもう数日が経った。良い人間関係に恵まれたこともあって、それなりに幸せに過ごせている。言語も通じるし、苦労はない。ただ、ふと思うことはある。それは、私がこの世界で暮らしている間、向こうの世界ではどのように扱われているのだろうという疑問だ。
 扱いとしては、行方不明になっているのだろうか?
 この現象の経験者である祖母がいたなら、何か聞けたかもしれない。ヒントを得ることができたかもしれない。けれど、今は祖母はもういない。だから、誰かに色々教えてもらうということは不可能だ。

「マコト? どうしたんだい?」

 考え事をして自分の世界に入り込んでしまっていた私は、アカリの声で今いる世界に引き戻された。

「あっ……いえ、えっと……その、すみません」

 穏やかな空、爽やかな空気、そして目の前に建つ和風建築の病院。
 それらを目にしているうちに意識がこちらの世へと戻ってくる。

「ぼーっとしてたよ」
「すみません。向こうのことを考えていて……」
「ここへ来る前の世界のことかい?」
「はい。人間の」

 母は、親族は、友達は、いなくなった私のことをどう思っているのだろう。

「……早く帰りたいかい?」

 アカリは私の顔を見て、少しばかり切なそうな顔をする。
 瞳はいつもより潤んでいて、質の良い宝石のようだ。

「あ、いえ。そういう話をしたかったわけじゃ……」

 瑞々しく美しいアカリの瞳に吸い込まれそうな気がして、私は思わず目を逸らした。

「いやいや、いいんだよ。ただ、そうだろうなと思って」
「……私、そんなに分かりやすかったですかね」
「なんとなく察しただけだよ。べつに、アンタが露骨にそんな顔してたってわけじゃない」

 病院の建物の入り口には、横にスライドして開けるタイプの扉が設置されていた。

 艶がある焦げ茶の枠は加工した木、それ以外はガラス、といったところだろうか。本当のところは不明だが、そんな材質に思える。古風な造りの建物のわりには、扉は綺麗。扉だけ後から作り変えたかのよう。

 そんな扉に手をかけたのは、アカリ。
 彼女は何の躊躇いもなく、まるで自宅であるかのように扉を横に開けた。

「こっちだよ」
「あっ……はい!」


 扉を開けて建物内に入る。
 内装も、日本の古い家そのものという感じだった。
 今やあまり見かけることがなくなった長い廊下や襖などが、そこには当たり前のように存在していた。畳の広い部屋もある。壁は橙色と灰色を混ぜたような色だが、ところどころホコリで汚れていた。

「本当にここが……病院なんですか?」

 しばらく歩いているが、ただの家にしか見えない。
 幼い頃親に連れられて田舎にいる親戚の家を訪問した時、目にした光景。それに何だかとてもよく似ている気がする。構造や物の配置が同じというわけではない。場の雰囲気や、全体像が、似ているような気がするのだ。
 あれはもう十年以上前のこと。
 それゆえ記憶も曖昧だけれど。

「そうだよ。ま、もうちょっと歩かなきゃ病院の方へは着かないけどね」
「え。まだ着いていないんですか」
「本当はあっちから入った方が早いんだけど、人の子だからってマコトが危険な目に遭ったら駄目だと思ってね」
「……そうだったのですね。ありがとうございます」

 トウロウに会うには、もう少し時間がかかりそうだ。


 私たちが入ったのは、どうやら裏口だったらしい。そのため、病院として使っている敷地へ到着するまで、そこそこ時間がかかってしまった。が、無事病院の敷地へ到着する。

「あ! アカリさんですね!」
「ごめんねぇ。裏からなんて無理言って」

 裏口から入り建物内を歩いていた私たちを迎えてくれたのは、看護師と思われる人物だった。
 ちなみに、その人の頭部は白猫だ。

「いえ、大丈夫ですよー。では! 先生を呼んできますね!」

 白猫の女性は可憐な雰囲気をまとっていた。
 猫が二足歩行しているなんて、普通は不自然としか思えなさそうだ。しかし、今はそれほど違和感を抱かなかった。それどころか、桜色のワンピースをまとったその姿からは、愛らしささえ感じられた。

「トウロウには会わせてもらえないのかい?」
「あ、いえ! そんなことはありません! ただ、アカリさんがいらっしゃったら呼ぶようにと、先生から言われておりまして」

 これはどうでもいいことだが。
 白猫の女性の控えめな鼻は、ほんのり赤らんでいて、とても可愛らしい。

「あぁ、そうだったのかい」
「お待ち下さい!」
「分かったよ。急がなくて良いからね」
「はーいっ」

 それから数分、白猫の看護師が亀のおじさんを連れてきた。
 彼もまた、皆と同じく二足歩行。亀なのに、である。しかも、甲羅をランドセルのような感じで背負っていて、妙な雰囲気だ。白衣を羽織ってはいるのだが、岩のような甲羅が気になって、どうしても医者らしさを感じられない。

「おお、アカリさん。久しぶり」
「トウロウはどうだい?」
「今は入院患者用の部屋で寝ているよ」
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