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もしこの人生が社会一般的に理想的なものではないとしても、それでもべつに構いません。私はただ私のために生きるだけです。
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「アイリーナ、お前、この前踊ってただろ」
婚約者ウィレッセントから急にそんなことを言われて戸惑う。
確かに踊ってはいた。だがそれはこの地域に代々伝わる踊りだ。呪いとか不運を呼ぶとかそういった怪しい踊りではない。そのことは彼だって知っているはず、だって彼もこの地域で生まれ育った人間なのだから。
「え? まぁ踊ってはいたけど……それがどうかした?」
心の中で首を傾げつつそう返してみると。
「俺さ、お前ムリだわ」
はっきりとそんなことを言われてしまった。
「だから婚約破棄する」
しかもそこまで言われてしまって。
「婚約破棄、そう、婚約破棄ね――って、えええええ!?」
思わず大声を出してしまった。
だがそれは避けられないこと。だって、婚約しているのにそれをなしにすると言われたのだ。私は今、人生における大きなことを一方的に叩き壊すようなことをされたのだ。それはつまり、私が手にしている人生を彼に壊されるようなもの。
「本気なの!?」
動揺する私とは対照的に。
「当たり前だろ」
彼は淡々と言葉を返してきていた。
「えええー……で、でも、そんな急な……」
「いやだって踊りムリなんだもん」
「そ、そそ、それが理由……?」
「ああそうだよ」
う、う、嘘でしょおぉぉぉぉ……!?
だって、だって、踊りなんてこの地域ではいたって普通のものなのに。
変なことじゃないのに。
おかしな行動でもないのに。
なんてことだ……。
それを理由に婚約破棄宣言されるなんて、意味が分からない……。
とはいえこれは現実。
彼が私と離れたがっているという事実を書き換えることはできない。
「そう……分かったわ、仕方ないわね」
「いいんだな!?」
「ええ、だってきっともう、何を言っても無駄なのでしょう」
「うん!!」
「……じゃあね、さよなら」
私、アイリーナ、婚約者に捨てられました。
悲しい……。
虚しい……。
……そして切ない。
◆
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! はい! ぁっ、はいーや、そーれさっさ! どっこらしょ! どっこらしょぉ! はいとれはいさ! はいとれはいよ! はいよ! はいよ! ははははは、っ、しょーっとら! は! う! は! うっとこ、は!」
あの後踊り手となった私は地域の伝統文化を継承する立場の人間として踊り続け、国内でもかなり有名な踊り手になることができた。
今は国中から踊りを見たいという依頼が届く。
それゆえ一年中忙しい。
全国を回って多くの人々の前で踊りを披露しているのだ。
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
忙しいけれど充実した日々。
この道を選んだことを後悔はしていない。
……そもそも踊りは嫌いではないし。
「は! う! は! う! や! やっとれ! はいしょ! はい、しょ! っ、っ、っ、は! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅら! はいとれ! はいらら! はいのら! しょっとら! は! う!しょっくぅらはいほいーっとせ! あいーやそーれさっ、あいーやそーれさっ、あいーやそーれさっ、あいーなそーれさっ、あみーやそーれさっ、あいーやしょーれさっ、は! は! はい! はいあそれい!」
ウィレッセントは先月家の近くで熊に襲われて亡くなった。
もう彼に会うことはないだろう。
でもそれでいい。
もし彼と会ったとしても嫌な気分になるだけだろうから。
「どっせいどっせいどっせいどっせい! どっせいどっせいどっせいどっせい! どっしょらどっしょ! どっしょれどった! どれっとどれっど! どっれとどれっと! どっせいどっせい、はい! どっせいどっせい、はい! うーっ、ふぃあ! ふぃあ! んあーっと、しょ! しょ! しょ! しょら、しょっこら、ほいとら、せっとらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっん、こい! こい! こら! こい!」
私は私が行くべき道を進むだけ。
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
もしそれが皆から理想的とされる人生ではないとしても――べつにそれでも構わない、だって私は評判のためだけに生きているわけではないから。
理解してくれる人が寄り添ってくれる、それだけでいい。
「あっ、あっ、くっ、やっ、は! あっ、あっ、とらとらとらてらほらさ! んはーっ、と、しょい! しょい! ほらほらほらほらどっせいせい! はい!」
ただ進むべき道を進もう。
「あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
◆終わり◆
婚約者ウィレッセントから急にそんなことを言われて戸惑う。
確かに踊ってはいた。だがそれはこの地域に代々伝わる踊りだ。呪いとか不運を呼ぶとかそういった怪しい踊りではない。そのことは彼だって知っているはず、だって彼もこの地域で生まれ育った人間なのだから。
「え? まぁ踊ってはいたけど……それがどうかした?」
心の中で首を傾げつつそう返してみると。
「俺さ、お前ムリだわ」
はっきりとそんなことを言われてしまった。
「だから婚約破棄する」
しかもそこまで言われてしまって。
「婚約破棄、そう、婚約破棄ね――って、えええええ!?」
思わず大声を出してしまった。
だがそれは避けられないこと。だって、婚約しているのにそれをなしにすると言われたのだ。私は今、人生における大きなことを一方的に叩き壊すようなことをされたのだ。それはつまり、私が手にしている人生を彼に壊されるようなもの。
「本気なの!?」
動揺する私とは対照的に。
「当たり前だろ」
彼は淡々と言葉を返してきていた。
「えええー……で、でも、そんな急な……」
「いやだって踊りムリなんだもん」
「そ、そそ、それが理由……?」
「ああそうだよ」
う、う、嘘でしょおぉぉぉぉ……!?
だって、だって、踊りなんてこの地域ではいたって普通のものなのに。
変なことじゃないのに。
おかしな行動でもないのに。
なんてことだ……。
それを理由に婚約破棄宣言されるなんて、意味が分からない……。
とはいえこれは現実。
彼が私と離れたがっているという事実を書き換えることはできない。
「そう……分かったわ、仕方ないわね」
「いいんだな!?」
「ええ、だってきっともう、何を言っても無駄なのでしょう」
「うん!!」
「……じゃあね、さよなら」
私、アイリーナ、婚約者に捨てられました。
悲しい……。
虚しい……。
……そして切ない。
◆
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! はい! ぁっ、はいーや、そーれさっさ! どっこらしょ! どっこらしょぉ! はいとれはいさ! はいとれはいよ! はいよ! はいよ! ははははは、っ、しょーっとら! は! う! は! うっとこ、は!」
あの後踊り手となった私は地域の伝統文化を継承する立場の人間として踊り続け、国内でもかなり有名な踊り手になることができた。
今は国中から踊りを見たいという依頼が届く。
それゆえ一年中忙しい。
全国を回って多くの人々の前で踊りを披露しているのだ。
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
忙しいけれど充実した日々。
この道を選んだことを後悔はしていない。
……そもそも踊りは嫌いではないし。
「は! う! は! う! や! やっとれ! はいしょ! はい、しょ! っ、っ、っ、は! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅら! はいとれ! はいらら! はいのら! しょっとら! は! う!しょっくぅらはいほいーっとせ! あいーやそーれさっ、あいーやそーれさっ、あいーやそーれさっ、あいーなそーれさっ、あみーやそーれさっ、あいーやしょーれさっ、は! は! はい! はいあそれい!」
ウィレッセントは先月家の近くで熊に襲われて亡くなった。
もう彼に会うことはないだろう。
でもそれでいい。
もし彼と会ったとしても嫌な気分になるだけだろうから。
「どっせいどっせいどっせいどっせい! どっせいどっせいどっせいどっせい! どっしょらどっしょ! どっしょれどった! どれっとどれっど! どっれとどれっと! どっせいどっせい、はい! どっせいどっせい、はい! うーっ、ふぃあ! ふぃあ! んあーっと、しょ! しょ! しょ! しょら、しょっこら、ほいとら、せっとらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっん、こい! こい! こら! こい!」
私は私が行くべき道を進むだけ。
「っ、あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
もしそれが皆から理想的とされる人生ではないとしても――べつにそれでも構わない、だって私は評判のためだけに生きているわけではないから。
理解してくれる人が寄り添ってくれる、それだけでいい。
「あっ、あっ、くっ、やっ、は! あっ、あっ、とらとらとらてらほらさ! んはーっ、と、しょい! しょい! ほらほらほらほらどっせいせい! はい!」
ただ進むべき道を進もう。
「あいーやそーれさっ、とっこらしょっしょっしょ! っ、はぁ! はぁはぁはぁ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ! はぃとぅらしょっくぅらはいほいーっとせ!」
◆終わり◆
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