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『申し訳ありませんが、可哀想だなんて……思えるはずもないのです。』

 かつて私には婚約者がいた。
 その名前はローデン。
 彼は外見こそ整った人物であった、が、婚約者である私にことあるごとに嫌みを言ってくるような人で。

 そんな彼はある時急に婚約破棄してきた、のだが……そんな彼は、婚約破棄宣言後間もなく内臓を抜かれて亡くなってしまった。

 というのも、母親が違法な組織と関わりを持っていたそうなのだ。

 それによって彼は事件に巻き込まれた。
 ある意味それは不運な出来事。
 ローデン自身が招いたことではない、それゆえ、もしかしたら本来は多少気の毒な部分もあるのかもしれない。

 が、私からすれば、ざまぁとしか思えない。

 理不尽に私を虐めてきていた人。
 身勝手に婚約破棄してきた人。

 そんな人を可哀想だなんて……思えるはずもない。

 天罰が下ったのだ。
 そうとしか思わない。


◆終わり◆


『警察トップの娘ですが、婚約者に浮気されたのでそれを父に伝えたところ大変なことに!? ……ですが自業自得です。』

「愛してるよ、ナーシァ」
「ありがとうございますブルルさん」

 警察トップの娘である私ナーシァとそこそこ金持ちな家の子息であるブルルは婚約していた。

「今度の週末どこ行く?」
「お出掛けできそうな感じなのですか?」
「うん!」
「そうですか」
「ナーシァ、行きたいところある?」
「そう、ですね……」

 私たちは仲良しだった。
 いや、本当はどうだったのか、は知らないけれど。
 ただ確かに私たちは仲よさげに振る舞い合っていた。

 ……だが、そんなある日。

「やっぱりナターシャは可愛いな」
「ええ~!? ほんとぉ!? 嬉っすぃ~わぁ~!! やったぁ、褒められたぁ~」

 私は道端で見てしまった。
 ブルルが見知らぬ女といちゃつきながら歩いているところを。

「ずっと愛してるよ」
「んもぉブルルったらぁ!!」
「ナターシャも好きでいてくれているかい」
「もっちろぉ~ん! 好きよ、本当に。どこまでも。愛してる。愛おしすぎ。好きぃ!」

 しかもそんな二人は隣り合いながらいかがわしい建物へと入ってゆく。

 愕然としながらも、私はその場面を記録の魔法を使って撮影した。

 ……さて、これからどうしようか。

 もうブルルは愛さない。
 もうブルルを想いはしない。

 でも、ただ切り捨てるだけでは面白くないだろう。


 ◆


「父さん、聞いて」
「どうした? ナーシァ」

 私は彼を守らないことにした。

「ブルルが浮気していたの、他の女といかがわしいところへ……」
「はぁ!!?」
「この写真を見て」
「……ぁ、こ、これは」
「これがすべてよ」
「な……何だこれはぁぁああああぁぁぁぁぁ!! 許せん!! こんなにも魅力溢れるナーシァと婚約しておいて別の女と……許さなぁぁぁぁぁん!!」

 こうして激怒した父は権力を利用してブルルの親の事業を終焉へと追い込んだ。

 その後裏の力を使いブルルを拘束。
 無機質な地下室にて拷問に近いような行為、そして真実を聞き出すと、婚約の破棄を宣言した。

「我が娘を悲しませるとは! 万死に値する! それは絶対に許されることでない! 貴様にはこれから地獄に落ちてもらうぞッ!!」

 ブルルは徹底的に痛めつけられ、そのまま亡くなった。


 ◆


 ブルルとの関係が壊れた時は悲しかったし残念にも思ったけれど、それは不幸の始まりではなく、むしろ幸福な未来への始まりであった。

 あれから三年、私は、父からの紹介で知り合った青年と結婚して幸せに暮らしている。


◆終わり◆


『婚約者に捨てられましたが、数日後良縁に恵まれました!』

「貴様なんかもう要らん! よって、婚約は破棄とする!」

 婚約者ローレニアスはある日突然そんなことを言ってきた。

「パッとしねぇし、自慢にもならねぇ、そんな女なんざ生きてても価値ねぇんだよ! だっはっはは! 貴様のことだ! ま、そういうことだからよ。関係はここまでだ。価値なし女はさっさと消えろー、ってな!」

 しかも心ない言葉までたくさん並べてきたのだった。

 こうして理不尽かつ一方的に切り捨てられた私だったが……その数日後に街中でたまたま出会った資産家の青年に惚れられ愛を告白されて。

 結果、私は、その彼と結ばれることとなった。

 ローレニアスよりも遥かに条件の良い青年。しかも私を悪く言うようなことはしない。心優しい、思いやりのある、そんな人。

 あー、捨てられてて良かった。

 今思うのはそれだけ。

 ちなみにローレニアスはというと、あの後色々活動するも良い相手に恵まれず、やがてそれを苦として自ら命を絶ったそうだ。

 だが、彼に関しては、そんな話を聞いたとしても可哀想だとは思わない。

 だって自業自得だろう?

 捨てたのは向こうなのだから。
 それも身勝手で雑な理由でなのだからなおさら。


◆終わり◆


『突然婚約破棄されましたが、動じませんよ。~さようなら愚かな婚約者~』

「悪いね、ナリニーシア。君とはもうこれ以上関わらないよ。よって、婚約は破棄とする! ……オーケイ? そういうことだから。役立たず女は僕には必要ないんだ」

 婚約者ロージーニアがそんなことを言ってきたのはある春の日であった。

「いきなり何を?」
「婚約破棄する、って言ってるんだよ」
「……本気?」
「もってぃろぅおおぉぉぉん!!」

 ふざけた顔で返してきたロージーニアを見ていたら彼のことが大嫌いになって。

「分かったわ。じゃあ、さようなら」

 私は婚約破棄を受け入れることにした。

 こんな彼とはもう一緒にいたくない。
 ただ素直にそう思ったから。

 こうして、私たち二人は別れることとなったのだが……。

「ロージーニアくん、亡くなったそうよ」
「え!! うそ!? そうなの!?」

 翌日母から衝撃的な報告を受けて、目玉が飛び出すかと思った。

 焦った……。
 もうとにかく焦った……。

 あんな偉そうなことを言って私を切り捨てた彼は、その日の晩に急死したのだった。

 何が起きたんだ……。
 意味が分からない……。

 とはいえ、私にはもう何の関係もないことだ。

 だからどうでもいい。


 ◆


 あれから数年。
 また春が来た。

「おはようナリー」
「今日もいい笑顔ね、タトツ」

 私は今、夫である男性タトツと、幸せに暮らしている。

◆終わり◆
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