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『魔物は敵ですか? いいえ、敵ではありません。たとえ異なる種族であっても友好的に関わってゆくことはできるのです!』

 魔物が多く住むこの国では、魔物と友好的な関係を築く派の人間と魔物は敵であるとして徹底的な排除を望む派の人間がいる。

 私の親は魔物ファームの仕事をしていた。
 それは飼いやすい種の魔物を飼ってそれから得られた乳や卵などを売り稼ぐという仕事である。

 そんな家で育った私は魔物に慣れ親しんでいて。
 私は魔物のすべての種が敵であるとは考えていない。

 しかし私の婚約者となった彼エッグルトタは魔物は敵であると信じて決して疑わない側の人間であった。

 いや、そういう思想なのなら、魔物ファームの娘と婚約なんてするなよ……。

 そんな風にも思うが。
 婚約は彼の強い希望によって成立したのであった。

 ……だが思想が異なる二人が人生を共にできるほど仲良くなれるはずもなくて。

「分からずや! もういい! 婚約なんて……破棄だッ!!」

 やがてエッグルトタはそんな宣言をしてきた。

 彼が望んだからこその婚約だったというのに。

「気に食わないからってそんなことを言うの?」
「うぜぇんだよ! ちっとも話聞いてくれねぇし! お前なんて、もう嫌いなんだよ!」
「……そう、分かった。仕方ないわね。……じゃあそうしましょう」

 こうして二人の関係は終わりへと向かっていくこととなったのであった。


 ◆


 エッグルトタはあの後魔物を殺めることで幸せになれるというとある宗教団体の教えに傾倒していったようで、たびたび洞窟へ行っては罪なき魔物を襲い殺めるようになっていったそうだ。

 しかしそんな悪しき行動にもやがて終わりの時がやって来る。

 北の洞窟へ行った際、ウララという日頃は温厚だが怒らせると非常に恐ろしい魔物を殺めようとしてしまい、反撃として太い腕で殴られ壁に打ち付けられて落命したそうなのだ。

 彼の亡骸はウララによって洞窟の奥に埋葬されたそう。
 しかし場所が場所なので誰もそこへ来ることはできない。

 彼は永遠に洞窟の奥で一人ぼっち。
 親にも、友にも、もう誰にも会うことはできないのだ。

 孤独という刑に処されたも同然である。


 ◆


「タンク洗っておいたよ!」
「あ! ほんと!? ありがとう! 助かる~」
「今日要る日だもんね」
「そうなの! 助かるわ、ありがと」

 あれからも色々あったけれど、良き人と出会え、夫婦で魔物ファームを継ぐことができた。

「ふー。お疲れ様!」
「いつも協力してくれてありがとう」
「いやいや! 夫だし! 手伝うのは普通だよ」

 私は今、魔物ファームの主。

「でも感謝したいの。本当に、いつも、協力してくれてありがとうね。上手く言えないけれど……でも本当に感謝しているの」
「どういたしまして!」
「これからも……よろしくね」
「うん! もちろんだよ! できることは少ないかもしれないけど……なるべく頑張って、力になるからね!」

 両親のサポートも受けつつではあるが何とか上手くやっている。

 魔物ファームの仕事は苦労も多いが楽しいことも多い。
 特に魔物の成長を見守ることができるところなんかは特に楽しく嬉しいところだ。

 私はこれからもこの道を突き進む。

 そして、それと同時に、魔物の良さを少しずつでも世に広めてゆきたい。


◆終わり◆


『婚約者から突然悪口のようなことをたくさん言われたうえ婚約破棄されましたので、幼馴染みを家に招いてみました。』

 婚約者アドレートから突然悪口のようなことをたくさん言われたうえ婚約破棄された。

 なので、その翌日である今日、異性の幼馴染みルレッツを家に招いた。

「誘ってくれてありがとう~。でも大丈夫なのかな~? 僕、幼馴染みっていっても男だけど……婚約者さんに怒られない~?」
「ええ、だってもう婚約者じゃないんだもの」
「婚約破棄されたんだっけ~?」
「そうなのよ! それも急に! ……だからルレッツを呼んでみたの」
「嫌なことがあった時って楽しいことしたくなるよね~」

 自宅にて彼と二人で会うのは数年ぶりのことである。

「取り敢えず、今日はお茶を楽しみましょ」
「うんいいよ~」
「ルレッツ、ハーブティー好きだったわよね」
「うん」
「用意してるわ、五種類も」
「え! すご! おお~、それは楽しみ~」

 気楽に関わることができる彼とのんびりした時を過ごすことで婚約破棄されたショックを緩和したい、という思いがあっての行動である。

「わ~、これ美味~」
「いい味よね」
「ほんとだよ~」
「気に入ってもらえた?」
「好き」
「ああ、良かった。気に入ってもらえたならとても嬉しいわ」

 それからというもの、私たちは定期的に会ってお茶をするようになっていった。


 ◆


「暑いねー」
「今日はアイスティーよ」
「わ! 冷たいやつ!」
「暑がってるだろうなって思って」
「わ~、神だよ~」

 夏が通り過ぎてゆく。
 時の流れというのは本当に速い。

「うわあぁぁぁ、冷たいぃぃぃ、美味しいよこれ~」

 きっとすぐに秋が来るのだろう。

「スイーツも爽やかなものにしているから」
「爽やか?」
「ゼリー!」
「うわわ! ゼリー!? 美味しそうだよそれ~! 神だよ~!!」
「レモンとミントの味」
「うわっ! それ、絶対美味しいやつ!」

 でも、たとえどれだけ時が流れようとも、私たちは常に共にある。

「美味すぎるぅ~!」
「隣の家の奥さんが作ってくれたものよ」
「え! そんな!? 何それ凄い! 凄すぎるよ!! んぁ~、美味しい~!」


 ◆


 あれから数年。
 私とルレッツは夫婦となって穏やかに生きている。

 彼との毎日はとても楽しい。

 そして心地よい。

 ルレッツと共にある時、私はいつも穏やかな心で息をすることができる。きっと昔から互いを知っているからなのだろうけれど、変に気を遣ってしまうことがないのだ。だからこそあまり疲れることがない。

 常にありのままであれる、自由に生きていられる、そんなところが嬉しい。

 そういえば……元婚約者のアドレートだが、彼はあの後数分に一回気を失いそのたびに頭部が上向きに伸びるという奇病にかかってしまい、気味悪がった町長や町民らによって山小屋に監禁されてしまい、拘束されたままで放置され続けた結果飢えて落命してしまったそうだ。


◆終わり◆
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