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8話「崩れ始める国」
しおりを挟むあの一件でコルセリアは死んだ。
それからというもの、アイルは心を病み、一日のほとんどの時間を自室内で過ごすようになったそうだ。
それはまるで、死の前のコルセリアのようで。
城で働く者たちの中には、彼も近く死んでしまうのではないか、と不吉に思っている者も少なくはなかったようだ。
そして、ある穏やかな晴れの日、ついにその日がやって来てしまった――アイルは自ら死を選んだのだ。
彼は自室の窓から乗り出すようにして飛び降り、地面に叩きつけられたことで死亡した。
自死に見せかけた他殺――そういうことも世の中時折あるものだけれど、この件に関してはそういった話ではなかった。なんせ彼の部屋にはもうずっと誰も入っていなかったから。他殺は無理だろう、という結論に至った。で、それによって、アイルは自ら死を選んだ、という事実が認定されたのだ。
それからの国は荒れに荒れていた。
圧倒的だった王族による支配は民の抵抗に遭い徐々に力を弱めてゆき、国そのものが大きく変わってゆく時代へと突入する。
また、私の環境にも変化があった。
世が不安定になり、私が一人で店を営んでいることを心配した両親は、ある日突然店へと引っ越してきた。持っていた家はそのまま所持したままで、しかし、二人も店の方で暮らすこととなったのである。店は三人で暮らすには少々狭いけれど、少し改装したりしてなるべく三人がしっかり収まるような構造にしていった。
だが、不審者に襲われない、という意味では、両親が一緒にいてくれるのはありがたいことだ。
たとえ強者でなくても、一人でいるよりかは安心感がある――だから三人でも生活も悪いものではなかった。
ちなみに、ラヴィールは今も店へよく来てくれている。
「お母さんお父さんとの同居、どうですかー?」
「楽しいわよ」
「へぇーっ、それは憧れます!」
「ラヴィールも気にせず来てね?」
「はいっ! もちろんですっ!」
――そんな風にして最初に親との同居のことを伝えた時は、彼に気を遣わせてしまうかと思っていた。
でもそんなことはなくて。
彼はそれからも遠慮することなく遊びに来てくれた。
また、気さくなタイプである彼は、私の両親ともあっという間に馴染んだ。
「ラヴィールくんて可愛らしい子ね」
「ああ、元気いっぱいだな」
両親はラヴィールのことを悪く言ってはいなかった。
癒やし屋は今日も忙しい。
でも今は両親がいて手伝ってくれるので以前ほどすべてを自力でしなくてはならないということはない。
だから一時期よりは仕事量が減った。
治癒の能力を活かすのは私にしかできないことだけれど、営業にあたり親がやるでも可能な部分もあるので、そこは色々任せている。
アイルも、コルセリアも、もうこの世にはいない。
それであの頃の苦い記憶が消えるわけではないけれど。
でももうほとんどすべて過ぎ去ったことだ。
あれから時が過ぎ、今ではもう、負の思い出は徐々に薄れつつある。
「こーんにーちはっ! オフェリアさん!」
ラヴィールは今日もやって来る。
明るい面持ちで。
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