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1話「王子の婚約者だったけれど」
しおりを挟む私、レルフィアは、国内でも一位二位を争うくらい優秀とされている精霊遣いだ。
その才能は生まれた時から備わっていたもので。
年を重ねるにつれその才能が露わになり、やがて、国から連絡を受けて検査を求められ、その結果最高位精霊遣いであると認定された。
その後色々あってオロレット王国の王子であるレブス・オロレットと婚約した。それは国王の望みでもあって。私がその座を狙って掴んだわけではなく、向こうからそれを望んできていてこうなったのである。
中には、王子の婚約者になった私を良く思っていない者もいた。
ただちょっと精霊遣いなだけの女のくせに、と、裏でひそひそ言っているような者もいた。
けれども私はそんなものに負ける気はなかった。
それに、国王がこれを望んだのだからやましい部分はないので、堂々としていたくて。
だから何を言われても淡々と振る舞うようにしていた。
だが、そのうちにまたそれをあれこれ指摘されるようになり、心ない魔女とか何とか言ってくる人も出た。
無礼なことはしていないはずだ。
ただ冷静に振る舞っていただけ。
けれどもそれすらも批判の材料となってしまっていたのだ。
そんなある日。
「君との婚約、破棄とする!!」
レブス王子は急に大きな声で関係の解消を宣言した。
破裂したかのような突然の大声。
心臓が強く拍動した。
その声の大きさにかなり驚いてしまった。
「聞いたぞ。虐めていたのだろう、実の妹を」
「え……あ、あの、それは一体何の話ですか?」
「妹さんから、ミルキーさんから、相談を受けていたんだ」
「相談、ですか?」
「ああ。ずっと虐められてきた、とな」
ミルキー、彼女は私の実妹だ。
けれども彼女には特別な力は宿っていない。
可愛い花のような容姿は持っているけれど、精霊遣いとしての才能はほぼゼロと言っても間違いないくらいである。
ただ、彼女はその愛らしさと器用さで、ずっと私に嫌な思いをさせてきていた。
親をはじめとする周りの大人を騙して私を悪者に仕立て上げ、私が怒られるようにする――それは彼女の得意技である。
「ミルキーさんはずっと傷ついてきたそうじゃないか。なぜそんな酷いことをしたんだ。妹だろう? 酷すぎるだろう、虐めるなんて」
「虐めてなどいません!」
「信じるものか! 精霊遣いの才能があっても性格が最悪なら共に国を営んでゆくことなどできはしない!」
「どうしてミルキーの言うことだけを信じるのです!」
つい言いたいことを言ってしまった。
本当はもっと控えめにしなくてはならないと分かっていたのに。
けれど、どうしても耐えられなかったのだ。
彼までも妹の味方をするのか!
何も知らないくせに!
子ども時代私がされてきたことなんて何一つ知らないのに!
「彼女のあの瞳! あれが嘘つきのそれだと言うのか!? あり得ない! 彼女は嘘などついていない純粋そのものな目つきをしていた! それに、だ、酷い目に遭わされてきてもなお、姉である君を悪く言うことを躊躇っていたのだ! 可哀想と思わないのか!?」
それでも、レブスの心は私へは向かなかった。
「あの子はこれまでもずっとそういうことを重ねてきたのですよ、私をいつも悪役に仕立てて……」
「やめろ! 悪女! 君は悪魔だ!」
彼はあくまでもミルキーの味方。
私の言うことなど聞かない。
そして少し客観的に考えてみることさえしてくれない。
どうしてこうなってしまったのだろう。
なぜこんなことになってしまったのだろう。
「もう視界から消えてくれ」
「お願いです、話を聞いて……」
「涙なんぞ見せても無駄だ、悪魔の悪女の涙など汚らわしいだけだ」
どうしてそんなことを言うの……。
「この城から出ていけ、レルフィア」
こうして私は婚約破棄された。
そして城からも追い出された。
長く過ごしてきた城から出るのは寂しかったけれど、でもあの嫌な思い出たちから離れられると思えば嬉しさもあって、この胸の内側にあるのは何とも言い表し難い複雑な色だけだった。
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