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3話「一旦国へ帰ります」
しおりを挟む母国へ戻った私は両親にすべてを隠さず伝えた。
「そうか。なら仕方ないな。良いだろう、これからまたここで暮らすといい」
「気にすることはないわよエーリア。嫌な思いをしてまで無理してあちらにい続ける必要はないわ」
父と母がそう言ってくれて、安堵した。
使えない娘だな、なんて言われたらどうしよう――そんな不安も実は少々あったのだ。
本当はあそこで上手くやりたかった。この国のため、この国の未来のために。でも私には無理だった。それはなんだかとても申し訳なくて。この国の足を引っ張ってしまったようなそんな気がして。
「取り敢えず、今日のところは休むといい」
「ありがとう父さん」
「先に部屋に行っていていいわよ、後で食べるものを持って行かせるわ」
「母さんも……ありがとう」
私は恵まれている。
愛してくれる両親を持っている、それだけで何も言えなくなるくらい幸せだ。
だからこれ以上なんて望まない――。
「おかえりなさい! エーリアさん!」
自室へ戻れば、若い侍女が迎えてくれた。
彼女との付き合いは長い。
十年以上前から彼女とは親しくしている。
王女と侍女という関係だが、それ以上に、私たちは幼馴染みであり親友でもあるのだ。
「ただいま。……ありがとう、迎えてくれて」
「いやーびっくりしましたよ! まさか帰ってこられるだなんて! あ、すみません、変な意味じゃないですよ」
「分かっているわ、ありがとう」
「エーリアさんにまた会えて嬉しいです!」
彼女は私がこの国から出ていく時豪快に泣いていた。
顔面はびしょびしょで、変な鳴き声をこぼしながら、それでも頑張って見送ってくれて――ああもうずっと前のことみたいだ、とてつもなく懐かしい。
「これからはまた一緒にいられそうね」
「はいっ!」
「ふふ、これからもよろしくね」
「もちろんですっ。これからも! どうか! 可愛がってください!」
こうして私はまたエミニカにて暮らし始めるのだった。
◆
「こ、婚約希望!? それも、ストラビオスの王子!?」
その日私は父から呼び出された。朝早くのことで珍しいと思いつつ父の部屋へ行ってみたのだが、するとそこで信じられないようなことを告げられたのだった。
――大国ストラビオスの王子オルフォからの婚約希望。
「ああ、意外で驚いていたところだ……」
「何なのそれ!? 何かの罠ではないの!?」
「いや本当にそうなんだ驚きで。しかし冗談ではないようだった。遣いを出してきているあたり真剣な感じだったのでな」
一体何が起きているのか。
まだ理解が追いつかない。
この大陸において一位二位を争うほどの大国であるストラビオスの王子が小国の王女に手を伸ばすなど、目的が読めない。
「だがこれはチャンスかもしれん」
「どういうこと?」
「ここで大国と手を取り合うことができたなら、ある意味、我が国の将来は安泰となるやもしれんのでな」
――所詮私は国のための駒か。
いや、でも、実際そうなのだ。王女というのはそういうものだ、国のためにその人生を捧げる。それが普通なのである。私にだって父が言うことは分かる。そういうものだと習ってきたので理解しているし、一般人のような恋愛や結婚の自由を求めるなんてことしない。
ただ、それでも、どことなく切なさはあって。
王女でなかったならもっと自由に生きられたのだろうか、なんて、今はそんなことを考えてしまっている私がいる。
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