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9話「美味しいお茶」
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「どうぞ、こちらへ」
城に入った私は無口な侍女に案内されて城内の一室へ通される。
その部屋はそこそこ広い部屋だった。
置かれている家具は多くない。
しかし殺風景な感じはしなかった。
清潔かつ綺麗な内装のおかげか空白を魅力的に演出することに成功している。
「ここが……私が過ごす部屋、ですか?」
「はい」
無口な侍女は三十代くらいと思われる見た目の女性だが、とても聡明そうな人だ。
「どうぞ、ご自由に」
淡々とした調子で言うと、彼女はあっという間に去っていってしまった。
いきなり独り……。
またまた寂しい……。
だが今は居場所があるだけで十分だ。
構ってほしいとかちやほやしてほしいとか――そんな贅沢なことを言える身分ではないのだ、私は。
取り敢えずゆっくりしよう。
今はまだ慣れない場所ではあるけれど、とても良い部屋なので、きっとすぐに慣れるだろう。そして慣れてしまえばこちらのもの。慣れさえすれば違和感は消え去るだろうし、そうなれば、後はただのんびり過ごすだけ。
色々あって疲れたなぁ、なんて思いつつ、私は大きな窓の方へ視線を向ける。
窓の向こう側は中庭のような場所だ。
地面には初々しい色をした芝が生えていて、ところどころには木が植わっており、花壇のようなところには様々な色の花が穏やかに咲いている。
葉も、花弁も、日射しを浴びて艶やかに輝く。
その輝きは植物たちの生命の輝きなのだろう――意味はないが何となくそんな風に思った。
それから少しすると誰かが扉をノックしてきた。はい、と返事をして、恐る恐る扉を開ける。するとそこには小ぶりなポットとティーカップが乗ったお盆を手にしている女性の姿があった。
「お、お茶をお持ちしましたっ」
女性と表現するにはまだ若い、どちらかといえば少女と呼ぶ方が相応しい感じのする彼女は、緊張気味な面持ちでハキハキと発する。
「……お茶ですか?」
「は、はい! そうです! エリサ様に、です!」
彼女の背後にはあの無口な侍女が立っている。
どうやらきちんと振る舞えているかどうかを見張っているようだ、鋭さのある目をしていた。
「ありがとうございます。でも、また、どうして」
「殿下がお茶をお出しするようにと……ということでしてっ」
少女はまだ緊張している様子だ。
顔の筋肉に硬さが残っている。
「あ、なるほど、そういうことですね。ディアさんが」
「は、はいっ。そうなのですっ」
「ではお言葉に甘えいただかせていただきますね」
笑顔で答えれば、若々しい彼女は安堵したように頬を緩める。そして室内へと足を進めてきた。それから少しして、緊張が解れてきたらしい彼女は「殿下はエリサ様のことを大層気にかけていらっしゃるようですっ」と言葉を発する。すると後ろに控えていたあの侍女に「余計なことを話さないように」と冷たく注意されていた。
「ではどうぞっ」
「ありがとうございます」
ティーカップを手にする。
瑞々しい彼女が注いでくれたお茶を口腔内へ注ぎ込んだ。
「わ……! とても美味しいです……!」
舌に触れる熱。
広がる味わい。
深みがあり、まろやかで、シンプルながら心柔らかになるような美味しさだ。
「気に入っていただけましたっ?」
「はい、とても」
「良かった! 安心しました!」
軽やかな茶色い髪を揺らす少女はとても愛らしい。
「あの……少し質問させていただいても大丈夫ですか?」
「はいっ」
「よければ貴女のお名前を教えてはいただけないでしょうか」
「へ?」
「貴女とお知り合いになりたいです」
一瞬きょとんとした少女だったが、すぐにこちらの意図を理解したようで。
「リリアンと申します!」
さらりと名を教えてくれた。
「あっ、ちなみにですねっ、こちらのお姉さまはルビーさんっていうんですよ!」
さらには侍女の名まで教えてくれる。
「勝手なことはやめなさい」
……当然注意されていたが。
城に入った私は無口な侍女に案内されて城内の一室へ通される。
その部屋はそこそこ広い部屋だった。
置かれている家具は多くない。
しかし殺風景な感じはしなかった。
清潔かつ綺麗な内装のおかげか空白を魅力的に演出することに成功している。
「ここが……私が過ごす部屋、ですか?」
「はい」
無口な侍女は三十代くらいと思われる見た目の女性だが、とても聡明そうな人だ。
「どうぞ、ご自由に」
淡々とした調子で言うと、彼女はあっという間に去っていってしまった。
いきなり独り……。
またまた寂しい……。
だが今は居場所があるだけで十分だ。
構ってほしいとかちやほやしてほしいとか――そんな贅沢なことを言える身分ではないのだ、私は。
取り敢えずゆっくりしよう。
今はまだ慣れない場所ではあるけれど、とても良い部屋なので、きっとすぐに慣れるだろう。そして慣れてしまえばこちらのもの。慣れさえすれば違和感は消え去るだろうし、そうなれば、後はただのんびり過ごすだけ。
色々あって疲れたなぁ、なんて思いつつ、私は大きな窓の方へ視線を向ける。
窓の向こう側は中庭のような場所だ。
地面には初々しい色をした芝が生えていて、ところどころには木が植わっており、花壇のようなところには様々な色の花が穏やかに咲いている。
葉も、花弁も、日射しを浴びて艶やかに輝く。
その輝きは植物たちの生命の輝きなのだろう――意味はないが何となくそんな風に思った。
それから少しすると誰かが扉をノックしてきた。はい、と返事をして、恐る恐る扉を開ける。するとそこには小ぶりなポットとティーカップが乗ったお盆を手にしている女性の姿があった。
「お、お茶をお持ちしましたっ」
女性と表現するにはまだ若い、どちらかといえば少女と呼ぶ方が相応しい感じのする彼女は、緊張気味な面持ちでハキハキと発する。
「……お茶ですか?」
「は、はい! そうです! エリサ様に、です!」
彼女の背後にはあの無口な侍女が立っている。
どうやらきちんと振る舞えているかどうかを見張っているようだ、鋭さのある目をしていた。
「ありがとうございます。でも、また、どうして」
「殿下がお茶をお出しするようにと……ということでしてっ」
少女はまだ緊張している様子だ。
顔の筋肉に硬さが残っている。
「あ、なるほど、そういうことですね。ディアさんが」
「は、はいっ。そうなのですっ」
「ではお言葉に甘えいただかせていただきますね」
笑顔で答えれば、若々しい彼女は安堵したように頬を緩める。そして室内へと足を進めてきた。それから少しして、緊張が解れてきたらしい彼女は「殿下はエリサ様のことを大層気にかけていらっしゃるようですっ」と言葉を発する。すると後ろに控えていたあの侍女に「余計なことを話さないように」と冷たく注意されていた。
「ではどうぞっ」
「ありがとうございます」
ティーカップを手にする。
瑞々しい彼女が注いでくれたお茶を口腔内へ注ぎ込んだ。
「わ……! とても美味しいです……!」
舌に触れる熱。
広がる味わい。
深みがあり、まろやかで、シンプルながら心柔らかになるような美味しさだ。
「気に入っていただけましたっ?」
「はい、とても」
「良かった! 安心しました!」
軽やかな茶色い髪を揺らす少女はとても愛らしい。
「あの……少し質問させていただいても大丈夫ですか?」
「はいっ」
「よければ貴女のお名前を教えてはいただけないでしょうか」
「へ?」
「貴女とお知り合いになりたいです」
一瞬きょとんとした少女だったが、すぐにこちらの意図を理解したようで。
「リリアンと申します!」
さらりと名を教えてくれた。
「あっ、ちなみにですねっ、こちらのお姉さまはルビーさんっていうんですよ!」
さらには侍女の名まで教えてくれる。
「勝手なことはやめなさい」
……当然注意されていたが。
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