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3話
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瑞穂は届いていたメールを開く。
【今日もお疲れ様。週末、すき焼き行かない? エリナ】
メールの差出人は京極エリナ。
瑞穂の中学時代からの親友で、現在の同僚だ。
エリナは大のすき焼き好きである。
【お誘いありがとう。先週も行ったけど、今週もすき焼きでいいのかな? でも、もちろん参加! 瑞穂】
瑞穂は素早く返信を書いて送信する。そして携帯電話を閉じ、鞄へとしまう。その頃には宰次が席へ帰ってきていた。
「どなたへのメールですかな?」
「エリナに。すき焼きのお誘いが来ていたから、返信を送ったの」
穢れのない穏やかな微笑みを浮かべながら答える瑞穂。
彼女の向かいに座りながら、宰次は言う。
「京極エリナ、ですかな?」
「そうそう」
「なるほど。それで、参加するのですかな?」
「えぇ、もちろん!」
すると宰次は少し不満げな顔をした。
それに気づいた瑞穂は、速やかに提案する。よくこういうことがあるのか、たいして焦っている感じではない。
「もしよかったら宰次さんもどう? 大勢の方がきっともっと楽しいわ」
だが宰次はあっさり断る。
「お構いなく。僕は大勢で騒ぐのは嫌いでしてね。しかも、あの京極とかいう女が苦手なので」
即座に断られた瑞穂は、苦笑しながらお手拭きで手を拭き、中華そばのための箸を割る。そして声をあげる。
「あっ!」
箸を割ったところ、見事なまでに失敗してしまったのだ。
二本の箸が太い方と細い方に分かれてしまっている。割り箸を使った経験があれば分かるだろうが、これでは使い物にならない。いや、使おうと思えば使えるが、不便極まりない状態である。
「まったく。瑞穂はいつも失敗ですな」
「苦手なの……」
「もう八回連続で失敗していますな」
比較的大きな声で言われ、瑞穂は頬を赤くする。
「宰次さん! そんなこと覚えてなくていい!」
「仕方ありませんな。セルフのところからもう一本取ってきてはいかがです?」
「そんな言い方!」
「持ってくれば、僕が割って差し上げるつもりですよ」
いたずらな笑みを浮かべる宰次。
すると、瑞穂はすっと立ち上がった。
「そういうこと。宰次さん、貴方って、意外と優しいのね」
肩を引き上げ笑う瑞穂。
「ありがとう。お箸、取ってくるわ」
最上級の笑みを宰次へ向け、瑞穂はセルフサービスコーナーへと向かう。
暖かな店内には似合わない真っ白な髪が、柔らかくふわりと揺れるのを、宰次は横目で見ていた。ほんの少し、恥ずかしそうな顔をしながら。
【今日もお疲れ様。週末、すき焼き行かない? エリナ】
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瑞穂は素早く返信を書いて送信する。そして携帯電話を閉じ、鞄へとしまう。その頃には宰次が席へ帰ってきていた。
「どなたへのメールですかな?」
「エリナに。すき焼きのお誘いが来ていたから、返信を送ったの」
穢れのない穏やかな微笑みを浮かべながら答える瑞穂。
彼女の向かいに座りながら、宰次は言う。
「京極エリナ、ですかな?」
「そうそう」
「なるほど。それで、参加するのですかな?」
「えぇ、もちろん!」
すると宰次は少し不満げな顔をした。
それに気づいた瑞穂は、速やかに提案する。よくこういうことがあるのか、たいして焦っている感じではない。
「もしよかったら宰次さんもどう? 大勢の方がきっともっと楽しいわ」
だが宰次はあっさり断る。
「お構いなく。僕は大勢で騒ぐのは嫌いでしてね。しかも、あの京極とかいう女が苦手なので」
即座に断られた瑞穂は、苦笑しながらお手拭きで手を拭き、中華そばのための箸を割る。そして声をあげる。
「あっ!」
箸を割ったところ、見事なまでに失敗してしまったのだ。
二本の箸が太い方と細い方に分かれてしまっている。割り箸を使った経験があれば分かるだろうが、これでは使い物にならない。いや、使おうと思えば使えるが、不便極まりない状態である。
「まったく。瑞穂はいつも失敗ですな」
「苦手なの……」
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「仕方ありませんな。セルフのところからもう一本取ってきてはいかがです?」
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すると、瑞穂はすっと立ち上がった。
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