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4話

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 私はこっそりつけていく。

 やがて二人は宿泊所の前にたどり着いた。

 その宿泊所というのが、単なる宿泊所ではなかった。少なくとも、若い男女が二人きりで入っていくようなところではない。婚約者がいる者が入っていくなど到底考えられない、というような種の宿泊所である。

 私はさりげなくカメラを構える。
 宿泊所に入っていく二人の姿をこっそり数回撮影した。

 残念な場面を目にすることとなってしまったのは残念なこと。ただ、証拠を得られたという意味では良かったと思う。これで成果がなかったら嫌な思いをするだけだったけれど、証拠を得られたから、ある意味では嫌な思いをした甲斐があったような気もする。


 ◆


「ただいま」
「お帰りなさい、スカイ」

 数日後、スカイが研修から帰ってきた。
 何事もなかったかのように。

「研修はどうだった? 上手くいった?」
「あ、あぁ。うん。順調順調」

 あくまで研修であると言って、それを貫くつもりだろうか。けれども無駄。私は証拠を手にしているのだから。彼が何を言おうが、真実は既にはっきりしている。言い訳など何の意味も持たない。

「次は来週、また研修が決まったんだ。一泊二日で」
「また?」
「うん。そうなんだよ。いつも悪いね」
「気にしないで」

 私は立ち上がり、彼の方へ真っ直ぐ進む。他所へ視線を向けることはしない。ただ真っ直ぐに彼だけを目指して歩いていく。そして、彼の目の前で止まり、一枚の写真を差し出す。

「これを見てもそう言える?」

 私は鋭い視線を向ける。
 彼は顔を引きつらせる。

「……本当のことを聞かせて」

 もはや引き返すことはできない。それでも私に迷いはなかった。たとえ今あるものが崩れてしまうとしても。それでも、私は彼の行いを見て見ぬふりして生きていくことはできない。今あるものを守るために心に嘘をつき続けることは、私にはとてもできない。
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