ラブドール

倉藤

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来たる日の再会

86 死のふちで愛し合う

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「は?」

 譲はヴィクトルを見上げて首を傾げる。

「錚々たる顔ぶれの乗船客の中に我が国の国王陛下が居ないのに疑問を抱かなかったかい?」
「あ・・・、名簿には載ってたはずだけど」
「うん、だが最終的に辞退した。いち早く怪しい動きを察知した我々は、私を含め、当初は身代わりを立てて参加する予定だった。けれどもそれではべコックの信頼を裏切ることになると私が説き伏せた」
「わざわざ、どうして」
「革命軍はイェスプーン市単体で起こった組織であり、べコック政府がロイシアを欺こうとしているのではないからだ。現にべコックの要人らも粛清リストに入れられているだろう」

 口には出さなかったものの、譲は一目瞭然の顔をしてしまった。

「ふっ」

 ヴィクトルが微笑んで譲の頬を撫でる。

「だがそうは言っても国王陛下当人を参加させるには無謀。ゆえに代替案として王太子のキリル殿下はどうかと名前を挙げた。一日の時間全てで私が付き添い、必ず帰国させると約束をしたうえでだ」

 駄目だ。譲はヴィクトルの手に触れて反論する。

「でも、もはや計画は止まらない。革命は実行される。必ず帰国できるとは言い切れないよ」
「ああ難しいかもしれない。しかしそれで良い。ある人物と取引をしたのだ。多くの上流階級の人間を道連れにする代わりに譲の安全を確保してくれと要求した」
「・・・・・・今なんて言った?」
「譲は革命軍側にいる自分が安全であると思い込んでいるだろう? 譲はアレグサンダー=ムーアの立てた計画の全容を知らない。反逆に際して国がどう動いているかも知らない。けれど教えない。知らなくて良い」

 ヴィクトルは愛の言葉でも囁くように、しっとりと聴かせるような言い方をする。その中身はまるでそうは思えないものだが、譲に最高の愛の言葉が贈られた。

「譲、時が来たら任務を遂行し私を殺しなさい。そうすれば譲は助かる。何も心配しなくてもいい。私が絶好の機会を作る」
「い、嫌だ・・・殺したくない。俺が上手く手引きするから逃げて欲しい」
「既に決まったことだ。私が譲に殺される運命は覆らない。最後に、死ぬ前に譲を抱かせておくれ」
「そんなことしてる時じゃな・・・やぁ、ぁ、止まって、ン」

 ふざけたこと言ってんじゃねぇよとヴィクトルを拒む。何の為に気色悪いアレグサンダーの相手をしてテティスに乗せてもらったと思ってるんだ。
 しかし譲は夢ではない現実のヴィクトルにキスをされて腰が砕けてしまう。

「今夜はたっぷり時間がある。その時が来るまではここで愛し合っていよう」
「な、んっ、はぁ、ちゃんと話をしてくれよ!」
「言葉よりも譲を感じたい。私に残された時間は明日までだろう、猶予はあるが永遠じゃないんだ」

 唇を重ねながら追い詰められ、譲は客室のベッドに押し倒される。
 ヴィクトルは譲の着ていた騎士まがいの簡易鎧を剥ぎ取り、シャツのボタンをちぎって曝け出した胸の先をやわやわと揉んだ。
 誰だってこんな焦らされ方をすれば気持ちが揺れてしまうし、もっとして欲しいと思ってしまう。
 ましてや唇には情熱的にキスを降らせてくるくせに、下半身には絶対に触れない。
 巧みに思考能力を奪うこのやり方はずるい。
 わけがわからなくなるくらい頭をパンクさせてくれる方がずっと親切なのに、譲にちゃんと考えさせて譲自身に同意させるのだ。その導かれた決断はヴィクトルが望んだ答えになる。
 ヴィクトルが欲しくて欲しくてたまらなくなった譲の頭は、ヴィクトルの言いなりになるしかないのか。
 セックスに溺れさせたままこうやって明日に持ち込まれ、あれよあれよという間に舞台は整えられてしまうのかもしれない。
 譲は快楽と苦心の狭間で涙ぐんだ。———説得しないといけない。生きて欲しいとわかって貰わないといけない。

(でも・・・・・・久しぶりで抵抗できない。やめて欲しくない。俺は公爵と肌を重ねていたいと思ってる)

 情けないが、下半身が窮屈になってきた。
 早く脱がしてと腰を浮かしてしまう。
 するりとヴィクトルの手が腹を撫でて腰にまわされる。

「ひああっ」

 譲の嬌声を聞いてヴィクトルが驚き喜んだ。

「お腹をどうしたの?」
「ちが、これは・・・・・・」

 恥ずかしい。言えない。頬が火照り、耳も真っ赤になる。

「ん?」
「夢で」
「夢・・・・?」
「そう」

 譲は言いよどんだ。だがどんな小さな囁き声も聞き逃さないようなヴィクトルの鋭い目線をちらりと見上げた後に観念する。

「公爵とする夢を見てから・・・腹に触られたら疼くようになった」
「ふふ、譲は私を悦ばせるのが上手だね。どんな夢だったか再現できる?」
「は? 無理っ、一人じゃ無理・・・です」
「私がいる。夢じゃなくここに。どうかな」
「う・・・」

 拒めるはずがなかった。
 譲は自身の臍の上に手を置いた。

「ここの一番奥に公爵のが届いてた。そしたら俺、めちゃくちゃ気持ち良くて・・・忘れられなくて」
「そう。可愛い譲。それなら挿れてみようね」
「・・・・・・は、い」

 思考が働かなくなってくる。

「んぁ、義足、外さなきゃ」
「付けたままにしておきなさい。セックスするのに問題はない」
「うん。あと俺のここ、とろとろになりました。夢では勝手に」

 譲は後ろを向いて尻たぶを広げた。

「それはぜひ拝見してみたかった。現実では濡れないから油を使うよ」

 最上デッキの客室にはなんでも揃っているようだ。
 ヴィクトルの手に油差しがあり、細くなった注ぎ口を後孔に差し込む。譲はつぷんと異物が入り込んできた違和感に腰を逸らす、瞬間、粘膜内に直接油が注がれた。
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